第1話 ③
「本当にガードが堅いわね」
あれからどれくらい時間がたったか?バスタオルを体に巻いた凛子さんが、パンツの布越しに"俺の"を触りながら悔しそうにつぶやく。
"俺の"はその刺激を感じながらも、頑なに成長を拒んでいる。
「目からの刺激だけじゃなくて、直接的な刺激にも無反応なのね」
研究者の眼になった凛子さんが、"俺の"を観察しながらぶつぶつとつぶやく。
「あの、人体実験はもう終わりでいいですか?
勃たなくても、あんまりいじられると普通に痛いですし……」
俺の抗議の声に耳を傾けず、凛子さんは俺の体の調査を続ける。
「幸多郎くんには私の体ってどういう風に見えてるの」
「どういう風にって、そうですね……
考えたこともなかったですけど、強いて言うなら男性も女性も同じに見える……ですかね」
凛子さんの体は美しかった。エロかったと思う。
けど、このエロいというのは俺の場合性的興奮を掻き立てるということに直結しない。
生物的な美しさに起因して引き起こされる感情だ。
そう、例えるなら
「めっちゃ鍛えてる男友達とか男性アスリートの体見ていいじゃんっ、かっこいいなって思うのと同じ感じですかね」
「なにそれ、私のEカップは野郎の胸筋と同じってこと?」
凛子さんは信じられないという表情でタオルの胸元を開き自分の胸を見る。
俺の角度からは死角になるが、バスタオルの下には何も身につけていないことを俺は知っている。
というか、バスタオルの下の凛子さんは生まれたままの姿をしている。
そしてついさっきまで、俺はその姿を見ている。
自己申告Eカップの胸もさることながら、引き締まったウエスト、張りのあるヒップライン、そのすべてがモデル並みに整っていた。
ノーマルな人にの感覚で例えるなら、男性アスリートに体を拘束されて至近距離でその肉体美を見せつけられているようなものだろうか?
すごいな、きれいだな、とは思うがそれで性的興奮を覚えることはない。
だが、いいものを見れたという感覚はあるので、不快感を覚えることもなかった。
とはいえ、大の字で拘束され続けるのは流石につらくなってきた。
「今日は全部奢ってもらいましたし、そんなにひどいことされたわけでもないんで怒ったりしません。
だからそろそろ、これ外してもらえませんか?」
俺のお願いに、凛子さんはどうっしよっかなーと歌うように答える。
「幸多郎が女の子に反応しないのはよくわかったんだけど、それじゃあいろいろ困らない?
恋人のこともそうだけど、例えば一人でするときとか」
どうやら人体実験の次は聞き取り調査が始まったらしい。
俺はおとなしく答える
「一人ではしません。たまにあの河童の夢をみて……朝起きた時にパンツを洗うことはありますが」
「なに?じゃあ自分のが戦闘態勢になったのを見たことがないわけ」
「ないですね」
「じゃあ本当に河童でしか勃起できないって確かなわけじゃないのね」
「どういうことです?」
「だってそうでしょ?私の体じゃ力不足ってことはわかったけど、河童を見たら勃起できるって確証も同じくないんじゃない?」
凛子さんに問われて俺は考えた。
首を曲げて自分のをみる。
おれはこいつの元気な姿をたしかにみたことがない。
「でも夢に河童が出てきた時の朝は毎回……
それに確かめようったって河童がどこにいるかもわからないし」
「そもそも河童ってどんな姿をしていたの?
やっぱり頭にはお皿?」
今度のヒアリングは河童について。
俺は幼少の頃にまた河童を。今でも夢にみる河童の姿を思い浮かべる。
「皿はありました。けどすごく小さくてその河童は髪が長かったのでそれほど目立ってなかったですね。
肌は薄緑色。といっても全身緑というわけじゃなくて、足先から太もも辺りと背中にかけては緑色。太ももの付け根から上のお腹側は白色をしていました。
背中には首の根元から肩甲骨の下あたりにかけて小さな甲羅を背負ってました。
顔はほとんど人間と同じなんですが、目が大きかったのを覚えてます」
「なんだかそれだけ聞くと幸多郎くんがここまで執着するほどの美しさとは思えないんだけど」
「う……確かにそうかもですね。
けどあの日見た河童には口では表せない美しさがありました。
特に緑色の肌は、爬虫類みたいな質感とは違ってて、例えるなら細かい翡翠が散りばめられたような輝きを放ってて。
夏の日差しに照らされたその河童は、彼女自身が光り輝いているように見えて……
背中の甲羅以外何も身につけていないその体は、その輝きに照らされて細かな凹凸までも強調して、うっ!!!」
俺が話している最中、急に凛子さんが"俺の"を摘んできた。
「何するんですか!」
「あ、ごめん。ほんのちょっと膨らんだ気がしたからさ」
抗議する俺の言葉など気にせずに弄り続ける。
「気のせいか」
しばらく弄って気が済んだのか、凛子さんは手を離した。
"俺の"を触っていた手をぱんぱんと払いながら、俺に聞こえるか聞こえないかといった声量でボソッと呟く。
「しかしまぁそんなに詳しく話せるってことは、ほんとに見たんだ、河童のこと。
匂いがしないから気が付かなかった。
十年もすれば消えるのかしら?十年モノなんて聞いたこともない。
十年モノ……それはとっても、おいしそう……」
凛子さんはつかつかと部屋の中を歩いていくと、備え付けの冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し一口飲んだ。
なぜかその仕草に悪寒を覚えた。
ミネラルウォーターを持ったまま、凛子さんが近づいてくる。
薄い照明に照らされたその顔は、さっきまで俺の事をいじって遊んでいた好奇心の顔ではなかった。
好奇心よりももっと切実な。欲望を抑えようとしている表情だった。
俺はなぜか、母方の実家で飼っていた柴犬のことを思い出した。
「幸多郎くん、今日はいっぱい付き合ってくれてありがとう。
最後にお姉さんから褒美を上げちゃおっかな」
凛子さんはそういうとバスタオルを剥ぎ取った。
一纏わぬ姿が露わになる。
一体何が始まるんだ?
そんな疑問を抱くより先に、凛子さんは手に持ったペットボトルを自分の頭の上でひっくり返した。
ミネラルウォーターが勢いよく、凛子さんの体を濡らす。
「っん、冷たい」




