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【第11話】《天然》とEランク任務

「おはようございます。今日は何にしますか?」


「おう!今日も可愛いな!好きだ!!……白飯と、とにかく肉料理くれ!!」


「わかりました」


食堂で、いつもの挨拶をしたあと、《断罪》先輩の注文を聞く。


「……雑すぎだろ」


「ほんと、元気だよね」


《狂刃》先輩と《毒蛇》先輩もそれぞれ別のテーブルで食事しながら、時折会話に混ざる。


「外さないでくれると嬉しいな」と言われた《毒蛇》先輩のブレスレットは、今日も忘れずに身につけていた。

皿を運ぶたびに、小さな猫のチャームが揺れる。


《狂刃》先輩がそれを見て、呆れたように呟いた。


「……お前、ほんと律儀だな。そんなの厨房で邪魔になるだろ」


「約束ですから」


《毒蛇》先輩が面白そうに目を細める。


「あれ、もしかして嫉妬?」


《狂刃》先輩が答える前に、《断罪》先輩が大声を張り上げた。


「俺の目の前で、妙な空気出すな!!」


こんなやりとりが、最近の「当たり前」になっていた。


――そんなある日。


「おい、《天然》。お前に任務をやる。行ってこい」


「任務ですか?」


ワイルドウルフさんから突然そう言われ、僕は目を丸くした。

《断罪》先輩が、すかさず口を挟む。


「なんだ、危険な任務なら、俺も行くぞ!!」


「危険なんざねえ。ただの物資補給任務だ」


《狂刃》先輩が眉をひそめて問いかける。


「……一人で行かせるのか」


その声は、なぜかものすごく不安そうだった。

《毒蛇》先輩も肩をすくめる。


「まあ、この間、あんなことがあったばかりだからね」


その言葉にワイルドウルフさんは首を傾げる。


「『あんなこと』?何かあったのか」


《断罪》先輩が鼻息荒くまくし立てる。


「可愛すぎて、妙な男に声をかけられたんだ!!絶対一人でなんか行かせねえからな!!」


「……」


数秒の沈黙のあと、ワイルドウルフさんが疲れたように溜息をついた。


「……一人じゃねえ。他のEランクの連中も一緒だ」


「なんだ、そうなのか……って、他の奴がこいつに目ぇつけるかもしれねえだろ!それもダメだ!!」


「あの、《断罪》先輩。それだと任務に行けないです」


僕が言うと、ワイルドウルフさんの顔が、ふと真剣になる。


「お前らみたいなのに守られてばかりいたら、暗殺者として成長しねえだろ。こいつのためだ」


「……ぐっ……」


《断罪》先輩が納得いかない様子で押し黙る。でもそれ以上は言わなかった。


「……ま、確かにな」


《狂刃》先輩はそう呟きながら、僕の顔をちらりと見る。


「成長しねえ方が危ねえか」


「だよね」


《毒蛇》先輩もふっと笑った。

そこで、ワイルドウルフさんが「よし」と口を開く。


「任務は王都の補給地点の点検と、物資の受け渡しだ。管理人がいるから、そいつの指示に従え」


「はい」


「ついでに周辺の様子も見てこい。地形を頭に入れておくのも、暗殺者としての務めだ」


「わかりました」


僕がそう返事すると、ワイルドウルフさんは頷き、踵を返した。


「……お前らのせいでギルドの風紀が乱れっぱなしだ。たまには離れろ」


……最後に、ぼそっと呟く声が聞こえた。



一緒に行く人たちは、全員、僕と同じくらいの年齢に見えた。

簡単な任務と言っていたからだろうか、誰も特に緊張している様子はない。


ギルドから支給された黒装束をまとい、補給物資の入った袋を背負う。

《断罪》先輩からもらった「ファントム必殺祈願」のお守りも、ちゃんと懐に入れた。


ギルドを出ようとしたところで、入って来た《幽影》先輩と鉢合わせた。

僕の近くにいた一人が、その姿を見て、なぜかひゅっと息を詰める。


「あ、《幽影》先輩。お久しぶりです」


「……ああ」


ここ数日、姿を見かけていなかったけど、忙しかったのかな。


深い緑の瞳が、黒装束姿の僕を映す。


――ほんの一瞬だけ、その視線が揺れた気がした。


「……任務に行くのか」


「はい。補給任務です」


「……そうか」


《幽影》先輩の口調は、いつも通り無駄がない。

なのに、空気だけが、少しだけ重くなった気がした。


「……気をつけろ」


「はい、ありがとうございます」


そこへ、《教授》先輩もやってきた。


《幽影》先輩と同じように、僕の姿を見て、銀縁眼鏡を押し上げる。


「君……任務へ行くのか」


「はい」


「……」


沈黙。どうしたんだろう。


「簡単な任務だそうですけど、問題がありましたか?」


「……いや」


《教授》先輩は一瞬だけ僕の顔を見て、すぐに首を振った。


「……寄り道するな。すぐに戻れ」


「わかりました」


……もしかして、二人とも心配してくれてるのかな?


ギルドから出ると、さっきの人が僕に話しかけてくる。


「……お前、なんでそんな普通に、あの人と話せるんだよ」


「《幽影》先輩のことですか?」


僕が聞き返すと、その人は震え上がった。


「伝説の暗殺者だぞ。不老不死とか、やばすぎだろ。俺たちが気軽に話しかけられる相手じゃない」


「そうですか?《幽影》先輩は優しいです」


「……『優しい』?」


訝しげな視線が、僕に向けられる。


「はい。初めての任務の時に、『無理そうなら、逃げてかまわない』と言ってくれました」


「……いや、お前それ、ただ期待されてないだけ……」


「?」


首を傾げると、その人は諦めたように、首を振った。


「……お前、やっぱ《天然》だな」


僕たちの話を聞いていた他の人たちも、なぜか納得したように頷いていた。



ギルドから街道を歩き、途中で人気のない脇道に逸れる。

太陽が中天にかかる頃、ワイルドウルフさんからもらった地図の場所に到着した。


静かな場所にぽつんと建っていたのは、古びた小屋。

一人が木製の扉を叩くと、中から「入れ」と短く声が聞こえた。


ぎい、という軋んだ音とともに扉を開けると――中にいたのは、年配の男の人。

背中が少し曲がっているけど、目は油断なく光っている。


「管理人さんですか?」


僕が尋ねると、男の人は頷いた。


「物資の受け渡しだろう。連絡は受けている。点検するから、お前たちは少し休んでろ」


言われて、それぞれが荷物を下ろし、小屋の椅子に腰掛けた。

管理人さんはいったん奥の方へ下がると、薄緑色の液体が入ったグラスを運んできて、僕たちに手渡す。


「ほらよ、飲め。疲労回復効果がある薬草茶だ」


「ありがとうございます」


半日歩き通しだったから、みんな、一気に飲み干す。


僕もグラスに口を運んだ。少し渋みがあるけど、冷たくて気持ちいい。

ごくり、と一口飲み込む。


――そのとき。


ほんの一瞬だけ、喉になにかが引っかかるような感覚があった。

それと同時に、頭の奥で――微かに、何かが軋むような違和感。


「……?」


でも、二口目を飲んだ時には、もうその感覚は消えていた。


休憩した後、僕たちはワイルドウルフさんに言われた通りに、小屋に破損や異常がないか、点検して回った。

物資の引き渡しも問題なく終わり、管理人さんに挨拶した後、小屋を後にする。


その後は予定通りに周辺を探索し、王都から補給地点までの経路を確認した。


……拍子抜けするほど簡単に、任務は終了した。



夕方。


「ただいま戻りました」


僕たちは、来た道を引き返し、無事にギルドに戻ってきた。


「ご苦労さん。後で報告書を出せ」


「わかりました」


ワイルドウルフさんに報告して、ふと食堂に目をやると――


「あれ?」


……みんな、いる。


《幽影》先輩に《教授》先輩。


「……帰ってきたか」


《断罪》先輩。


「おう!無事に帰ってきたな!!何もなかったか!?」


《狂刃》先輩に、それから《毒蛇》先輩。


「……迷子にはならなかったみてえだな」


「お疲れさま」


僕と一緒にいた他の暗殺者たちが、揃って「ひっ……」と息を呑むのが聞こえた。


「待っていてくださったんですか?」


僕が尋ねると、《断罪》先輩が真っ先に口を開く。


「当たり前だろ!心配したんだからな!!」


……みんな、優しいな。


「ありがとうございます。無事に終わりました」


――そう言った瞬間。


「……?」


喉が、熱い。


違う。


灼けるように痛い。


何かが、体の奥からせり上がってくる感覚。


「……っ」


思わず、咳き込んだ瞬間。


目に入ったのは、手の平に滴る、赤だった。


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