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裸の河童にしか発情できないのってやっぱりどこかヘンですか?  作者: 沖田 了


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第2話 ②

二限と三限は空きコマだった。

少し体調が回復してきたので、気持ちを落ち着かせるために弓を引きたい気分になった。


管理棟で弓道場の鍵を借りようとしたら、既に貸し出し中となっていた。使用者の名前を見て少し驚きつつ、弓道場へ向かった。


弓道場は、大学の敷地の北のはずれにある。

近づくと、ドス、ドスという矢が安土に当たる音が聞こえてきた。

普通矢が的に中るとパン!という気持ちのいい音が響くのだが、安土に刺さる音だけが響くという事は的を外しまくっているのかあるいは……


「失礼します」


矢が放たれ、次の射に入る前に挨拶しながら道場に入る。

道場ではジャージ姿の小柄な女の子が身の丈よりも大きな和弓を持って胴造りの姿勢に入っていた。

小さな体に似合わない大きな胸が、胸当てに押し潰されている。


小柄な女の子は、洗練された動きで和弓を打起し、ゆっくりと引いてくる。

それなりに重たい弓を使っているはずなのに、体のどこにも無駄な力が入っていないように見える。

弓に番えた矢が口につくかつかないかと言った位置で止まる。

そのまま数秒、まるで時間が止まったかのように静止し矢が離れる。

放たれた矢は一直線に的紙が貼られていない的の真ん中に吸い込まれていく。

ドス

的紙が貼られていないので。安土に刺さる音だけが響く。

今刺さった矢と同じように窓枠の内側に刺さった矢が合計4本。的枠の外側には一つもなかった。


俺は次の矢を手に持っていないことを確認してから声をかけた。


「調子いいみたいだな日岡」


「先輩、いつ来たんですか?私の射を黙って覗き見なんてそういう趣味なんですか?

 道場に入る時はちゃんとは挨拶してください」


「いや挨拶はしたよ。それもかなり大きな声で。

 それに気がつかないって、相変わらずすごい集中力だな」


話しながらリュクを置き、準備運動を始める。

背中を伸ばすと気持ちがいい。まるで昨日長時間拘束されてたかのように体がバキバキだからなおさらだ。


「うぁー効く」


「何ですかそのおじさんみたいな呻き声

 それに何だかお酒くさいですよ」


日岡雫は俺を毒舌で刺しながら

「入ります」という掛け声と手を2回打ってサンダルを履いて矢道へ降りる。

たった二人であっても矢道に入る時の合図を怠らないのは、弓道部に染みついた所作だ。

日岡の後ろ姿を見送りながら自分の体を嗅ぐ。


「そんなに匂うか?シャワーも浴びて歯も磨いたんだけどな」


歯磨きに関しては吐くたびにやっているので、かれこれ5回は磨いているはずだ。

何度自分で匂ってみてもやはり分からない。

匂いの件は諦めて、道場の奥に積まれた大量の的枠の中から形のいいものを選んで取る。

的枠を持ったまま棚に移動し、今度は的紙とハサミとテープを取り出す。


的紙に切り込みを入れ、円筒状の的枠に貼り付けていく。

この時、的紙の張りが弱いと中った時の音が悪くなるので、的紙の対角線上を引っ張りながら丁寧に貼っていく。

綺麗に貼ろうとするとそれなりに集中力と力を使う作業だ。


一つ貼り終えると的紙が破らない程度の力で弾く。

パンッと、小太鼓を叩いたような小気味のいい音が響く。


「先輩、そんなのは後輩に任せてください」


そうこうしていると、矢を回収した日岡が帰ってきた。


「そうは言っても目の前の後輩は的紙のない的で練習しててあまりにも不憫なものでさ……」


「今週は男子の担当なんですよ。

 それなのにこの前の団体練のあと合コンがあるとか言ってみんな帰っちゃって……

 古い的紙を外すまでは私がやりましたけど、新しい的紙まで私が貼るのは業腹なので」


「アイツらか……

 分かった。俺からも部長に話しとくよ。

 腕もいいし気のいい奴らだけど、団体の役割を果たせないんじゃよろしくないからな」


一年生は男子が五人、女子は日岡一人

全員高校時代は全国に出た経験があるが、真面目で練習熱心な日岡と、キャンパスライフを謳歌することを一番に考えていそうな男子達との間には少し溝がある。

今年のインカレには欠かせない戦力なので、何とか上手くやって欲しいものだ。


「とりあえず二つ作ったから的交換してきてもらっていいか?

 巻藁やっておくからこのあと競射しようぜ」


「好きですね

 でもいいんですか?高校時代の、それも私が初心者だった時に作った貯金を食い潰して今や私の三百二十一勝三百二十二敗五引き分け。

 今日私が勝てば五分になりますよ?

 今日は二日酔いで本調子じゃなかったんだ、なんて言い訳しないでくださいよ?」


「よくそんなの覚えてるよな」


日岡と出会ったのは高校二年生の春。

あの時は、弓道部に小学生が迷い込んだと勘違いし、職員室に連れて行こうとして一悶着あったっけ。

高校卒業後は連絡をとっていなかったので、大学の弓道場で再会した時には驚いたものだ。


「忘れませんよ。

 『俺に勝ち越したら何でも一つ言うとこを聞いてやる』

 忘れたとは言わせませんよ?」


日岡は俺の真似をしながらそう言った。


「それいつも言うけどほんとに俺が言ったのか?

 まぁいいけどさ」


日岡が的を設置しに行ったので、俺は自分の弓をとって弦を張る。

左手で握り皮を握る。

使い込んだせいで親指のあたりが凹んでいる。

もうすぐ新しいものに交換しなければいけないが、今が一番手に馴染む。


弓を握っていると、昨日までの非日常から日常に戻って来れる気がする。

まとわりついていた吐き気も、もう完全に消えていた。












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