ep.11 帝国軍の鏡
此度の総大将を務めたジスト=バーグシュタインは、帝国軍の宿将であり、先々代から仕える初老の将軍であった。
彼は王の執務室を仮の執務室としていた。
執務室のテーブルを挟んで、ジストとミューゼは座っている。
ミューゼ=ガルムラントは、三十手前の若い男の将軍であり、帝国内で勇将として知られる武人である。
二人の前には葡萄酒の盃が置かれていた。
ミューゼは、葡萄酒で口を湿らせると言った。
「やはり、この度の功績で奴は千人隊長に格上げですか?」
「軍で功績をあげたのだ仕方なかろう。
信賞必罰あってこそ、軍は機能するからな」
「自分の手柄のために味方を騙すような輩が千人隊長ですか。
まさに栄えある帝国軍の鏡のような男ですな」
「帝国軍の鏡か・・・
貴公は、今の帝国に含むところがあるようだな」
「帝国は、軍事、貿易、工業、農業、どれをとっても充実しており、有する領土も広大です。
武聖の血が強大とはいえ恐れるに足りません。
このような小国を滅ぼす必要があったのでしょうか?
先代の陛下であればこのような愚行はなさらなかったでしょう」
「それは先代の陛下であればの話だ。
今は、オーラ=ブラウゼ皇帝陛下のご治世だ。
我々、軍人は、陛下の勅命があれば、いつどこにでも進軍せねばならない」
「此度はエムリアという小国ですが、流れからいくと次の狙いはおそらくトールロイ、そうなるとミゼル王国との全面戦争も覚悟せねばなりません。
軍事、貿易の要衝とはいえ、多くの血を流してまで帝国に必要とは思えません」
「陛下が描いておられるものが、我らの尺度では測れぬものかもしれんぞ」
「そうかもしれませんが・・・」
・・・
少しの沈黙の後、ミューゼは言った。
「そう言えば、配下の者から報告があったのですが、王妃の遺体を調べたところ、乱暴を働いた形跡があったそうです。
王族には無礼が無いよう、生かしたまま捕えるように閣下が通達されていたにも関わらず」
「して奴はなんと?」
「どこかの変人が、首のない王妃をもて遊んだのだろうとのことです」
「そうか・・・」
ジストは一口葡萄酒に口を付けると目を閉じた。




