第4話 どうやら俺も妖怪のようです。これは流石に変ですよね?①
数秒気絶していたようだ。
強力なフラッシュを焚かれた時のように、視界が一瞬白くなったあと、ぼやけた景色に変わる。
目が見えていなくても、体が内側に引っ張られるような感覚でわかる。
また体が縮んでいる。
どこまでも縮み、俺という存在がこの世から消えて無くなるのではないかという錯覚を覚え出した頃、ようやく変化が止まった。
それと同時に視界が戻ってきた。
俺は椅子に座ったままの姿勢で縮んだようだ。
さっきまで遥か下にあったはずのテーブルが、今は目の前にある。
体のサイズは……小学一年生といったところか。
靴も靴下もズボンもパンツも、下半身に身につけていた衣類は悉く脱げて、ポロシャツをワンピースのように着ている。
そのポロシャツも、半袖の袖口にようやく手が届くような有様だ。
袖口にから出る小さな手に、思ったほど動揺していない自分に驚く。
それが当然のとこであるかのように受け入れているのだ。
視線を手から正面に移すとと、透明なお酒の入ったジャッキ越しに、歪んだ凛子さんの顔が見えた。
凛子さんは光を避けるために目を瞑っていたようだが、恐る恐る目を開く。
「昨日も思ったけど、ホントとんでもない妖力ね」
「妖力?」
「私たちが妖怪の姿に変化する時に発する光はその妖怪が持つ妖力に比例するの。
妖力っていうのは」
凛子さんはそういうと、凛子さんが変化するとかに使った水が入っていたグラスを手に取った。
変化の時に全てを被ったので、グラスは空っぽだ。
「見てて」
凛子さんはグラスに右手の人差し指と中指をグラスの中に入れた。
その瞬間、どこからともなく水が現れた。
現れた水は、宇宙ステーションからの中継映像のように重力に逆らい、指の先で球体の姿を維持している。
その水の挙動が、目の前の光景が手品とかそういう類のものではなくなんらかの超常的な力によるものであることを示していた。
「私たち河童の場合は、こんなふうに水を生み出したり操ることができるの」
そういうと、凛子さんはふぅと息を吐いて力を抜いた。
すると指先に溜まっていた水塊は、物理法則に従いグラスの中に落ちた。
「妖力っていうのは、その妖怪独自の能力を扱える量のこと。まぁ体力が多い方が長く走れるように、妖力が多い方がたくさん能力を扱えるって感じかな」
「妖力が多いとどうなるんですか?」
「んーそりゃ能力をたくさん使えるんだけど、現代じゃそんな機会も滅多にないからあまりメリットはないかな?
デメリットもないけど。
ただ、変化する時にサングラスが必要なくらいかな」
凛子さんの回答に少しがっかりしながら、続けて問う、
「妖力の事は分かりました。
それは一旦置いといて、俺って一体なんなんですか?」
俺は小さくなった右手を凛子さんに突き出して尋ねた。
その小さな手は、小さい子特有の色白でぷくぷくとした質感をしている。
河童の凛子さんのように、緑の肌や鱗や皿などわかりやすい特徴はない。
どこかの名探偵のように、ただ体が縮んだだけに見える。
「俺はなんの妖怪なんですか?」
俺の問いに、凛子さんは少し困った顔をした、
「やっぱり、断家の出身なのね。
幸多郎の地元って近畿だったわよね?
近畿だと候補が多過ぎる」
俺の出身地については、昨日の合コンで話している。
「妖怪ってそんなにたくさんいるんですか?河童以外にも」
「たくさんいるわよ。天狗に座敷童にぬらりひょん。漫画やアニメの題材になってたり昔話に登場するようなメジャーな妖怪の殆どは、今もその子孫が暮らしてる。
この辺りは川が多い関係もあって河童が圧倒的に多いけど、他県じゃだんだんと減ってきてるとも聞くしね」
俄には信じられない話だった。
今のこの情報社会に、そのような存在がそんなにたくさんいるなんて。
「そのうちの一人でもSNSに投稿したりしたらとんでもないことになるんじゃ?」
「まぁ、そうね。
でもそうならないように各々が自衛しているのよ。妖怪の血を引くことが世間にバレていいことなんて一つもないって事は歴史が証明しているし」
凛子さんはどこか遠くを見る目をして、少し悲しそうに言った。
そしてすぐにそれを振り払うかのように笑顔に戻って俺の顔を覗き込んだ。
「だから、幸多郎くんみたいな断家出身の子。
あ、断家っていうのは妖怪の末裔であることを子孫に伝えることができず、自身のルーツにつながる情報が断たれた家のことをいうんだけど。
その断家出身でたまたま妖怪の血に目覚めた幸多郎くんのような子を見つけたら、妖怪のなんたるかを教えるのよ。
昨日名刺を渡したのはそういうわけ」
「それなら昨日教えてくれてもよかったじゃないですか!
わざわざ居酒屋に呼びつけて、もし俺がこなかったらどうするつもりだったんですか?」
「だって昨日は気絶してたじゃない。私も今日は予定があったし。
それに、幸多郎くんの場合は私の後輩だからね、動向を見守る方法はいくらでもあるから少し目を離してもよかったの。
それに、あの場で全部話をする事はできなかったの」
そういうと、凛子さんはテーブルの呼び鈴を押した。
遠くの方でピンポーンと音が鳴る。
「あなたがなんの妖怪か?だったわよね。
それは私にもわからないのよ」
凛子さんがそう言い終わると同時に個室の扉が開き、さっきの男性店員が入って来た。
「お呼びですか?」
「店長さんに会いたいんだけど」
「店長に?なんで……あぁそういう
ちょっと待ってくださいね今日は会合なんですが、もうそろそろ帰ってくると思うので」
店員は店長に会いたいという凛子さんの言葉に首を傾げていたが、小さくなった俺を見て全てを察したように頷いた。
「そう、じゃあいつものように奥の間で待たせてもらうわ」
凛子さんはそういって立ち上がった。




