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【第23話】 《断罪》の帰還

《断罪》が任務完了の報告をすると、ワイルドウルフは腕を組み、眉をひそめた。

本来帰還するはずだった予定からは、すでに半月ほど過ぎている。通常ならばありえない。


「ずいぶん遅かったな。何か問題でもあったか」


問われて、《断罪》は顔を歪め――小さく呟いた。


「……任務は、問題なかった」


「なんだ、お前がそんな顔するの、珍しいじゃねえか」


唇を噛み締め、《断罪》は己の見た異様な光景を、ぽつぽつと語る。


「……死ぬほど、胸糞悪い悪党を、取り逃しちまった」


山奥の小さな集落。

赤く染まった納屋。

一人だけ生き残り、虚空を見つめていた子供。


ワイルドウルフは渋面になり、ざらつく顎髭を撫でる。


「……俺らが言えたことじゃねえが、ずいぶんイカれた殺人鬼だな」


「……話しかけても、何の反応もなかった。無理もねえが……」


子供は、王都の大きな孤児院に引き取られることになったらしい。

心理的影響を慮り、事件現場から引き離すためだという。

それを見届けてから戻ってきたため、帰還が遅れた。


「もう少しで間に合ったってのに……遅かった」


《断罪》は、拳を握る。


――そこへ。


「……今の話、詳しく聞かせろ」


静かな声が、割り込んだ。


「……《幽影》?どうした」


ワイルドウルフの疑問には答えず、《幽影》は《断罪》に短く告げる。


「……向こうで、話を聞かせてくれ」


その緑の瞳には――いつもの冷静さとは違う、詰問するような光が宿っていた。



ギルドの作戦室で、《断罪》は《幽影》と向かい合って座る。

すでに他の暗殺者たちはほとんど拠点に引き上げており、辺りはしんとしていた。


「――お前が見たという村、場所はどこだ」


《幽影》が、静かな声で切り出す。


「ルーラル領の外れにある、山奥の村だけどよ……」


答えながらも、《断罪》は怪訝な顔をする。


「……どうして、あんたがそれを知りたいんだ?」


「大切なことだからだ」


それ以上は言わない。


だが、《断罪》をまっすぐに見るその姿には、何か逆らいがたいものがあった。


「子供は、何歳くらいだった。特徴は?」


問われるまま、《断罪》は口を開く。


「あれは……10歳くらいか。特徴って言ってもな……男だったが」


「身体の状態は?傷はあったか」


「……いや」


問われて、初めて《断罪》の脳裏に、小さなひっかかりが生まれる。


「そういや、やけに綺麗だったな……他の村人は、ひどい状態だったが」


「まるで、あいつだけ……」


口にしかけて――《断罪》の表情が、凍った。


無残なまでに壊された、村人たちの遺体。

座り込み、虚空を見ていた、あの瞳。


「……まさか」


「……」


《幽影》の表情が、目に見えて険しくなった。

わずかに、机の上の指先に、力が入る。


その姿を見て――《断罪》の「ひっかかり」は、ほぼ確信に変わった。


「……そこまで、悪辣なことを、するのか」


呟く声は、震えていた。


※※※


朝。

僕がギルドの食堂へ行くと、《断罪》先輩の姿が見えた。

その姿を見るのは、すごく久しぶりな気がする。


――ずいぶん遅かったけれど、何かあったんだろうか。


「《断罪》先輩。お久しぶりです」


僕の顔を見た《断罪》先輩は、一瞬だけ目を見張り――いつもの笑顔で答える。


「おう!久しぶりだな。元気だったか?」


「はい」


「……」


でも、《断罪》先輩の言葉は、それ以上続かなかった。


再び、あの日のような沈黙が落ちる。


その時、僕はまだ《断罪》先輩に、きちんと謝っていないことに気付いた。


「《断罪》先輩」


「……ん?」


「恋人、ちゃんとできなくて、すみませんでした」


「……は?」


「今度は不快な思いをさせないように、頑張ります」


ぺこりと頭を下げると、《断罪》先輩は、声を詰まらせた。


「……そうじゃ、ねえんだよ」


――また、苦しそうな声。


「え?」


顔を上げると、《断罪》先輩は首を振り、にかっと笑った。


「気にすんな!もう終わったことだ!」


そこへ、《狂刃》先輩と《毒蛇》先輩がやってきた。


二人とも、僕と《断罪》先輩を交互に見て――いつも通りに、口を開く。


「遅かったな」


「君が任務に手間取るなんて、珍しいね」


「……まあ、色々あってな」


言葉を濁す《断罪》先輩。

そうして、またみんなが揃い、日常が過ぎていく。


《断罪》先輩は、食堂に来ることが減った。

僕の顔を見ても、いつも通り挨拶はしてくれるけれど、前みたいに話しかけてくることはない。

――やっぱり、不快な思いをさせてしまったんだと、思う。


《狂刃》先輩は、時々僕を外食に連れて行ってくれた。

「適当な格好でいい」と言われたから、普段着代わりの黒装束で、そのまま出かける。

そのたびに、「どこに行くか」「何を食べたいか」を聞かれて、僕は少し戸惑った。

よくわからないまま、おかしなものを注文して失敗しても、《狂刃》先輩は怒らない。

ただ、面白そうに笑う。

……不思議だった。


《毒蛇》先輩との「恋人の練習」は、キスから始まるようになった。

最初の頃とは違う、深くて、長い口づけ。

その手が僕の髪や頬に触れる回数が増え、身体を離すまでの時間も、段々と伸びていく。

キスをしたあと、《毒蛇》先輩は、前以上に優しく笑うことが多くなった気がする。

……うまくできているみたいで、よかった。


――そんな、ある日の夜。

どこからか、小さな叫び声が聞こえた気がして、僕は目を覚ました。


耳を澄ませる。


「――襲撃だ!伝令魔術を!!」


刃物がぶつかるような音と、誰かの怒号。


……襲撃?


反射的に身を起こし、枕元のナイフを手に取った。

ギルドの方に行こうとして――ふと、気付く。


……風が、吹いている。


振り返った次の瞬間――窓から、黒装束に身を包んだ何者かが、飛び込んできた。



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