コーディネート
「おはよう先生」
ヒロはインターフォンのチャイムを鳴らしたが、鍵が開くのを待たずに自分の合鍵でドアを開け入ってくる。
今日はあちこち破れた青空色のジーンズに長袖Tシャツ姿だ。キャンバスバッグを肩から斜めがけにし、手に大きな紙袋を提げている。
「おいおい、勝手に開けるなって」
アケチは文句をいうが、ヒロは気にした風もない。
「いいじゃないか、約束の三分前だもの。それとも何かまずいことでもあった?エッチな動画見てたとか?」
「何言ってる」
アケチは怒りながらも目を逸らす。ヒロはイタズラっぽい笑みを浮かべる。
「先生、アイロンある?」
「家事なんてしなくていい」
「家事なんてしないよ。何言ってんの。これ、制服にアイロン当てたいんだ」
紙袋を持ち上げてみせるヒロ。アケチはムスッとしたままクローゼットからアイロンとアイロン台を取り出す。
ヒロは紙袋から聖隷女学院中等部の制服を取り出しアイロンを当て始める。
「ふぅん」
アケチは制服を一瞥する。間違いなく聖隷女学院中等部のものだ。着崩れも擦れ跡も見当たらない。誰かのお古という感じでもなさそうだ。どこからどうやって借り受けたのか知らないが、ヒロにはヒロのネットワークとコネがあるようだ。
アイロンを当て終えたヒロは部屋の掛け時計に目をやり、
「先生も着替えてよ。早めに行くほうが空いてて回りやすいしね」
そう言ってセーラー服とカバンを持って洗面スペースへ。
「着替えるよ。覗いたりしないでね」
アケチが怒る前にヒロはペロリと舌を出して扉を締める。アケチはやれやれとため息をついてペットボトルの水を煽った。
十五分ほどして着替えを終えたヒロが出てくる。軽く化粧もしているようだ。
「学校のバザーでめかしこむ必要があるのか?」
尋ねるアケチにヒロがチッチッと指を振りながら、
「これくらいは当たり前だよ、先生。今どきすっぴんの中学生なんていないよ?特に聖隷みたいなお嬢様系の女子校にはね」
普段は前髪を下ろしているヒロだが赤い髪留めを使って額を見せている。薄化粧とはいえ、きちんと顔を作ったヒロは普段よりも大人びて見えた。
名門女子校らしくスカートの丈はそれほど短くない。両膝が顔を覗かせる程度だ。
「先生、着替えてって言ったじゃない」
「え?もうこれで行くけど」
ヒロはあからさまに頬を膨らませながら「もう」とため息をつく。
「そんな格好じゃダメさ。服、どこ?」
「え?何を言ってるんだ?」
「服さ、クローゼットを見せて。僕が選んであげる」
ヒロは言いながらアケチのクローゼットの扉を開ける。
「何なんだ、一体」
「聖隷生の家族のふりをするんだ。ちゃんとした格好しなきゃ」
ヒロはまだブツブツ言っているアケチを余所に服を選び始める。
「なんだ、ちゃんと持ってるじゃない、服」
ヒロが選んだのは三点。白のコットンシャツ。黒の細身のパンツ。明るい紺のジャケットをベッドの上に並べる。
「ほら、着替えて」
「着替えてってー」
モゴモゴと言いながら躊躇うアケチ。ヒロは容赦なくアケチの背を叩く。
「ほらほら、恥ずかしがってないで早く着替えてよ。遅くなっちゃうじゃないか」
「ちょっと向こうへ行ってろ」
「はい、いい歳して照れないでよ。下着チェックも兼ねてるんだから。ほらほら」
アケチは仕方なくTシャツを脱ぎ、素肌にコットンシャツを着る。少しモジモジしながらもジーンズを脱ぎ、細身のコットンパンツを着ける。ヒロは恥ずかしがる様子もなく、腕組みしながらジッとアケチを観察している。
「うん、ちゃんと毎日下着を取り替えてるみたいだね。シャワーも毎日浴びてるみたいだし」
監督官よろしく頷くヒロ。アケチは、
「まったく、母親かなんかのつもりか?」
などとブツブツ言いながら着替えたシャツとジーンズを脱衣所へ持っていった。




