カスタードプリンはお好き?
ヒロの見立ては恐ろしいほどに当たっていた。本当に部屋の様子だけ見て判断したのか俄には信じられず、アケチはヒロを問い詰める。
「なぜそう判断したんだ?どこだ?この部屋のどこに僕の性格が出てるんだ?」
ヒロは満足気に笑う。
「当たった?当たったんだね?」
「教えろ。どこだ?何を見て判断したんだ?」
ヒロはうふふと笑いながら、
「ねぇ、何か甘いものない?お菓子でもつまみながら話そうよ」
「今しがたオーレを飲んだばかりだろう」
そう言いつつもアケチは冷蔵庫の中から缶入りのプリンを取り出しスプーンと一緒にテーブルの上に置く。
「わぁ、イワノフのプリンだ」
ヒロは大喜びで缶の蓋を開けると、蓋の内側についたカラメルをペロペロと舐める。
アケチは種明かしを催促する。
「どこだ?どこを見て判断したんだ?」
「うふふ」
ヒロは楽しそうに笑ってすぐには答えない。プリンを一匙口に運ぶ。
「イワノフのプリンはね、コンビニとかでは売らないんだ。イワノフの直営店か百貨店に行かないと買えないんだよ。あとイワノフの通販サイトでも買える。食べないの?」
アケチは黙ってプリンの缶を開ける。ヒロは何も言わずにアケチが脇に置いたフタを取ると、またペロペロとやった。
「蓋の裏のカラメルソースが美味しいんだよ。行儀悪いのは分かってるけど。ねぇ、食べないの?」
アケチはようやくヒロが二つ食べたいとアピールしていることに気づく。
「まだ手を付けてない。食べるか?」
ヒロはとろけるような笑みを浮かべる。
「ありがとう先生。いただくよ。もし手を付けてたとしても僕は気にしないよ」
ヒロはアケチのプリンを受け取る。
「若い男性にもプリンマニアはいるさ。でもアケチ先生は通販でプリンを買うタイプには見えない。それにああいう女子だらけの店に入って買い物するのは苦手そうだし。つまり先生はこのプリンを誰かに貰ったのさ。この缶タイプは大抵が贈答用なんだ。自分で食べたり手土産として買うならガラスの器に入ったグラスプリンの方を選ぶはずだし」
アケチは黙ってヒロを見つめている。
「先生にこれをくれたのは誰か。そのミステリアスな彼女さん?んー、ちょっと違うかな。それより実家のお母さんとか。そっちかな」
アケチは内心舌を巻いた。ヒロの推理がズバリ当たっているからだ。
「ご実家はこういう贈答品をもらい慣れているんだろうね。つまりはお金持ち。御所大、アケチ、金持ちのキーワードで検索すると、ほら」
ヒロが携帯の画面を見せる。
「この人、どこか先生の面影があると思わない?」
画面に映っているのはアケチの父。アケチ・ユウゴその人だ。
「先生はアケチグループの社長の縁者、多分息子さんかな?」
ヒロは一つ目のプリンを食べ終え、缶の中に残ったカラメルソースを指ですくい取って舐める。舐める時、少し挑戦的な目でアケチを見つめる。
「はじめまして、アケチ一族のお坊ちゃま、アケチ・ショウゴさん。ヒロです。どうぞよろしく」
ヒロは二つ目のプリンに取りかかる。
「まさかこんなお金持ちだなんて予想してなかったけど」
もう二つ目のプリン缶の底を打つ音がする。ヒロはスプーンで丹念にプリンをすくい、アケチの顔をジッと見つめながらソースを舐める。行儀悪く指をしゃぶる音までさせている。
「この部屋、金持ち一族の人間が住むには少し狭すぎるよね。でもね、アケチ先生がなぜこんな狭い部屋に住んでいるかなんて、僕は当てようとは思わないよ。アケチ先生を嫌な気分にさせたくないもの。僕の恩人のアケチ先生を嫌な気分させたりするもんか」
アケチは黙ってヒロを見つめていたが、
「僕にも分かったことがある」
「なに?」
アケチは穏やかな口調で言った。
「お前は昨日から何も食べていない。そのプリンが久しぶりの食事だろう?」
ヒロの表情がスッと冷える。二人は少しの間黙って見つめ合った。




