夏の空
この話は、主人公の設定が子供という事しかありません。あなたは、どんな子供を想像しますか?
その日、暑い暑い夏の庭先で子供が空を見ていた。
入道雲が好き。
多分この世で一番。
カレーライスよりも、昨日パパに買ってもらった本よりも、いつも乗っている赤い自転車よりも。
あの雲はいつでもああしてこちらを見ている。そして、飽きてしまうと、また別の場所に行ってまた違う場所を見るのだろう。
いろんな物を見たんだろうなぁ。海は見たのかな?山は越えたのかな?遠い国も見たのかな?
昨日の夕方にパパが見ていたニュースでお姉さんが、遠い国で戦争をしていると言っていた。
それでもあの入道雲は、何かを見にその国へ行くのかな?
戦争だから、行ったら、たくさん人が死ぬ所を見るんだろうな。そして一人一人覚えるんだろう。ここに、こんな人がいました。ここで、こんな人が泣いていました。
それを見て、こんな人が笑っていました。
そんな悪い事も沢山沢山見たんだろう。そんな事をたくさん見て来たから、真っ青な空であれだけ威張っている入道雲でも、泣いたりもするんだろう。
でもその涙は、暑さに苦しむみんなを涼しくしてくれる。
時には怒って雷も落とす。とても恐い。だから怒らせてはいけないんだ。
「入道雲さん、これからも、ずっといい子にしてるからね」
そう言うと、入道雲は少しだけ形を変えた。
それは、暑い、とても暑い真夏の日に見上げた空に、一際威張った存在を見つけた、そんな子供の会話だった。