300円
聖隷女学院。中高一貫の女子校である。この少子化の時代、共学化に舵を切る男子校、女子校も多い中、学院の経営はすこぶる順調なようだ。
高い学費を支払い、その上寄付金までたっぷりと出してくれる富裕層の子女が多く、毎年定員を遥かに上回る入学希望者が押し寄せる。
つまり聖隷女学院は学校のブランド化に上手く成功しており、そのブランド力に惹かれて学力も高く、経済的にも恵まれた家庭の生徒が集まるという好循環の中にいる。
こういう学校にはやはりどこか華やかで、生き生きとした雰囲気が生まれるものだ。学校全体に活気が漲っている。
アケチとヒロは正門の前にできた列に並びながら、それとなく周囲の様子を観察する。生徒の父母らしき訪問者が多いが、中にはチラホラと生徒の友人らしい来校者もいる。
駅から学校までの道すがら、アケチはヒロに、
「いくら今日のバザーが高等部主催といっても、さすがにバレないか?中等部と同じ敷地にあるんだろう?見ず知らずの顔がうろうろしてると目立つだろうに」
と尋ねてみた。ヒロは涼しい顔だ。
「うん、聖隷はね、姉妹校があるんだよ。京都の本校と兵庫県に姉妹校があるんだ。これ姉妹校の制服なんだ」
「なるほど、そういうことか」
「制服もパッと見はそっくりだけど、一部だけ変えてあるんだ。分かる?」
「袖の桜だろう?」
「うふふ、当たり」
京都本校の制服は左袖に桜の花の縫い取りがあるが、ヒロの着ている姉妹校の袖には鳥があしらわれている。袖のマークで姉妹校の生徒だと分かるようにしているらしい。
列が進みアケチたちの順番が来る。ヒロはポシェットからバザーの招待葉書を取り出し、受け付け係の生徒に手渡す。生徒は葉書に「済」のゴム印を押すと、出店位置と担当クラスの書かれたチラシと一緒に返してくれる。二人はあっさりと入場することができた。
「さて、結構お店がいっぱいあるよ。端から順番に回る?」
「そうだな。まずは一通りざっと見て回ろう」
二人は中庭や校庭に所狭しと軒を並べたテント張りの出店を順番に見て回る。
高等部三学年、各4クラスが出店するだけでなく、教員や保護者、地元の団体も出店しているので全部で二十近い出店が出ている。
食べ物や飲み物を売る店が半分、残りは衣類や食器などの家庭の不用品を売る店だ。
目的は双葉六郎と一緒に写真に写り込んでいた腕の持ち主を探すことだから、基本生徒が運営する12のテントを中心に見て回ればよい。
「あっー ちょっと見ていい?」
ヒロがアケチの腕を引く。
「おい、ここじゃないだろ」
ヒロが立ち寄ったのは古本を売る店だ。店員は高齢のご婦人方が二人。地元の出店のようだ。
「ちょっとだけ」
ヒロは古本を物色し、
「先生、三百円ちょうだい」
「頂戴ってなんだ、頂戴って」
「僕は家でお小遣いなんてもらえないんだよ。その代わり先生の仕事を手伝うからさ。お願い、先生」
上目遣いにアケチを見つめるヒロ。アケチは無下に断ることもできず、財布から五百円玉を取り出してヒロに手渡す。ヒロが買ったのは人気作家流川海瑠のライトノベル。
「ありがとう先生。これ読みたかったんだ。友達が面白いって話してたんだ」
お釣りの二百円を渡そうとするヒロに、
「返さなくていい。綿菓子でも買え」
と言ってからアケチはふと思いついた顔になり、
「ていうか、報酬の一万円は?警部からもらったろう?」
「貯めてるんだ」
「ちゃっかりしてるな」
ヒロは口を尖らせ俯く。
「そんなんじゃないさ。お金を貯めて家を出るんだよ」
アケチは気不味い顔になり、
「すまん。余計なことを言った」
「いいよ。僕の事情は僕だけの事情。分かってくれなんて言わないさ」
ヒロは拗ねた顔でアケチの腰のあたりに肘打ちを入れた。




