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人形探偵 ~その人形、死体の匂いを嗅ぎ分ける~  作者: 卜部ト書
第1話 死の筐体

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4.魔法と魔女

 この世界には、一般には知られていない「技術」がある。

 それは『魔法』と呼ばれるものだ。


 もっとも、魔法を魔法だと認識している者はほとんどいない。不可解な出来事は、都市伝説や怪談、あるいは単なる勘違いとして片づけられてしまうからである。現にニュース番組では、今回のエレベーター事件に関して、数々の有識者がさまざまな推論や考察を述べていた。その中には不況の現代社会を危惧した政府が、近々戦争を企てようとしており、そのために開発された新種のガス兵器が、事故か何かで流出したのだ――という、とても想像力豊かな意見まで含まれていた。まあ結局、ただのガス事故説に落ちつきそうではあるが。


 だがそれは実際には違う。それらはすべて、この世界のどこかに存在する「超越した技術」が現実へ滲み出した痕跡なのだ。


 そして、その痕跡を残す者たちこそが――『魔法使い』である。


 現代における魔法は、生まれつき授かる特殊能力ではない。学び、訓練し、習得する「技術」だ。魔法陣を描き、魔法式を組み立て、触媒となる魔導具を駆使し、呪文を詠唱する。複数の条件を組み合わせることで初めて魔法は成立するという。


 そのため魔法使いは超能力者というより、特殊な学問や工学を修めた技術者に近い。もちろん、杖を振って何でも思い通りにできるわけではない。瞬間移動することも、死者を蘇らせることも、世界を滅ぼすこともできない。


 魔法が可能にするのは、もっと小さな「奇跡」だ。


 物理法則をわずかに歪める。人の認識に微細な影響を与える。確率の流れをほんの少しだけ傾ける。それは現代科学では説明できないが、決して非合理ではないもの。

 かの有名なSF作家であるアーサー・C・クラークの三大法則のひとつ、『高度に発達した科学技術は、魔法と見分けがつかない』という言葉があるが、「現代の科学技術より高度に発達したものが魔法」というイメージだと、りんごさんは言っていた。


 そして魔法使いたちは、その力を善にも悪にも利用する。中には犯罪に手を染める者も少なくない。まあ、いくら科学や技術が発達しようと、それを使う人間自体の能力や人格が向上するわけではないのだから当然と言えるが――包丁を料理に使う者もいれば、殺人に使う者もいるようなものだ。それに、人は突如として強大な力を手にしたとき、より強大な存在を打ち倒す者より、弱者をいたぶることに執心する者の方が圧倒的に多い……。


 以前まで、ぼくにとって魔法とは夢やファンタジーの領域だったのだが、この数ヶ月間でその想いはだいぶ覆されてしまった。魔法が使える特別な人間になれたからといって、人間性まで特別になるわけではない。それどころかむしろ、人間というものは、本人の資質以上の権力や報酬を与えてしまうと傲慢・強欲になってしまい、さらなる欲望を求めるために悪事を繰り返してしまうそうだ。そして、それを助長しているのが魔法なのだった。


 そう思うと、魔法というのは案外夢がないなと、ぼくは思った。


 ちなみに、犯罪に手を染める魔法使いの動機は実にありふれている。金銭問題。嫉妬。怨恨。性的関係。出世争いと普通の人間となんら変わらない。だからこそ厄介だった。魔法使いたちは普段、その素性を隠して生きている。学校の教師かもしれない。会社員かもしれない。政治家や芸能人の中にもいるかもしれない。


 あるいはそう、あなたの隣にも。


 世界のあらゆる場所に、魔法使いは紛れ込んでいる。

 だが一つ、忘れてはならない事実がある。

 魔法は「技術」だ。技術である以上、必ず「誰か」が教えている。では最初に魔法を伝えたのは誰なのか。


 魔法使いたちの師。

 魔法という技術の起源。


 それこそが――”魔女”と呼ばれる存在である。


 ”魔女”は膨大な魔法知識を有し、その身には尽きることのない魔力を生み出す特殊な『心臓』が宿っているという。

 見た目は人間と変わらない。だが、その本質は明らかに人ではない。常人を遥かに凌駕する身体能力。数百年、あるいは数千年にも及ぶ寿命。そして未だ解明されていない起源。彼女たちは人類に魔法を与えた存在でありながら、その正体は誰も知らない。まるで人間という皮を被った、別種の生命体。


 あるいは『化物』。


 そんな”魔女”を、りんごさんはワケあって探しており、魔法絡みの奇妙な事件に出くわしやすい探偵業を営みはじめた――というのが、ぼくが彼女から聞いている情報である。彼女が”魔女”を追っている理由や彼女自身のルーツなどは、何も聞かされていないし、こちらから訊ねたことも一度もない。何度も言うようで悪いが、あくまでぼくたちは依頼人と探偵という関係性なのである。それに、人間誰しも知られたり探られたりしたくない事情もあろう。不用意に近づくということは他人のタブーに踏み込むことにもなるし、普段から厄介事に巻き込まれているぼくは基本的に事なかれ主義のため、知らずにいれるのであれば知らないままでいいとも思っているのだった。


 それにぼくにも、知られたくない事情はある。


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