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風船と時計と夜空

掲載日:2006/03/24

 

 掴まる物がなかったから、ただ必死ですがりついていた。

 蛍光灯のコードのような、そんな細い糸でよかったのだ。

それさえあれば、こんなにも必死にすがりつく事なかったのに。

 

 

 空を仰ぐと星が見えた。ちかちかと輝くソレは、手を伸ばせば掴める…。

 ワケねぇ。

「歳は取りたくねぇなぁ…。」

 俺は溜め息をついて、また空を見上げた。

 月が追い掛けてくると怖がったのは、何歳までだったか。


 この世の全てが未知なもので満ちていた。

自分で自分の事が分からずに、怖がっていたものだ。

「自分が宇宙人じゃないかと疑ってたなぁ。」

 自然に口元に笑みが溢れた。

 そんな事あるわけないのに。

「何でそんな事考えたのかなぁ…。」

 子供の考えは理解出来ない。

 昔を思い出しながら、一人にやにやと道を歩く。そんな俺の姿はえらく不気味だろう。

 だが、子供の頃を考えてみたら、不思議と色んな事を思い出して来た。

 始めて一人で寝た夜。

 友達との語らい。

 ザリガニを取りに近所の川まで遊びに行ったし、そこら辺を走り回った。

 鬼ごっこにけんけんぱ。

 新聞紙を丸めてちゃんばらごっこなんていうのも流行ったなぁ。

 

 思い出せば、かなり時が流れたように感じるし、僅か二・三年前の事のようにも感じられる。

 

 俺は生まれた時から、多分ずっとこの町で過ごしている。

 変わらない町並み。見慣れた風景。

 だが確実に町は変わって、人も変わった。

 緩やかに訪れる変化は、俺達にそうと気付かせない。

 それがなんだか寂しくもあり、愛しくもあった。

 少なくとも今は、その変化の過程は昔を振り替えれば思い出せるのだ。

 なら別にいいじゃないか。何を不安がる?

 

 俺は何を忘れた気になっているのだろうか?

 

 気が付いたら、家の前を通り過ぎていた。

 思い出に浸りすぎたのか。考えすぎだ。ぼんやりしている。しっかりしなくては…。

 すぐに踵を返して、歩きだした。

「あんたって、肝心な所でいつもそう」

「え…?」

 どこかから少女の声が聞こえた。俺は慌てて振り返ったが、誰もいない…。

 気のせいだろうか…?

「でも、私はあんたの事。あんたのそういう所。かなり好きよ?」

 気のせいでもいい。

 夢でもいい。

 それでも、なんでもいい。

 この声は…。

「だから、忘れないで。約束だよ。」

 忘れていた。

 あんなに一緒に居たのに。絶対に忘れないと誓ったのに。

 指先に、ふわりと暖かいものが触れる。俺は知らずにそれを握りしめた。

 頬に冷たい物が流れる。

 風の冷たさと重なり、その一筋を痛く感じた。

 

 

 彼女の名前を覚えているかい?

 焼けた肌に、黒く艶々とした美しい髪。

しかし、生まれもってのくせっ毛で、それが嫌だと。何度も口にしていたのを覚えている。

 だが俺は、その髪が好きだった。

 からかうようにその髪を触ると、ふくれたように彼女は頬を膨らませた。

 そしてすぐに微笑むと、頬を赤くして殴りかかってきた。

「気にしてんだからやめてよっ!!」

 殴られた頬が痛かったが、それでもやめたりはしなかった。


「どうして忘れてしまったかなぁ?」

 いつも一緒に居たね。

 好きとか、愛してるとか、そういう気持ちはよく分からなかったけれど。あの時君に感じたこの気持ちはそれに近かったんだと思う。


「大きくなっても一緒にいようね」


 なんの保証もなかったけれど、子供心にそう約束した言葉に嘘や偽りはなかった。あたりまえみたいに毎日一緒にいたものだから、大きくなってもずっと一緒にいると思っていた。


 自然と二人でいつも遊んでいた公園に、辿りついた。時計を眺めたら21時をまわっていた。


 いつまでも一緒に居たかったなぁ。

 いつかの4月。桜満開の公園で、泣きながら君から別れを告げられた。

 大丈夫だよ、泣かないで。絶対また会えるから。

 それは叶えられてはいないけど。

「こんな所でなぁにしてんのさ?」

 一人感傷に浸っていた俺に、恋人が声をかけてきた。

「べっつに」

 俺は笑って彼女を見つめた。

「なんだよ、それ。」



 あの時君は、俺が一人になると言って泣いていたね。

 大丈夫だよ。

 今はもう大丈夫になったから。一人じゃないから。君が居なくて寂しいけど、でも一人じゃないから。



「つうかお前こそ何してんだよ。」

「…それがねぇ、不思議なのよ。」

 彼女はいささか眉尻を下げて頭を掻いた。

「私にもよく分からないんだけど…。」

「え?」

 彼女は俺の正面に来て、にんまりと笑いながら俺を見上げた。

「急に会いたくなっちゃったっ…じゃあダメ?」

「…まったく。」

 恥ずかしい事を。

 それでもそう言ってくれた事が嬉しくて、彼女の手を取る。

「帰ろっか。」

「そうね。」


 あの子は元気だろうか?

 おそらく俺の初恋で、ずっと一緒にいられると思ってた。ずっと一緒にいると思ってた。


 君に会いたいんだ。


 その時君が一人じゃないといい。

 想い出話を沢山しよう。

 聞い欲しい話が沢山あるんだ。聞きたい話が山程あるんだ。沢山話をしよう。

 会えたなら。


 風が吹いて、桜の花びらが空に舞った。




去年の暮れに提案された三つのお題にて。遅くなりましたが…(汗)


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― 新着の感想 ―
[一言]  どうも、でん助です。  作品全体に感じるセピア感と、主人公の心情が重なってなかなかに哀愁を感じました。  主人公は初恋の彼女を忘れられないんですかね。女々しい感じもしましたが、初恋は忘れ…
2008/04/28 16:16 退会済み
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