ep.2 アニスって誰?
エルマと俺は長い時間、馬で駆けており、今はどこかの森の中のようだ。
日が沈み始めた頃、エルマが言った。
「アニス様、馬の疲労が大きくなり過ぎました。
水場が近くにあるので少し休みましょう」
しばらく進むと、小さな川が流れており、俺たちはそこで馬を休ませることにした。
先に下馬したエルマが、周囲を警戒した後、俺を抱きかかえて馬から降してくれる。
「さっ、つかまって下さい」
「ありがとう、エルマ」
「アニス様、それよりも頭の傷を見せて下さい」
俺は促されるままに屈みこむと、エルマは慎重に俺の頭部を見やっている。
(思ったよりも傷が小さい・・・
アニス様が投石を受けた瞬間は、直撃を受けたようにも見え心配したが、杞憂だったのか・・・)
エルマは、自分の長い髪を束ねていた布をほどきつつ言った。
「とりあえず、これを巻いておきましょう」
そう言うとエルマは、傷口を拭いた後、器用に俺の頭に布を巻き付けていく。
「ありがとうエルマ」
俺がお礼を言うと同時に、エルマは、馬を引いて小川に寄せ、水を飲ませ始めた。
(あれこれと気が回る人だな・・・)
エルマは、また周囲を警戒して見てまわると戻って来た。
そして俺のすぐ後ろに腰を下ろすや、抱き寄せサーコートで包み込んだ。
若い女性のやわらかい感触が伝わってくる。
血と汗の匂いがした。
「アニス様、寒くはないですか?
敵に気付かれると困るので火はおこせませんが、私がしばらくこうしておりますので、少しでもお休みください。
この後も、しばらく駆けることとなりますので」
(聞きたいことは山ほどあるが、今は生死の境界にいる。
言われた通り、休んだほうがいいか・・・)
俺は緊張して眠れないまでも、目をつぶって休むだけでもいいと判断してエルマの言葉に従った。
・・・・・・・・・
「アニス様、そろそろ起きてください」
俺は揺さぶられると、目を覚ました、どうやら眠っていたようだ。
(目が覚めたが、元の世界には戻っていないようだ。
そろそろこちらを現実と受け止めるしかないのか・・・)
日はまだ昇っておらず辺りは暗い。
エルマは、既に起きていて出発の準備をてきぱきとしている。
「水も補充しましたし、馬も休めました。
早速で、申し訳ありませんが、出発しましょう」
「分かった、行こう」
「どこに?」と訊きかけたが、訊いたところで分からないので、なるべくエルマの負担を少なくしたいと思い、問いかけるのをやめた。
(エルマにばかり負担を掛けて申し訳ない・・・)
「アニス様、その服装では目立ちすぎます、これを纏ってください」
そう言うとサーコートを俺に手渡した。
(確かに、比較的質素とはいえ血染めのドレスでは目立ってしまうな)
俺は、エルマのサーコートを身に纏った。
エルマは、俺を馬の背に乗せると、自分も前に騎乗し、歩を進めた。
馬を進ませながら、エルマが言った。
「これから港町トールロイに向かい、そこから自由都市テイザークへと向かいます。
しばらくはそこで身を潜め、状況を見守りましょう」
「わかった、そうしよう」
分からないことだらけだが、とりあえずそう応じた。
しばらくして森の中を抜けると街道へと出た、少し速度を上げて進む。
馬がバテにくいぎりぎりの速度のようだった。
少し場が落ち着いている様子なので俺は、抱いている疑問をエルマにぶつけることにした。
「エルマ、驚かせてしまうかもしれないのだが、色々と訊きたいことがあるのだが・・・」
「はい、なんでしょう?」
「まず、はじめに訊きたいのだが・・・」
「はい、どうぞ」
「アニスって誰?」




