ep.73 孤独の王
ガームダム王国・王都ケルスの王の寝室で、病に伏せるリハリド=グレイスは天井のシャンデリアを見ていた。
(痛い、寒い、苦しい・・・)
(もはや、何のために生きているのか・・・)
(痛い、寒い、苦しい・・・)
(全てを失って朽ちていくだけだというのに・・・)
(痛い、寒い、苦しい・・・)
誰かが扉をノックする。
「入れ」
侍女が扉を開ける。
「陛下、失礼致します」
「ギリアムか、何かあったか?」
ギリアムと呼ばれた男は、ガームダム王国の老将軍で、国王・リハリドを長年に渡り支え続けて来た忠臣であった。
「はい、エムリア王国の特使が陛下に面会を求めております」
「余に面会だと、何の力も持たぬ名ばかりの王にか?」
「陛下、何をおっしゃいますか・・・」
「よかろう、ただ、動けぬゆえここで会おう、御簾をかけよ」
「はっ」
しばらくして、俺たちに声が掛かる。
俺たちは、王の寝室に入室し、俺以外のレキとエルマは跪いた。
御簾の横には、老将軍・ギリアムが控える。
俺は、御簾に向かってドレスを手に持ち一礼した。
「エムリア王国、第一王女・アニスティア=フォン=エーメガルドです」
俺が続ける。
「こちらに控えるは、宰相のレキ=エシアルト、将軍・エルマ=カリンズです」
御簾の方から弱々しい声がする。
「ガームダム王国・国王・リハリド=グレイスである。
おもてをあげられよ」
俺たちは、顔を御簾のほうに向ける。
「して、余に用件とは?」
レキが応じる。
「はい、ガームダム王国の情勢は、当方も存じております。
畏れ多いことながら、現在、バールダム=アギレス公爵が、王国をほぼ手中に収めておられ、ここ王都・ケルスも、もはや危険な状況と推察しております。
それゆえ・・・」
「もうよい・・・」
静かな声でリハリドは遮った。
リハリドが静かに言う。
「余を守り、王都を安堵するから、エムリア王国に王位を禅譲せよということであろう?」
レキが言う。
「畏れ多いことながら・・・」
「禅譲したとして、もはや余の声など、誰にも届きはせんぞ。
無駄なことだ・・・」
エルマが言う。
「陛下を慕う民に届きます」
「民か、余は自分の弱さ故、民を戦乱に巻き込み不幸にしてしまった・・・」
「そんな優しい言葉を言う陛下を多くの民は慕っていると思います。
禅譲があろうがなかろうが、私は陛下を守りたい。
民を守りたい」
俺は思わず言ってしまった。
「・・・・・・」
息子3人を失った時、まだ、10歳ほどであった娘のネリアが言ったことがあった。
((お父様、心配なさらなくても大丈夫です。
私がお父様を守ります。
お父様の民を守ります))
「御簾をあげよ・・・」
侍女が御簾をあげると、頬がこけた青白い顔の王が現れた。
だが、目には生気が宿っていた。
王の口元は、どこか笑っているようにも見える。
「禅譲があろうが、なかろうかか・・・
宰相殿の策が水泡に帰すではないか?」
「それでも、私は陛下を守りたい。
民を守りたい」
王は一度目を閉じ、俺を見据えた。
「では、禅譲はなしだ」
「はい、構いません」
「はははははは」
ギリアムは、内心驚いた、
(王が笑うなんていつ以来であろうか・・・)
「その代わりに一つ案を提示してやろう」
「案ですか・・・?」
「エムリアの王女よ、余と義理の親子の契約を結ぶのはどうか?
さすれば、王太子は、お前よ、正当な後継者となろう。
国の名など、その後、エムリアの看板を掛ければ良かろう」
(この人が欲しいものが分かった気がする)
「わかりました、お父様」




