【第37話】四人の朝食
次の日の朝。
僕が、食堂で朝食をとっていると――。
「おう!今日も元気か?」
《断罪》先輩の明るい声が、食堂に響いた。
「はい。元気です」
……本当に、前みたいに挨拶してくれた。
僕は、嬉しくなって微笑む。
そんな僕の顔を見て、《断罪》先輩は、どこか安心したように笑った。
「一人なら、一緒に飯、食うか?」
「はい」
《断罪》先輩が、僕の前の席に座る。
その瞬間、周囲がざわついた。
「おい、あれ……」
「まさか、よりを戻したのか?」
「いや、でも《狂刃》と《毒蛇》は……」
「馬鹿、静かにしろ」
聞こえてくる言葉に首を傾げると、《断罪》先輩は顔をしかめた。
「……気にすんな」
《断罪》先輩はメニューを開くこともせず、「白飯と、とにかく何か、肉料理くれ!」と近くの店員に注文する。
相変わらず、肉料理が好きらしい。
店員が返事をして厨房に戻ると、《断罪》先輩が笑顔で口を開いた。
「お前、最近何してるんだ?」
「《教授》先輩の助手になりました」
「へえ?なんでまた」
「必要だと言われたので」
「……は?」
そんなことを話しているうちに、料理が運ばれてきた。
何気ない話を続けながら、一緒に食事していると――
「……お前ら、何してんだ」
聞き慣れた声がして、僕は顔を上げる。
「あ、おはようございます。《狂刃》先輩」
イグナスさんが、向かい合って食事している僕たちのテーブルに近づいてきた。
もの言いたげな視線が、《断罪》先輩に向けられる。
――そこへ。
「楽しそうだね」
穏やかな声がかかった。
ノクスが、笑みを浮かべたまま、こちらへ歩いてくる。
「――ここ、いい?」
そして、誰の返事も聞かず、僕の隣の席に座った。
「《毒蛇》先輩も、これから食事ですか?」
「うん。君の姿が見えたから」
イグナスさんは、唖然とした様子で《断罪》先輩とノクスを交互に見る。
立ち尽くしているその姿を見て、僕は声をかけた。
「せっかくですから、《狂刃》先輩も、一緒に食べませんか?」
「……」
イグナスさんは奇妙に顔を歪めたまま、《断罪》先輩の隣に腰掛ける。
その瞬間、周囲のざわめきが、一段と大きくなった。
「おい、全員いるじゃねえか」
「修羅場か?」
「見るな」
「でも気になるだろ」
「やめろ。空気が最悪だ」
――追加の食事が運ばれてきた。
ノクスは周りの声など気にならない様子で、優雅に紅茶をすする。
それを横目で見ながら、イグナスさんが、低い声で《断罪》先輩に問いかけた。
「……おい。お前、急にどうした」
「何がだ?」
《断罪》先輩は肉料理をかき込みながら、何気ない調子で返す。
「今まで、ずっと避けてただろ」
「仲直りしたんです」
僕が言うと、イグナスさんは怪訝な顔をした。
「仲直り……?」
納得していない様子で、眉をひそめる。
《断罪》先輩が、居心地悪そうに視線を逸らした。
「うるせえ。俺も、色々考えたんだよ」
「色々って?」
唐突に、ノクスが口を挟んだ。
「……何か、心境の変化でもあったの?」
「……」
沈黙する《断罪》先輩に、ノクスの青い瞳が、すっと細められる。
「……言えないようなこと?」
「……言う必要ねえだろ」
……なんだか、空気が重い。
「……あの、喧嘩はやめてください」
ぽつりと、僕が言うと。
三人とも、一斉に僕を見た。
「……ごめん、違うんだよ」
ノクスが、僕を安心させるかのように、微笑む。
「少し気になっただけ。心配しないで」
その様子を見て、イグナスさんが息を呑んだ。
「……お前」
「……なに?」
ノクスがちらりと視線を向け、短く問う。
「……別に」
イグナスさんは、それ以上何も言わず、口をつぐんだ。
《断罪》先輩も、ただ黙って、ノクスを見つめていた。
※※※
夜。
いつものようにノクスは僕を抱き締めて、キスをする。
それなのに、最近ノクスは、苦しそうな顔をすることが増えた。
「……僕、何か失敗していますか?」
僕が尋ねても、ノクスは決まって首を横に振る。
「……そんなことないよ。大丈夫」
けれど、その笑顔は、どこか張り詰めて見えた。
僕が失敗したわけじゃないなら、何か、他の悩みでもあるのだろうか。
……「恋人」として、僕にできることは……
そんなことを考えていると、ふと、過去の記憶が蘇った。
《教授》先輩にサンドイッチを作った時。
――『よかったら、今度、ノクスの好きなもの、何か作りましょうか?』
――『……作って』
僕がそう聞いたら、ノクスは嬉しそうに笑っていた。
「……あの、ノクス」
「ん?」
「よかったら、明日、ここで夕飯を食べませんか?」
「ここで?」
ノクスが、意外そうに首を傾げる。
「はい」
「……でも、あいつとの約束は?」
「《狂刃》先輩ですか?ちゃんと、用事があるってお伝えしますから大丈夫です」
「……」
ノクスがひどく驚いたような顔で、僕を見る。
どうしたんだろうか。
「ノクスがよければ、ですけど」
そう付け加えると、ノクスは、なぜか固い表情のまま呟いた。
「……いいに決まってるでしょ」
……よかった。来てくれるみたいだ。
「何か買ってこようか?」
「いえ、僕が作ります」
そう言うと、ノクスが小さく息を呑んだ。
「……君が?」
「はい。約束したので」
僕にできることは、それくらいだけど……
ノクスが笑ってくれたら、いいな。




