第4話 ②
凛子さんに連れられて店の奥へ進むと、小さな和室があった。
大河ドラマとかでよく見かける、戦国時代の茶室を思わせる小さな部屋だった。
凛子さんが座ったのでその横に座る。
ちなみに凛子さんは今、人間の姿だ。
席を立つ時に、変化を解いたのだそうだ。
俺は小さな体のままだ。
昨日変化した時はその直後に気絶して、朝になったら元の姿に戻っていた。だから俺はどうすればこの姿から元の姿に戻れるのかを知らない。
そのせいで不便なことがあった。
体が小さくなったことで、ズボンもパンツも脱げてしまったが、流石にノーパンというわけにはいかない。なので、パンツを履いて腰の辺りをヘアゴムでぐるぐる巻きにして止めた。
その上から元々着ていたポロシャツを着る。
そうすることで、小さな子供がサイズオーバーの洋服を着ているように見えなくない程度には改善した。
「あの、店長って誰なんですか?
店長さんなら、何かを知ってるんですか?」
正座をしながら俺は凛子さんに尋ねた。
「すごく物知りな人よ。
きっと幸多郎くんの助けになってくれるはず」
凛子さんはそういうと、部屋の奥の襖に目線を映した。
俺もつられてそちらを見る。
すると、俺たちの視線を待っていたかのように、襖がゆっくりと開いた。
「お待たせをいたしました」
その奥に居たのは、着物を着た女将風の女性。
この店は地下にあることを除けば、どこにでもある大衆居酒屋のような雰囲気だったので、この店の店長と言われると違和感を覚える格好だった。
「店長、お手間をおかけします」
凛子さんが頭を下げたので、それに倣って頭を下げる。
心なしか、凛子さんは緊張しているように見える。
「凛子の頼みですもの、無碍にはしませんよ。
それに、断家のお客様が居るとなれば、私としても是非協力させていただきたいことですし」
店長は、そう言って微笑んだあと「それで……」と呟いて俺の方を見た。
俺は。その時初めてしっかりと店長の顔を見た。
嘘みたいな美人がそこに居た。
一瞬、息が止まったかと思った。
人間の女性には興奮を覚えないはずの俺が、なぜか店長の顔を見ただけで、気道を押さえつけられたような息苦しさを感じている。
見惚れるとか、そういうレベルではない圧倒的な美の存在感に頭がクラクラする。
まるで現実味のない、作り物のような美しさがそこにあった。
「まぁ、おませな坊やだこと」
店長は、俺の反応を見ておかしそうに笑った。
「店長、昨日ご連絡した通り見た目は小学生ですけど、中身は成人男性です」
「ええ、聞いておりますよ。
凛子の連絡を聞いて、もしや、と思っていましたがこうしてお会いして確信が持てました。
まさか、"山童"の生き残りが居たとは」
店長は笑を抑えて、細めたまだ俺のことを見つめた。
超絶的な美女にそのように見つめられて、俺は全身を硬くしながらも今飛び出した、聞きなれない単語について問う。
「やまわらし?それが俺の血に流れる妖怪の名前ですか?」
「ええそうよ」
店長は、あっさりと答えてくれた。
やまわらし
おそらく山の童ということなのだろう。
聞いたことのない妖怪だ。
いや、そもそも俺の知ってる妖怪なんて鬼太郎に出て来たメジャーどころだけなのだが。
だが、名前を聞いただけでも気になることがあった。
「河童って河の童って書きますよね?山童も河童みたいなものなんですか?」
「そうですね。
元来妖怪と呼ばれるものは同じ起源を持っていたり、地域によって呼び名が違ったり、違うようで同じ、同じなようで少し違う存在です」
店長は俺の問いに勿体ぶった言い回しで答えた後にこう断言した。
「ですがここでは敢えて、違う存在だと言っておきましょう。
理由は簡単、変化した姿があまりに違いすぎる」
店長の言葉に、特に異論はなかった。
凛子さんが河童に変化した姿と俺が子供になった姿……山童になった姿は全く違う。
凛子さんが、妖怪然とした鱗や嘴や皿を持つ姿に変わったのに対して、俺はただ体が縮んだだけ。
凛子さんが変化した姿は初見で妖怪だと気がつくが、俺の今の姿を誰かが目撃したとて、ポロシャツを着た小学生にしか見えないだろう。
河童との関連を聞いたのは、単に唯一の知り合い妖怪である凛子さんと同じ系統であれば話を聞きやすいと思っただけだ。
店長の回答にあまり落胆せずに、次の質問を投げかける。
「じゃあ山童って何なんですか?
断家って話ですけど、俺の祖先に妖怪がいたって事なんですか?両親は普通の人間なんですけど!」
「せっかちな子ですこと。
順番に答えてあげるから少しお待ちください。
話が長くなるからお茶でもどうでしょうか?」
店長はそう言うと俺たちにお茶を出すと一息ついてから話し出した。




