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ep.16 ゆでカエル亭

 夜、月明かりとかがり火の光に照らされる新市街の石畳を俺たちは歩いていた。

 旧市街とは違い、人はそこまで多くはなく、警備の兵が巡回しており治安はよさそうだ。


 俺は店の看板に指をさして言った。

「姉さん、カエルがお風呂に入ってる」


「ゆでカエル亭、ここで間違いなさそうね・・・」


 エルマは、手で剣の位置を確認した。


(私とこの子なら、何かあってもきっと切り抜けられる・・・)


「行くよ、アニス」


 覚悟を決めた様子でエルマは、レストランの扉を開けた。


 レストランの中は、複数の蠟燭の火で明るく照らされていた。

 満席とは言わないが、客は多く入っていた。

 旧市街の食堂とは、客の服装や雰囲気が違う、高級感が漂っていた。


 統一されたおとなしめのドレスを着たウエイトレスが、声を掛けて来た。


「いらっしゃいませ。

 ご予約はおありですか?」


「サーラ=エメスティスと待ち合わせている」


「ああ、サーラ様の・・・

 では、こちらの個室にご案内します」


 そう言うとウエイトレスは歩き出した。

 通路をしばらく進み、ホールから離れた個室へと案内される。


「どうぞ、こちらへ」


 ウエイトレスが扉を開けると四人掛けのテーブルの上には既に色々な豪華な食事が用意されていた。


 既に先客があった。

 サーラと三十半ばくらいの赤髪の容姿は悪くないが、少し冴えない感じの男が座っていた。


(この男がセキリュウ=フォン?)


 サーラが声を掛ける。


「よく来たわね。

 とりあえず、席に座ってちょうだい」


 俺はエルマに促され男の前に、エルマはサーラの前に座った。


 男が柔らかい口調で言った。


「やあ、僕がセキリュウ=フォンだよ。

 サーラからだいたいの話は聞いている。

 アニスティア王女とサー・カリンズだね」


(俺たち、しっかりバレてるな・・・)


 エルマが問う。

「なぜ、私たちと?」


 サーラが応じる。

「まあ、テイザークの情報網とお答えすることくらいしかできないかしら」


 エルマは、しっかりした口調で言う。

「失礼致しました、セキリュウ=フォン総司令官閣下。

 こちらは、エムリア王国・第一王女・アニスティア=フォン=エーメガルド様」


 俺は、セキリュウ達に一礼する。


「私は、アニスティア様の護衛・エルマ=カリンズです」

 そう言うとエルマは一礼した。


 サーラが優しく言う。

「セキリュウに堅苦しい挨拶とかは不要だから。

 とりあえず、料理が温かいうちに食べましょう」


 俺は食べていいのか分からなかったので、エルマの顔を伺う。


(今更、毒殺もないだろう・・・)


 エルマは、俺に向かってうなずいた。


「それでは遠慮なく、いただきます」


 セキリュウが言った。

「その鶏肉の香草焼きは絶品だから、お勧めだよ」


「いただきます」


 王家の作法など知らない、俺は、普通にフォークをぶっ刺してかじり付いた。


(ん、んまい・・・)


「美味しいです、これ!」


「そうか、そいつはよかった」

 セキリュウはニコニコとした表情で見ている。


 食事がある程度進んだところで、エルマが話を切り出した。


「ご存知の通り、エムリア王国は帝国の占領下にあります。

 閣下に王家復興にあたりお力添えとアニスティア王女の保護をお願いしに参りました」


 セキリュウが、おしぼりで口を拭きながら言う。

「両事案ともに国と国との問題だから議会で議決する必要があるね。

 僕はあくまで軍人だから、議会の決定に従うしか出来ない立場だ」


「では、この話を議会に繋いで頂けないでしょうか?」


「繋ぐこと自体は不可能では無い。

 でも、そうしない方がいいと僕は思う」


「どうしてですか?」


「テイザークの議会は非常に合理的であり、腐敗もしているからね。

 まず、王家復興の援護についてだが、テイザークにとって帝国を敵に回してまでそうする意味が無い。

 それともエムリア王国は、テイザークにそれを上回る利益をもたらすことが出来るかい?」


「そ、それは・・・」

 エルマは言葉に詰まる。


「王家の武聖の血は、テイザークの利益に繋がりませんか?」

 俺が答えると、エルマが目で制止する。


(しまった、援護のつもりだったのだが、勇み足か・・・)


「繋がるかもしれない、だが、それは次の王女の保護の話になってくる。

 王女の保護については、帝国の目を気にして非公式と言う形で受け入れるだろう。

 ただ、その後だ、おそらく王女はサー・カリンズとは隔離されてどこかに軟禁されることになる。

 武聖の血の継承者だ、軍で利用することも視野に入ってくるだろう。

 いや、恐怖が上回った場合は、監禁、最悪は暗殺だって考えうる。

 さらに情勢や帝国との外交次第では引き渡すこともありうる」


「それでは私たちはどうすれば良いのでしょうか?」


「僕がどうこうすることは出来ない。

 僕が動くとそれはテイザーク軍の行動と取られかねないからね。

 実際に、今日の食事一つとっても、大きなリスクを冒しているんだ」


 エルマは言葉が詰まった。

 王妃の言葉に従い、唯一の綱であったテイザークへの亡命がかなわないのだ。


 俺はハムとチーズがたっぷりのったピザを食べながら思った。

(俺たちの状況、相当やばい・・・?)


 エルマは、目を閉じると肩を震わせた。

 目を開き言った。


「閣下、お時間を頂戴しありがとうございました。

 これ以上、この場にいても、閣下のご迷惑になるだけのようですね」


 サーラがちらりとセキリュウを見やる。


 セキリュウは、葡萄酒に口を付けると言った。


「僕には旧市街に友人がいてね。

 レキ=エシアルトといって、金髪の色男でね、頭が切れて信用がおける男だ」


「頭が切れるね・・・?」

 サーラがやや不服そうな言い方をした。


「明日にでも、彼を訪ねてみるといい。

 細かい場所は、後からサーラに聞くといいよ。

 それとあれを」


 サーラは、財布袋から金貨を取り出すとエルマに渡した。


「10枚あるわ、これは必要になると思うから遠慮せずに受け取って」


「わかりました、ありがとうございます、遠慮なく」


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