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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
トルマリエの勾玉
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一難去って、また任務

 大臣の張り上げ声に驚いたナワテが顔を上げる。見ると、普段は垂れているはずの彼女の目尻が細く釣り上がっていた。


「君は先人の悪口でも言いたいのかしら。だったらはっきりと断っておきます。わたしは口が裂けても君に同調などしません。現代の価値観で過去の人間を酷評するなど言語道断です」


 千言万語せんげんばんごを並べ立てていたナワテだったが、大臣の迫力を前に押し黙ってしまう。

 大臣は静かになったナワテを見ると、気持ちを落ち着かせるような深いため息を吐いた。


「改めて質問に答えます。我が国は、この勾玉まがだまが持つ不思議な力を心の底から利用したいと思っています」

「どういう……」


 強い信念でナワテを一喝したにも関わらず、次の発言はそれとは相反する内容だった。

 矛盾を感じたナワテが言い返そうとするが、「でも」という大臣の言葉に遮られた。


「それを力で奪い取るなどという馬鹿げたことを我が国は考えません。自国の兵に血を流させるくらいなら、相手を説得して、時には脅しを掛けて、必要ならアメを沢山あたえて、そうなるように丸め込むのが外務大臣たるわたしの仕事だからです」


 確かに、そのほうが力で奪うよりも合理的である。それも、こいに餌をやるようなその策は、必ずしも人道的な考えとは言えない。スレタやルルだって、今の大臣の話を聞いていい気はしていないだろう。

 だからこそ、ナワテには今の大臣の言葉が本音のように聞こえていた。


 つまり、デリスランド政府がトルマリエの勾玉のエネルギーを手に入れたいことは事実だが、武力で奪い取ろうなどという野蛮な考えはない。というのが、デリスランドの外務大臣、アカネ・シラハからの回答だ。

 あくまで、今のところ、であるが……


 大臣はナワテが納得したと見ると、彼の近くまでゆっくりと足を運んだ。


「マリエ・ナワテ。わたしたちの親、お爺さん、お婆さんの世代は、戦後の経済難を見事に脱却し、デリスランドを急成長させた英雄たちよ。君だって、その恩恵を受けているから自国で豊かな生活を得られている。本国であなたの帰りを待つ部下たちだってそう。そのことを忘れないで」


 大臣はそう告げると、ナワテの手を取り、強く握った。

 ナワテが照れ隠しで目を逸らすと、……

 そこには誇らしげに胸を張る、黒服のダークメアたちがいた。きっと、今の大臣の言葉に背中が伸びたのだろう。

 国に従う大臣として、国に命を捧げる部下を前にして、これ以上の真っ直ぐな言葉があるだろうか。背筋を伸ばすダークメア同様、ナワテは自分の胸が熱くなっていくのを感じた。

 同時に、『これが政治家か……』と、冷静なもう一人の自分が心の中でそう言った。


「おほん。では、話を戻します!」


 大臣はわざとらしい咳払いをすると、ナワテの顔の前で人差し指を立てた。声色はいつもの高い声に戻っている。


「止めればいいんですね。外の騒ぎを」

「さすがー、話がはやーい!」


 言葉を先読みしたナワテを、大臣が指をパチンと鳴らして褒め称える。


「これまではかなり微妙だけれど、正当防衛の拡大解釈でなんとかやり過ごしてきました。しかし、我が国としては、これ以上の介入は控えたいと思っています」

「え? ではどうやって……」


 説明の後半あたりから眉をひそめだすナワテ。てっきりダークメアと協力し、鎮圧を図れと言われるものだと思っていたからだ。

 そんな彼の顔の前に、またマニキュアの塗られた人差し指が現れた。


「ヒント。あなたが持つ、天賦てんぷさいです」


 そう明るく言いながら、得意げな顔で鼻をうごめかすアカネ大臣。

 暴動を止めることのできる、ナワテの天賦の才とはなんだ……。思い当たるのは覚えたての魔法くらいのものだが、あの電撃が武力行使に当たらないはずがないのでそれはない。

 考えれば考えるほど話が読めなくなるナワテの脳は、完全な迷路にハマった。


 そのとき、思いもよらぬ方向から助け舟が飛んでくる。


「演劇っ!」


 後方から聞こえてきたのは、少し離れた場所でこの話を聞いていたスレタの声だった。


「正解です」

「わぁいわぁい! 賞金はいくらだぁー!」


 大臣がスレタを指さしながら正解を告げる。当の本人は大喜びだ。

 黒服の男たちは拍手喝采。ルルも「さすがスレタさま!」などと言って、次期お姫様を全員でよいしょしている。


 そんな賑やかな状態のなか、浮かない顔の男が一人。


「演劇でこの国家の一大事を止めるだなんて……正気ですか?」

「だって他に方法がないもの。仕方がないじゃない?」


 軽い感じでそう言い放つアカネ大臣。まるで他人事のような言い草だ。


 外は暴動と言っていた。長いあいだ感情を押し隠していた体制側と反体制側の戦端が切って開かれたのだ。今、外では百人以上が入り乱れていることだろう。それを演劇一つで止めようなどあまりに無謀すぎる。


 今一度ダークメアの指揮を取ってくれという言葉がナワテの口を突きかけた。

 しかし、


「ナワテ、行くよっ!」


 後方からスレタの声が聞こえた。振り返るとそこにいたのは、ルル、スレタ、スッチ。ナワテ以外の魔女の三人が横並びに整列していた。三人が三人、勇躍ゆうやくを宿した双眸そうぼうを爛々(らんらん)と輝かせている。

 それを見てナワテは悟った。


 …… どうやら、自分の預かり知らないところで話がまとまったみたいだ。


「なに弱気になっとんねん、大将。男はやれるかやれんかやない。やるかやらんかやろ」


 そう言うのは手当を受けたばかりのスッチ。調子に乗った彼は、ベタな言葉でナワテを煽り立てる。

 今度は、真剣な顔つきのルルが、ナワテに向かって歩いてきた。


「ナワテ。あんた言ったわよね。君は運命を信じるかいって。わたしたちはこのゆがんだ世界に終止符を打つために導かれたって」


 確かにそんなようなことは言った。かつて、演劇で民衆の胸を躍らせた二人の名女優。その子どもが、同じ場所で出逢い、同じ劇団で芝居が出来た。そう思っても不思議ではない。


「それはそうだけど、それとこれと……ん?」


 ナワテが心のなかで頭を抱えていた最中、クスクスという小さな笑い声が聞こえてきた。

 見ると、ルルの後方にいる、スレタ、スッチ、そして黒服の男たちまでもが、必死になって笑いを堪えていた。

 なにがそんなに面白いんだと思っていると、


「君は運命を、信じるかい、だって……ぷっ、ダサ」

「っっっ‼」


 スレタのヒソヒソ声が聞こえた瞬間、ナワテの顔が一気に熱くなる。

 あのときは追い詰められていて、精神的にハイになっていた。でも、冷静になって思い返してみると、我ながら寒いセリフを言ったもんだと思う。


 それも、年頃の女に向かって、

 運命を信じるかい……っ!


 すぐにでも誤魔化したい。それが無理なら、せめてこの場から逃げ出したい。

 そんなナワテのどうしようもない恥辱ちじょくの矛先は、


「よし、みんな行くぞっ!」


 演劇で民衆の心を動かし、この暴動を止めることだ。


「ふぁ!」

「ちょっと待ちなさいよ、ナワテ」

「お、おい。いくらなんでも切り替えが早すぎるて」


 せずした形で、ナワテの腹が決まった。

 魔女の劇団が、地上で巻き起こる事変の鎮圧を図る。


 それも、演劇で!


 王宮の最下層を、階段を、駆ける。

 誰よりも早く──!


 顔と尻に火が着いたナワテは先頭を切って、王宮の最下層から飛び出した。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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