表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

47/56

【第47話】「会いたい」

夜明けまで、イグナスさんと月を眺めて。

部屋へ戻った僕は、寝台に入り、考え込んでいた。


イグナスさんに言われたことが、頭のなかでぐるぐると回る。


――『そのままのお前でいいと思う奴がいることだけ、忘れるな』。


イグナスさんは、そう言ってくれた。

僕がおかしくても、関係ないと。


……それでも、「好き」だからと。


じゃあ、ノクスは、どうなんだろう。

ノクスは、「おかしくないよ」と、ずっと言っていた。


……どうして、嘘をつき続けたのだろう。


……何か、理由があったんだろうか。


気付けば、少しだけ眠っていたらしい。

朝の光が、窓から差し込んでいた。


ふいに、扉をノックする音が聞こえて、僕は目を瞬く。


「……起きてる?」


遠慮がちに、そう尋ねる声。


――ノクス。


「……会いたい」


扉ごしに聞こえたノクスの声は。

まるで、縋るようだった。


「……」


どうして、そんな声で、そんなことを言うんだろう。


僕は、ゆっくりと扉に近づき――鍵を開けた。


「……っ」


ノクスが目を見開き――

次の瞬間、僕を抱き締める。


「……会いたかった」


いつもの、安心する匂い。

僕は、その背中に、そっと腕を回す。


「……僕も、会いたかったです」


腕の力が、強まった。


――でも。


「……ノクス」


「僕……わからないんです」


ノクスの胸元に顔を埋めたまま、尋ねる。


「どうして、ずっと、嘘をついていたんですか?」


「……」


息を呑む気配。

ノクスの身体が、強張る。


「僕、ちゃんとできていると思っていました」


「恋人の練習」の時から、ノクスは言っていた。


――「おかしくないよ」「大丈夫」「失敗なんかしてない」と。


「どうして……ずっと、本当のことを教えてくれなかったんですか?」


「……ごめん」


ノクスは僕を抱き締めたまま、声を絞り出す。

ひどく、苦しそうに。


僕は首を振った。


「謝ってほしいわけじゃ、ないんです。ただ、不思議で」


「……」


「僕がおかしいって、わかってたなら……どうして、『恋人になろう』って言ったんですか?」


「……っ!」


ノクスは、何か言いたげに口を開きかけて、また閉じる。


「イグナスさんは、『そのままでいい』って言いました」


「……」


「でも、ノクスは違うんじゃないですか?」


「……」


「僕が、恋人として、どこかおかしいから――」


「だから、ずっと苦しそうだったんじゃないですか?」


わずかな、沈黙のあと。


「……違う」


耳元に、苦しげな声が落ちた。


「君のせいじゃない」


「全部、僕が悪いんだ」


……この間と、同じ言葉。


気付けば、自然に言葉がこぼれていた。


「ノクスは……何に、そんなに苦しんでいるんですか?」


答えは、なかった。

無意識に、僕の指は、ノクスの服の裾を掴む。


「……僕」


「ノクスが離れたくないと言ってくれたこと、嘘じゃないと思っています」


「……っ」


「……だから、余計に、わからないんです。ノクスの、本当の気持ちが」


「……ごめん」


ノクスは、ただ、それを繰り返した。


「ごめんね」


「本当に、ごめん」


理由は、口にしないまま。

僕を、きつく抱き締めて。


……ノクスが苦しんでいる、本当の理由は、何なのだろう。


どうして、そうまでして、僕の側にいてくれるのだろう。


ただ、知りたいと、思った。


「……ノクス」


「明日の朝も、来てくれますか?」


「……え?」


「僕、明日は、お休みなんです」


「……ノクスの話、もっと聞きたいです」


「……」


ノクスは顔を上げて、僕の瞳を見つめた。


「……わかった」


「来るよ」


そうして、どこか諦めたように、微笑む。


「……ちゃんと、話すから」


「……はい」


けれど。


その約束は――叶わなかった。


※※※


「準備は、整ったか?」

「屋敷に問題はないだろうな?」


短い沈黙の後。

男は静かに笑った。


「よし」

「そろそろ、頃合いだな」


「『8番』を、回収しろ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ