ep.32 同盟締結
兵士が入って来て、倒れているグルガスを運ぼうとすると、グルガスがあごをおさえながら起き上がった。
「いや~、参りました。
良い蹴りでしたよ、姫殿、はっはっは、痛てて・・・」
「ご無事でなによりです」
俺は、心配げに応じた。
(タフなやつだな・・・)
別の兵士が慌てた様子で入って来た。
「殿下、火急の知らせでございます!」
「どうした?」
兵士が俺たちの方をちらりと見やる。
「かまわん、申せ」
「はっ、スレン城砦が陥落致しました!」
「・・・・・・」
兵士が続ける。
「更に敵兵約5000が、こちらに向けて進軍中」
武官がつぶやく。
「時間の問題だったとはいえ、ついにこの時が来たか・・・」
ホマウドが、笑みを湛えながら言う。
「と、我が軍は不利な状況な訳だが、まだ我らと同盟を結びたいか?」
「ホマウド様と我らが手を結べば、状況を覆すことは可能でございます」
俺は、根拠なく明言した。
(俺、絶好調・・・)
「よかろう、我らアルタージュ王国とエムリア王国は同盟を締結することを宣言する。
よろしいな、アニスティア王女?」
「異論ございません」
「取り交わし等の詳細は、ノベアスに任せる、よいな?」
「はっ、お任せ下さい」
「ティノール、軍議を行う、諸将を集めよ!」
ティノールと呼ばれた、武官は一礼すると部屋から退出する。
レキが言う
「私たちも同盟国として軍議に参加させて頂きたいが宜しいですかな?」
「よかろう」
約一時間後、謁見の間には大きな地図が広げられており、ホマウドと将軍・ティノール、軍参謀・ノベアス、千人隊長十人、そして俺たち四人が集まり、軍議が始まった。
まずは、将軍・ティノール及び千人隊長が議論をはじめ、東のガルム平野での会戦とはじめから籠城戦に持ち込むとの二案で意見が分かれて紛糾していた。
「難攻不落の城塞都市バルロックであれば、難敵であろうと跳ね返すことが可能と思われます」
「いや、それではバルロックは別として周辺の町や村を見捨てることになる、ここは打って出るべきと考えます」
場が膠着しているので、何か進展が出ないか、あまり期待せずにホマウドが言った。
「同盟国の意見は如何かな?」
レキが応じる。
「どちらにも長短がありますが、周辺の損害および今後の展開を考えますと、平野に打って出るのが良いと考えます」
「ほお、そう言うからには何か策があるのであろうな?」
「はい、ございます。
お時間を頂いても宜しいですか?」
「よい、申してみよ」
「はっ。
まず、左右翼の後ろに縦隊を布陣させます。
右翼の縦隊はダミーとし、右翼の前線が危うくなれば、防衛にまわしていただければと思います。
中央は、専守防衛に努め、カギとなるのは左翼です」
「左翼に何を仕込む?」
「左翼前衛に精鋭を仕込んで少しでも均衡を崩してください。
そのわずかに崩れた隙からアニスとレッドを含む縦隊を突撃させ、敵右翼を崩します。
その後、敵中央軍を側面より襲撃し、本陣を落とします」
「ふむ・・・」
ホマウドは何やら考えている。
「仮にその策を採用するとして、左翼の縦隊の突入のタイミングを誤れば、水泡に帰す、その大役誰がこなす?」
「お許し頂けるなら、我が方のエルマ=カリンズを推薦致します。
若いながらエムリア王国のロイヤルナイトであり、実戦経験及び勝負勘に優れております」
千人隊長の一人が言う。
「他国の将にそのような大役を任せるなど、あり得ん」
別の千人隊長が応じる。
「いや待て。
武聖とエムリアの力を見定める機会とも言える。
ダメなら、籠城戦に持ち込めば良いのではないか?」
ノベアスが静かに言う。
「皆の意見もほぼ出揃ったと思われます。
殿下、ご決断を」
ホマウドは、あごに手を当て考える。
・・・・・・
「我が軍は、兵力4000を持って、ガルム平野にて賊軍を迎え撃つ。
基本戦術は、エムリアの軍師殿の策を用いるとする。
総指揮及び中央軍指揮はティノール=ガスタム、総参謀はノベアス=ギルティード、左翼指揮はマトロン=アズマイヤ、右翼指揮はクリード=オルマゲンとする。
左翼の縦隊の指揮はエムリアのロイヤルナイト殿に任せるとしよう。
ただし、アニスティア王女と軍師殿は、私と共に中央軍に来てもらう。
以上が私の決定だ、異のある者はおるか?」
「異議なし」
ホマウド軍の諸将が一斉に応じる。
「よし、では、各自準備に入れ」
レキが言う。
「お待ちください、アニスティア様を左翼から外すと突破力に難が生じる可能性がございます」
「そこは、ロイヤルナイト殿の力の見せどころであろう。
失敗は許されぬがな」
穏やかな口調であったが、ホマウドの目は笑っていなかった。
(上等だぜ・・・)
レッドは、心の中で啖呵を切った。




