ep.40 紅い髪の少女の戦略
俺とエルマには、王族とそのお付きということで、スレン砦の客間の一つが貸し与えられていた。
俺は、備え付けられた鏡を見た。
白い髪、アメジストのような紫の瞳・・・
俺は、アニスが自分であることに違和感がなくなっていた。
エルマが紅茶を持って来てくれる。
「アニス様、どうぞ」
「ありがとう、エルマ」
俺は、ティーカップを受け取ると、窓際の椅子に腰を下ろした。
一口つけると、いい香りと甘さが口に広がった。
「美味しいよ、エルマ」
「それは、良かったです」
「いつか落ち着いたら、紅茶のコレクションでもしようかな。
そして美味しいお茶をエルマにたくさん飲ませてあげるの」
「それは、楽しみですね」
誰かが扉をノックした。
「私だ、レキだ」
「どうぞ」
扉が開き、レキとレッド、キースが入って来て、各々、好き勝手に椅子に座る。
アニスが言った。
「それで、三人揃ってどうした?」
レキが言う。
「少し現状の整理と今後について話をしたいと思ってな」
俺とエルマが頷くと、レキが続ける。
「まず、現状だが、知っての通り、西領はスレン城砦の修繕に力を注いでいるが、それを邪魔しようと東領の奴らが仕掛けてくる。
反対に、東領が首都イズアラに物資を運びこむのを邪魔しようと西領が仕掛けている。
これによって両軍は、現在、小競り合いが続いている」
レッドが応じる。
「まあ、俺たちもそのおかげで稼げているんだけどな」
キースが言う。
「敵味方構わず、腕が立ちそうな奴に声を掛けて引き込んで来た。
そろそろ数が百はくだらねえぞ」
「だいぶ兵力が充実してきたな」
エルマが応じるとレキが続ける。
「そこでだ、そろそろカードを切る頃合いかもしれないと考えている」
「カードとは、義兄妹のことか?」
「そうだ。
その代わりに、私たちの後ろ盾になってもらう」
「そう上手くいくか?」
「良くも悪くもホマウドは、アニスに惚れ込んでいる。
そして計算もしている、武聖というカードを手の内に持っておきたいとな」
「後ろ盾になってもらって、次の動きはどうする?」
「八軍閥の国に進出する」
「八軍閥の国って?」
俺の質問にレキが応じる。
「アルタージュ王国の西にある八つの軍閥がそれぞれ統治する八つの国だ。
元々は、ガームダム王国の一部だったが、同王国の後継争いが泥沼化し、各軍閥が反乱して小勢力が乱立する状況となっている」
レキが続ける。
「あそこは、各国が互い争っていて、治世に乱れが生じている。
私たちが、制圧し民を圧政から救うというシナリオだ」
キースが皮肉を込めて言う。
「侵略をごまかす、ご立派な大義名分だな・・・」
「そう言ってくれるな。
これが政治ってやつだ。
だが、実行するかどうかはアニス、お前が決めるんだ。
このまま、アルタージュに留まり、保護を受けるという選択肢もある」
(侵略するかを、俺が決めるのか、人が多く死ぬな・・・)
「エルマはどう思う?」
「アニス様の御心のままに」
「レッドは?」
「どっちでもいいが、やるならやってやるぜ」
「キースは?」
「俺は賛成だな。
拠点が欲しい、ケガして戦えなくなった奴らを受け入れる場所が必要だ」
・・・・・・
俺は静かに言った。
「八軍閥の国へ進出する」
「はっ」
エルマが応じる。
キースが訊く。
「攻めるはいいが、ガームダム王国や隣のパエラ王国は黙って見ていてくれるかね?」
レキが応じる。
「そのための後ろ盾だ。
百人程度で構わないから、アルタージュからの兵も借りる。
内紛中とはいえ、大国アルタージュとことを構えたくはなかろうからな」
「なるほど、ちなみに初めのターゲットは?」
「ここから一番近い、ドワイト=マルクーゼ伯が治めるメエラだ。
伯爵は、幸いにも気位が高く粗暴で民からの評判は良くない」
(なるほど、良心の呵責が小さくて済むって、俺に気を遣ってくれているのだろうな・・・)




