ep.82 王都・ケルス防衛戦3
夜、ガームダム公の陣営で、兵士から報告を受けていたガームダムは、驚きと苛立ちを重ねて吐き出した。
「600だと・・・たった1日で損害が600だと・・・」
「門から辛くも逃げ出した兵によると、化け物のような少女と少年がいるようです」
息子のケネウスが、呆れた口調で言う
「少女と少年? そんなものに我が軍が、押し返されたというのか!」
「はっ、申し訳ありません」
ガームダムが言う。
「少年は分からんが、少女と言うのはもしかすると武聖なのかもしれぬ・・・」
「武聖ですか? 父上、そのようなことをお信じになられるのですか?」
「エムリアという小国が、長年に渡って存続してきたのには、武聖の力があったと聞いたことがある。
それに関連しているとするとやっかいだな・・・」
「武聖とはいえ、人の子、数で打ち破れるでしょう」
「そうだと良いが・・・」
「ところで、北のウオレス伯の陣が何やら騒がしいが、何かあったのか?」
・・・・・・
しばらくして早馬が来た。
「申し上げます、ウオレス伯の陣が夜襲を受け、被害甚大!」
「なんだと!」
「先頭に白髪の少女がいたとのことですが、その強さ尋常でなく、あのルザルフ千人隊長も討ち取られたもよう」
「ばかな、あの猛将のルザルフがか・・・」
一時間前、エルマの指揮のもと、俺たちは夜の闇に乗じて、ウオレス伯の陣に兵200を持って強襲を掛けた。
「敵襲だ~!」
ウオレスが言う。
「敵襲だと! あの劣勢の兵力で攻めて来たのか?」
あちこちに金属音と怒声、火の手が上がる。
「ううむ、こしゃくな真似を・・・
ルザルフはいるか!」
「はい、ここに・・・」
頬の傷、絞られた体躯、一目で猛者なのが分かる男だ。
「うるさい敵を追い払って来い!」
「はい、お任せください」
火の手が広がっていく。
ルザルフは、長年戦場で鍛えた感でどこが相手の主力かを見定めていた。
「あちらか・・・」
ルザルフは、長年使いなれた斧を手に、歩を進めた。
エルマが叫ぶ。
「この調子で蹴散らせ!」
「やあっ!」
横腹から槍を抜くと、血と臓器がこぼれるのが見えた。
俺は先陣を切り、短槍を手に突撃していた。
もう何人、切り伏せたか分からない、全身が血まみれになっていた。
煙の奥から、大柄の人影が見えた。
鉄球が顔面に向かって飛んで来たので、首を傾けて躱した。
後ろにいた運の悪い敵兵の顔面が爆ぜた。
「ほお、今のを躱すか・・・」
男は斧を取り出しながら言った。
「俺は、千人隊長・ルザルフ、ガキ、やるな」
俺が瞬時に間合いを詰めると同時に斧が振り下ろされる。俺は短槍を回転させて石突でルザルフの太い腕を払った。
「ぐうっ!」
軌道が流れ、斧は地面を割る。
すかさず俺は回転する槍の穂先でルザルフの胸を貫いた。
「うらあっ!」
穂先が胸に刺さるが、刺さり切る前にルザルフは槍をこぶしで叩き折る。
(浅いか・・・)
俺はサイドステップで間合いを取り、すぐさま短刀を抜き、間合いを詰める。
「ガキがっ!」
ルザルフが斧を水平に走らせる、俺は低く屈みかわしつつ、短刀を上に向けた。
ルザルフが斧を振り切ると同時に、斧とルザルフの指が3本吹き飛んだ。
「やっ!」
俺は、ルザルフの足元に入り、足首を切る。
「ぬあっ!」
たまらずルザルフが転倒するや、後ろから髪を持ち、首を掻っ切った。
太い首は切断しきれず、だらりとなった。
「ルザルフ様っあ!」
叫んだ兵士の喉に俺の短刀が突き刺さった。
周囲の敵は、俺に恐怖し一瞬動きが止まると、逃げ出しはじめた。
エルマが叫ぶ。
「逃がすな、たたみかけろ!」
火の手はよりいっそう大きくなっていった。




