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アパートの最終お掃除①

ごちそうさまでした、とお皿を片付けようとしたけれど、刹那さんに

「いいからいいから! 美鈴さんは準備してきてくださぁいっ!」

と半泣きで押し切られてしまった。ルーク社長の手料理を食べた後の刹那さんは、いつにも増して腰が低い。

自分の部屋に戻り、身支度を整える。

あ、あのつなぎは着ないでね!可愛くないから!ってルーク社長が言うもんだから⋯⋯

動きやすい服装にした。

あとは、お仕事の必須アイテム入りのウエストポーチをつける。

うん!いい感じ♪


「お仕事かぁ……」

昨日の現場のドタバタを思い出して、少しだけ肩をすぼめた。

怪奇現象とか、幽霊とか、怖いこともおおいけど。

不思議と『怖い、逃げたい』とは思わない。

お仕事向いてるのかな?

やっぱり

刹那さんのおかげなのかな〜?

頼りなく見えて頼りがいあるし。

ルーク社長も不思議な安心感あるし。

そんなことを考えながら

階段を下りて、リビングの隣、事務所としている部屋へ向かう。


「あ!支度できた?」

ルーク社長はそう言って私の所へ来た。

「はい!」

「あ!ちょっとごめんね」

ルーク社長は私の首にかかるネックレスに触れた。

「あ。また色が変わってますね⋯⋯」

確か、少しずつ色が変わるんだよね。刹那さんが言ってた。

「うん。でもちょっと変わりすぎかなぁ?」

見ると黒っぽくなっていた。

「本当だ。結構濃い色になってる⋯⋯」

私がネックレスを見てつぶやくと。

「ちょっと、ごめんね〜」

ルーク社長はそのネックレスを握りしめる

フワっと何か力?が加わる。

その瞬間⋯⋯

え?!

「色が⋯⋯」

黒っぽかったのに、元の透明に変わっていた。

「んふふ。元通り〜。」

ルーク社長はニッコリ微笑んだ。

「これでよしっ!」

ルーク社長は満足そうに手パンと叩いた。

「え、ルーク社長⋯⋯今の、何ですか? マジック⋯⋯?」

「内緒〜。さ、刹那が車回して待ってるから、行くよ!」

ルーク社長に促されて事務所の玄関を出る。

  


「今日はどこに行くんですか?」

車に乗り込んで尋ねると。

「ん?昨日のアパート」

え?

また?!

私の前住んでいたアパートは⋯⋯

幽霊さんだらけみたいなんだけど⋯⋯

今日もなんだ? 

とんでもない幽霊の量だよね⋯⋯あのアパート


「でも⋯⋯あと⋯⋯住んでいるとしたら、1階にママと息子さんの親子と、その隣?にあまり見かけないけど、会社員っぽいおじさんが住んでますよ?」

私が思い出しながら答えると。

「あ、そのオジサマの方は、ナマモノですねぇ♪」

刹那さんが車を運転しながら答えた。

そうなんだ⋯⋯

え?じゃあ⋯⋯あの親子は⋯⋯

「行ったらわかるから。まぁその時にね〜」

ルーク社長は私の隣でフワっと笑った。



アパートの1階101室ドアの前に、小さな男の子がちょこんと屈み込んでミニカーを走らせていた。

朝早くによく見かけていて、ちょっと気になってたんだよね。

時々声かけられてお話したこともある。

でも元気にいつも

「おねーちゃんバイバーイ!」

って言ってくれてたから。気にしてなかったけど。

たしか、健太くんっていってたかなあ。


私は健太くんに歩み寄る。

「おはよう、健太くん。朝早くから元気だねぇ」

声をかけると、健太くんは顔を上げて、ぱあっと笑顔になった。

「あ! お姉ちゃん、おはよう!お姉ちゃん!引っ越ししちゃったの?最近見かけないから〜」

「うん。そうなんだ〜。

健太くん、お母さんは? もうお仕事行っちゃったの?」

私は健太くんの目の前にしゃがんで尋ねた。

「ううん。ママ、お部屋にいるよ。」

健太くんはミニカーをぎゅっと握りしめて、困ったように首をかしげた。 

どうしたのかな?悲しい顔だった。

「あのね⋯⋯ママね、ぼくが『ママ、お腹すいた』って言っても、ずっとお写真見て泣いてて、お返事してくれないの⋯⋯」


「えっ……」

胸が、ちくっと痛んだ。

もしかして⋯⋯

「お姉ちゃん、ママに『元気だして』って言っておいてくれないかな? ぼくが言っても、聞こえてないみたい⋯⋯」

健太くんはそう言って、無邪気にコロコロと笑った。

もしかして⋯⋯幽霊さんは⋯⋯ママなのかな⋯⋯

それならそれってすごく悲しい話⋯⋯

私はなんて言っていいか分からなくなってしまった⋯⋯

「うん⋯⋯わかった。後でお母さんと話してみるね」

私が健太くんの頭を優しく撫でた。


「――美鈴ちゃん。むやみやたらに触れたらダメ。」

後ろから、ルーク社長の静かな声がした。

振り返ると、ルーク社長と、その後ろで滝のような汗を流しながら気まずそうに目を泳がせている刹那さんが立っていた。


「ルーク社長、刹那さん。あの、101号室のお母さんが⋯⋯もしかして」

私がルーク社長に尋ねると。


「ねえ、お姉ちゃん⋯⋯」

「ん?」

健太くんは、まっすぐな目で私を見つめて言った。

「なんでお姉ちゃんは僕を触れるの?」

「え?」

え?どういうこと?

健太くんは首を傾げて、無邪気に笑った。

「⋯⋯あ、そっか! お姉ちゃんも!『普通じゃない』んだぁ〜」

――ドクン。

心臓が、大きく跳ねたような気がした。

え?

その時

「あ!美鈴さん!お仕事〜!お仕事〜!はいはい、健太くんちょっとすいませんねえ。まったく、子どもはストレートですからねぇ〜」

刹那さんが慌てて健太くんの前に立つ。

「ほらほら、健太くん! ミニカーかっこいいねぇ!素敵です!! でも社長とお姉さんはちょっとお仕事の話があるから、向こうで遊んでてくれますかねぇ〜っ!ね!?」


刹那さんが必死な形相で割り込んできた。

いつもと違って早口にまくし立てる刹那さん。

滝のような汗をダラダラと流しながら、大きな体を縮めて健太くんと私の間を遮るように立ち塞がる。

その姿はあまりにも不自然で、焦りが見え見えだった。

「刹那さん⋯⋯? なに慌ててるんですか⋯⋯?」

私が声をかけると、刹那さんはビクッと肩を跳ね上がらせ、ロボットみたいなぎこちない動きで振り返った。

「あ、いやいやいや! 慌ててなんてないですよぉっ! 全然! ほら、やだなぁ~。むふふふふ。

今日の現場は時間厳守ですから! ささ、美鈴さん、社長、101号室のお母さんのところへ挨拶に行きましょう! はいっ!」

101号室のお母さんが⋯⋯幽霊さんなのかな⋯⋯。

そう思っていた私だったけれど、刹那さんの焦りようと、健太くんの言った言葉が、なぜかずっと胸の中で不気味に引っかかっていた。

ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます!

『アパートの最終お掃除』編で、美鈴の真実やルーク社長たちの思いが明かされ、物語はいよいよ怒涛のクライマックスへと向かっていきます!


「続きが気になる!」「頑張れ美鈴ちゃん!」と思ってくださった方は、ぜひ星★や応援コメントでパワーを送っていただけたら嬉しいです!


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