【第55話】「全部ちょうだい」
初めて入ったノクスの家は――凄かった。
ぴかぴかの白い壁に、お洒落な飾り窓。
もう夕方なのに、室内は、すごく明るく見える。
「すごく、素敵なお家ですね。ノクスの家って感じがします」
思ったことをそのまま言うと、ノクスは苦笑した。
「……こっち、来て」
ノクスが僕に向かって、手を差し伸べる。
「はい」
その先は、二階へ上がる階段だった。
僕はノクスの手を取り、素直についていく。
飾り窓から差し込む夕日に、ノクスの金髪が照らされて、眩しいくらいに輝いている。
その姿は、本当に、物語の王子様みたいだった。
部屋に入り、扉を閉めた――次の瞬間。
ノクスが、勢いよく、僕を引き寄せた。
そのまま、唇が重なる。
「んっ」
貪るような口づけだった。
呼吸を奪うように、舌が絡められる。
「……っ、ノクス……」
苦しい。
けれど、止めたいとは、思わなかった。
ノクスの手が、僕の腰を強く抱き寄せる。
僕も、目を閉じたまま、その背中にしがみつく。
――どれだけの時間が、経ったのだろう。
ノクスが唇を離し、乱れた呼吸のままで、僕を見つめた。
「……君が、目を覚まさなかったら、どうしようかと思った」
「……ノクス」
「僕のせいで、君を失ったらって」
「……怖かった」
震える声。
ああ。
ノクスは、僕を、こんなにも、想ってくれている。
「離れません。約束、しましたから」
「……うん」
ノクスの手が、僕の頬に触れた。
その約束を、確かめるように。
「……本当に、ここにいるんだね」
ゆっくりと、寝台に押し倒された。
ノクスが覆い被さってくる。
今度は、優しく唇が重なった。
前にも、似たようなことがあった。
あの時は。
――『ノクスが望むなら』
――『ノクスが喜んでくれるなら』
そう思っていたけれど。
今は。
「……僕のこと」
「ノクスのものに、してくれますか?」
僕が、そうしたかった。
ノクスの動きが、ぴたりと止まる。
「……君、僕を殺す気?」
低い声。
「え?」
「……ごめん」
「もう、止められないかも」
熱を帯びた青い瞳が、僕を射貫く。
なぜか、心臓がどくりと鳴った。
「……君の全部」
「僕に、ちょうだい」
甘い囁きが落ちる。
ノクスの指が、僕の唇をなぞった。
「……はい」
僕は――その肩に腕を回して、目を閉じた。




