↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
28/30

アパートの最終お掃除④

「うん!元気にバイバイできるよ!」

健太くんは小さな手で目元をゴシゴシと拭うと、握りしめていたミニカーをギュッと胸に抱きしめた。

「ぼくね、ママが泣いてるの嫌だったの。ぼくがニコニコバイバイしたら、ママ元気になってくれるよね?」

刹那さんに元気な声でそう問いかけた。

「ええ!もちろんですぅ!絶対になりますよぉ。お母さんにとって、健太くんの笑顔が一番の宝物なんですからねぇ!」

刹那さんが鼻をすすりながら、優しく健太くんの頭を撫でた。 

健太くんはニコニコ笑って頷いた。


健太くんはお母さんの背中へトコトコと歩み寄る。

そして、その小さな手を、泣き続けるお母さんの背中にそっと重ねた。

やっぱり手はすり抜けてしまうけれど、健太くんは一生懸命、大きな声でお母さんに呼びかけた。

「ママ! ぼくね、お引越しするの! お星様のところへ行くんだよ!」

その時⋯⋯

お母さんの肩が、ピクッと跳ねた。

声が届いたわけではない。けれど、冷たかった部屋の空気が、ふっと温かい風に包まれる。

⋯⋯

「ママ!ぼくを産んでくれてありがとう! 幸せだったよ!ママのごはん、だいすきだったよ! ママとお出かけしたこととか楽しかった!ママ大好き!!

だからね⋯⋯ママ、もう泣かないで? ぼく、ずっとママのこと応援してるからね!忘れないよ!」

健太くんが満面の笑顔で叫ぶと、ポロリとお母さんの膝の上に「何か」がこぼれ落ちた。


それは、健太くんがずっと握りしめていた、小さなミニカーだった⋯⋯

健太くんの強い「想い」が奇跡を起こしたのか、その手から零れ落ちたミニカーが、確かにお母さんの膝の上に重みとなって届いていた⋯⋯。

「⋯⋯え?」

お母さんが息を飲み、膝の上に落ちたミニカーを拾い上げた。

今まで誰の言葉も聞こえていなかったお母さんが、震える手でそのミニカーを抱きしめる。


「⋯⋯健太? 健太なの⋯⋯? そこに⋯⋯いるの⋯⋯?」

お母さんはそう言って健太くんがいる場所を見つめる。

「うん!ママ! ここにいるよ!バイバーイ!」

健太くんが元気に手を振ると、彼の体がキラキラとした温かい光の粒になって、ゆっくりと空へ舞い上がり始めた。

「あ⋯⋯ありがとう、健太⋯⋯! ママ、頑張るから! 元気でね、健太⋯⋯っ!」

お母さんは涙を拭い、仏壇の写真に向かって、しっかりと微笑んで手を合わせた。



「美鈴さん⋯⋯見ましたか? 届いたんすよ⋯⋯健太くんの想いが⋯⋯っ

あぁっ!掃除機で吸い忘れました〜。まぁたまにはいいですかねえ!」

刹那さんがボロボロと大泣きしながら私の隣で呟いた。

光の中に消えていく健太くんを見送りながら、私の胸の奥も、すーっと晴れ渡っていくのが分かった。


⋯⋯あぁ、そうか。想いを届けるって、こういうことなんだ⋯⋯

その時、ルーク社長が私の隣に立ち、そっと肩を叩いた。

「美鈴ちゃん。君の最後の『お引越しのお手伝い』、見事だったよ」

ふと自分の体を見ると、私のからだを光の粒が優しく包み込んでいた。

「え?私も消えちゃうの?」


「大丈夫だよ一度事務所に戻ろう。」

ルーク社長は私の手を引いて歩き出した。


車へ向かって歩きながら、私は何度もアパートを振り返った。

お母さんの泣き声はもう聞こえない。きっともう大丈夫。

健太くんの想いは、ちゃんとお母さんに届いたんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。