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探偵アケチの黙視録  作者: 弐乃
落ちる警官
35/51

あなたはこんな人

「まぁきれいな方なんじゃない?男子大学生の部屋にしては」

 机の上や本棚の本を確かめながらヒロが言う。

「綺麗な方って、お前男子大学生の部屋を見たことあるのか?」

「ないよ。でも想像つくもの」

 涼しい顔でうそぶきながら引き出しや戸棚まで開け始めるヒロ。

「おい、いい加減にしないか。他人の家でやりすぎだぞ」

 ヒロは笑顔を見せてペロリと舌を出す。

「ごめん。そんなに怒らないでよ。確認しとかないと怖いもの」

「確認って何をだ?」

 ヒロは口の端に人差し指を当てがいながら、上目遣いで部屋を見渡す。

「そりゃ先生の性格に決まってるじゃない。若い男と一つ部屋で過ごすんだもの。ちゃんと確認しないと危ないじゃないか」

 怒鳴ってやろうかと考えていたアケチは、怒りの矛先を上手く外された格好でヒロを睨む。

「何だ?何を確認したんだ?」

 ヒロは中一とは思えない小悪魔的な表情で微笑む。

「フフ、気になるんだね?」

「教えろ。嫌なら部屋の外に出てろ。二三時間すれば警察官がここに来る。警官に好きなように話せ」

 ヒロは叱られた子供のように萎れた顔になる。

「そんなに怒らないでよ」

「何なんだ?何をどう確認したんだ?」

「教えたら明日も来ていい?」

「ダメだ」

「ケチ」

「ケチじゃない。慎重なだけだ」

 ヒロはそっと膝を折ってその場に正座すると、丁寧に指をついて頭を下げる。

「お願い、先生。僕本当に困ってるんだ」

 ヒロは上目遣いにアケチを見つめる。

「先生の役に立つからさ。掃除でも洗濯でも。ご飯も作るよ。作るの面倒でしょ?」

 どうやらヒロは部屋の様子をざっと眺めるだけで、アケチが案外自炊派であることも見抜いたらしい。

 黙っているアケチに、ヒロはそっと顔を上げ、足を崩す。スカートの裾から細くてスラリと伸びた足が露わになる。

「お願い。先生の好きにしてくれていいから」

 アケチはその場から逃げ出したい衝動に駆られた。

「分かった。何もしなくていいから。そっちのソファでテレビでも見ていろ」

 ヒロがバッと笑顔になる。

「ありがとうアケチ先生!やっぱり先生は思った通りの人だよ!」

「思った通りって、どういう人だ?お前の考える僕はどんな人間なんだ?居させてやる代わりにそれを聞かせてもらおうか。嫌なら出ていけ。後はどうしようとお前の自由だ」

 ヒロはしばらく「えー 言うの?」とか呟きながら思案顔でアケチの顔をチラチラ窺っていたが、やがて小さくため息をつくと、

「魔法は種明かしをしたら魔法じゃなくなっちゃうんだけどな」

「魔法なんて興味ない」

「えー、ミステリアスなタイプの女性が好きなのに?」

 思わずギョッとするアケチ。ヒロはしまったという顔をして、

「まぁいいや。教えるから明日も来ていい?」

「分かった」

 ヒロはスカートの裾を直して正座に戻る。背筋がピンと伸びて美しい座相だ。

「先生は仮面をつけて生きてる人だ」

 当たってるーと思ったが、アケチは顔色を変えずに黙って聞く。

「滅多にその仮面を外すことはない。その仮面の下にはー 怒っちゃ嫌だよ?とても慎重な、臆病と言ってもいい本性隠れてる。簡単に言うと、アケチ先生はコミュ障。人付き合いがとても苦手。内側に大きならコンプレックスを抱えていて、そのコンプレックスを克服するのでなく、できるだけ遠ざかろうとしてる。人の視線が怖いんだね。人から見られること、見透かされることを恐れてる。それからさっきちょっと言いかけたけど、ひょっとして彼女いる?いや、彼女じゃないなぁ。この部屋女の子入れたことないんじゃない?アケチ先生みたいな人、まず彼女できないんだけどなぁ。見た目に惹かれて寄ってくる子はいるけど性格が性格だから恋愛にならないんだ。うーん、どんな彼女かまでは分からないけど、ちょっと変わった人でしょ?ミステリアスなタイプ。素直で開けっぴろげなのに底が全然見えないって感じかなぁ。多分彼女の方から告白してきたんじゃない?」

 

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