ep.66 王女の接待
翌日昼過ぎ、俺は、客間にマリーヌを訪ねた。
客室をノックすると彼女の侍女が扉を開けた。
マリーヌは、俺を確認すると椅子から立ち上がり、一礼する。
マリーヌは、優しい目を向けて言う。
「これは、アニス様、なにかご用ですか?」
「マリーヌ様、お時間があれば、カルガポルの街を案内出来ればと思って」
「あら、それは嬉しいお誘いです、ぜひ」
俺は、マリーヌと領主の館を出て、大通りを歩いた。
マリーヌが言う。
「以前に来たときよりも商人が増え、街に活気がありますね」
「前にも来たことがあるの?」
「ええ、外交で何度か来ました」
俺たちは雑多な商業地区を歩いた。
「商人の数が増え、売り物の種類、量が増えている。
商売人にも客にも活気と笑顔がある」
マリーヌは、香辛料や衣服、食料品、雑貨等を見回し、時には値段を聞いている。
俺は雑貨を並べる露店に立ち寄った。
「このお花のブローチ、マリーヌ様に似合いそう!」
「そうですか?私には少し可愛らしすぎませんか?」
「お姉さん、このブローチいくら?」
「銅貨12だよ」
「銅貨5」
「それは買いたたきすぎだよ、お嬢ちゃん」
「10」
「7」
「9」
「7なら買うけど、仕方ないや・・・」
「8、本当にこれが限界、勘弁してよ~」
「じゃあ、8でいいや」
俺は、銅貨8で花のブローチを買い、マリーヌに渡す。
「今日、初めて一緒に街を歩いた記念に」
「くすっ、王女様、ありがとうございます」
マリーヌは、花のブローチを自分の胸元に着けてくれた。
「やっぱり、似合ってるね」
俺たちは港の方へと向かった。
帆船や軍船が桟橋に並んでいる。
「船も以前と比べて増えて、港に活気がありますね。
港を開いたことと、陸路を繋いだことが大きいのでしょうね」
「うん、レキが貿易を活性化させるためにそうしたんだって」
「レキ殿は、軍事、経済、商業と幅広い見識をお持ちなのですね」
「シアタも海があるのに港つくらないの?」
「このアルエス海は、基本的には遠浅の海で、それなりの船が入れる場所は限られているのです。
シアタにも漁村程度はあるのですが、貿易を出来るほどの船の出入りが出来る港は造れないのです」
「そうなんだ」
「海はいいですね。
この先に色んな国や港、大陸、島々が繋がっている、可能性の宝庫です」
「うん、そうだね、マリーヌ様、なんか楽しそうだね?」
(この人は本当に、政治で先進的な改革をしたいんだ・・・)
「すいません、いい歳してはしゃぎ過ぎましたか・・・?」
「ううん、楽しそうで見ていてこっちも楽しくなるよ」
マリーヌは、船員たちとも色々と話をしているようだ。
しばらく二人で港を歩いた後、日が落ち始める頃、俺が言った。
「マリーヌ様、私の行きつけの酒場で一杯やりますか?」
「えっ?行きつけの酒場ですか?ぜひ・・・」
俺は、港にある行きつけの酒場に入った。
ウエイトレスが声を掛けてくる。
「えっ?いらっしゃいませ・・・」
(明らかに、このご婦人はこの安酒場の客層じゃねえだろ・・・)
「こちらの席へどうぞ」
ちょうど端の席が空いていたので、そちらに案内される。
「何になさいますか?」
「羊のミルクとおつまみナッツとチーズのセット、羊内の串焼き、野菜と豚の旨辛スープ、野菜ピザ、マリーヌ様は何かありますか?」
「じゃあ、葡萄酒を」
(酒場もよく流行って賑やかだ・・・)
・・・・・・
注文した品が運ばれてくる。
「乾杯!」
羊のミルクと葡萄酒で俺たちは乾杯した、マリーヌは可笑しそうに笑っていた。
食事がある程度進んだ頃に俺は訊いた。
「ここの料理はどう?」
「はい、鮮度も良くて、ボリュームもあって美味しいですね」
「良かった、気に入ってもらって」
マリーヌは、ナイフとフォークを置くと、俺をじっと見つめて言う。
「アニス様は、どこまで行かれるおつもりですか?」
「えっ?」
「八軍閥の国?ガームダム王国?エムリアの奪還?アムゼント帝国の打倒?」
(アニスやエルマのためにもエムリアの奪還は目指していた。
だが、いったい俺はどこまで行こうとしているのか・・・)
「マリーヌ様、この大陸の識字率って何パーセントか知っている?」
「いえ、存じておりません」
「レキに訊いたら2、3パーセントくらいなんだって」
「・・・・・・」
「これって、一部の富裕層だけが知識や情報を独占していることを意味しているの。
識字率が高まれば、農業、医療、造船、建築、経済、芸術、あらゆる技術や文化が底上げされ、今より豊かな暮らしが出来るようになる。
埋もれている人材が能力を開花できる」
「たしかに、そうですね」
「そのためには、世界が平和になって、教育制度を整えていく必要があるの。
誰もが自由に学び、生活に困らない世界。
そんな日が来るといいなって思ってる」
「・・・・・・」
「ごめんなさい、変なこと言っちゃった?」
「アニス様、そんな世界をお創りください。
私は微力ながら、お力添えをさせて頂ければ、この上なく幸せです」




