仕事前のひと息
「社長おぉ~!」
朝から刹那さんの声がする。
何だ?と思って慌てて着替えて部屋を出て、声のした方へ向かうと。
ルーク社長が台所で可愛いエプロンをして料理をしていた。
その後ろで刹那さんがオロオロしている。
「刹那さん?どうしたんですか?」
私が声をかけると。
「あぁっ!!美鈴さぁん!しゃ、社長が!!!」
え?
うんと⋯⋯フライパン持ってるだけじゃない?
「ルーク社長がどうしたんですか?」
「美鈴ちゃん、おはよう!」
ルーク社長は可愛いクマさんの柄が入ったフリフリのエプロンを着けたまま、くるりと振り返ってニコニコ顔で手を振った。
あ⋯⋯クマさんだったんだ。可愛い。
フライパンの中では、パンケーキだ!
きつね色にトロトロのふわっふわに仕上がっている。甘い香りが漂う。
「あっ、おはようございます! ⋯⋯あの、ルーク社長、お料理されるんですね?」
「うん! 僕ね、朝はちゃんと食べたい派なんだ〜。今日は気合を入れて、特製ふわふわパンケーキ!」
ルーク社長はご機嫌でフライパンをトントンと揺らし、お皿に優しくのせる。
そして、上から粉砂糖を振りかけた。
「わあぁ⋯⋯! すごい! お店のみたいです!」
思わず拍手してしまう私。
「フルーツもあるからね?フルーツもお好みで〜のせてぇ〜」
うっわぁー!もうお店のステキパンケーキだよお〜!!
でも、隣の刹那さんは顔を蒼白にして滝のような汗を流している。
「美鈴さん! 感動してる場合じゃないですよぉぉ! このお方が自らフライパンを握って料理をつくるなんて⋯⋯天変地異の前触れか、それとも誰かの寿命の灯火が消える合図⋯⋯!」
「ええっ!? そ、そうなの⋯⋯ひぇっ!?」
「ひどいなぁ、刹那。僕はただ、美鈴ちゃんの入社祝いと、昨日の現場のお疲れ様会を兼ねて朝ごはんを作ってあげようと思っただけなのにさぁ」
ルーク社長は可愛らしくぷくっと頬を膨らませた。
「⋯⋯子どもの姿でそれをやると⋯⋯悪いことしてるように見えませんねぇ⋯⋯」
刹那さんは小さくつぶやいた⋯⋯
「さ、美鈴ちゃん! 冷めないうちに召し上がれ♪」
「え、あ、ありがとうございます⋯⋯!」
渡されたお皿には、見るからに美味しそうなふわとろパンケーキ!
フルーツが綺麗に盛り付けられている。
「刹那の分もあるよ〜。食べないと⋯⋯どうなるか分かってるよね?」
「ひえぇぇっいただきます!!」
ルーク社長の笑顔の圧に押され、刹那さんと私は並んでテーブルにつき、フォークを手にした。
一口、口の中に運ぶ。
ふわっ⋯⋯としゅわっと解けて、濃厚なバターと優しい甘さが口いっぱいに広がっていく。
「⋯⋯⋯⋯美味しい!!」
なにこれ! 口の中で消えちゃう!ふわふわだよぉ〜。トロトロで飲み物か?だよ!!!!
「でしょ〜! 僕特製のレシピなんだから!沢山あるからね!おかわりしてね?卵のせたおかず系のもあるよ〜!」
ルーク社長はエプロンのポケットに手を突っ込んで、得意気に胸を張った。
隣を見ると、刹那さんも恐る恐る一口食べたところで固まっている。
「どう? 刹那。毒でも入ってた?」
「い、いえぇ⋯⋯めちゃくちゃ美味しいですぅ⋯⋯悔しいくらいに⋯⋯」
「あはは! 悔しがる必要ないじゃない♪」
ルーク社長は嬉しそうに笑うと、自分の分のお皿を持って私たちの目の前に座った。
「あ、あの⋯⋯ルーク社長。本当に天変地異とか起きないですよね⋯⋯?」
私が念のため聞いてみると、ルーク社長はフォークをくわえてニヤリと笑った。
「ん〜? どうだろうねぇ。でも、今日はこれからお仕事だけどね♪」
「えっ?お仕事ですか?」
「そう。だからしっかりエネルギー補給しておいてね、美鈴ちゃん」
ルーク社長は可愛らしい顔でニッコリほほ笑んだ。
「あ。刹那〜後片付けはやっとけよ?」
可愛らしく微笑むルーク社長。
「はははぁ〜!!かしこまりましたぁぁぁあ」
刹那さんは慌てて頭を下げた。




