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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
トルマリエの勾玉
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死闘が終わって……

 ドリスコルへの静止を命じたその声は、この部屋の入口付近から聞こえた。


 見ると、スレタが破壊したドアから、黒服を着た男たちが崩れ込むように入ってきていた。その数、20名はゆうに超えている。

 黒服の男たちは風のような素早い連携を見せ、自爆魔法を放たんとするドリスコルを包囲。彼らの手中には黒の拳銃が握られ、そのすべての銃口にドリスコルが映し出された。


 まだドリスコルの指から風のやいばは出現していない。いや、出来ないのだ。出すそぶりを見せれば最後、老体はハチの巣になるだろう。


 すると、車座くるまざを描いた黒い人垣ひとがきから、赤い服を着た一人の女が姿を見せた。

 年のころは30前後。小柄だが、大人の女っぽいふわふわの茶髪を腰まで伸ばしている。婦人用のスーツは正装のようだが、大きなえりが上半身の脂肪を頑張って寄せ集めたであろう芳醇な胸元を玉座の如く強調していた。


「お久しぶり、マリエ・ナワテくん。その様子だと、少し来るのが遅れたみたいね」

「少し……いいえ、遅すぎです。貴方には潜入初日に会いに来てほしかったくらいですよ。聞いてた話と、ずいぶん違ったのでね」


 トゲのあるナワテの言葉に、女は「おお、こわいこわい」と言いながら茶化すように肩をすくめると、黒服の男たちにドリスコルを拘束するよう命じた。


 数と近代兵器に圧倒されたドリスコルは完全に戦意を喪失。その心とシンクロするように、自爆用の火球も霧消むしょうさせていた。


 女の部下であろう黒服の男たちは、手際よくドリスコルを後ろ手錠にした。その後、魔法を出さないように、胴体に銃口を突き付けられながらドリスコルは連行されていった。

 上王に関しては、まだ息があったみたいだ。しかし、あれだけの攻撃をもろに受けたのだ。重体であることは間違いない。黒焦げになった巨躯きょくはピクリとも動かず、黒服の男たちの手により大きな布担架ぬのたんかに乗せられて運ばれていった。


 ナワテはその黒服の男たちに見覚えがあった。主にデリスランドの要人の護衛を任される民間武装組織――ダークメアだ。

 上王たちが部屋から姿を消すまで、女は垂れた目で鋭く睨みつけていた。


「ナワテ、誰よ、あの女?」


 窮地を救ってくれた相手だというのに、いぶかしげな目をして女の素性を訊ねるルル。その声は明らかに不機嫌そうだ。


「デリスランドの外務大臣だ。今回で言えば、ぼくの上司にあたるな」

「なんですってっ⁉」


 予想し得ぬ答えに、ルルの口があんぐり状態で固まってしまう。大臣らしからぬいでたちであるから無理もない。

 一方、ナワテは微塵も驚いていなかった。というより、薄々この国にアカネ大臣が来国していることは勘づいていた。

 今宵こよいの式典にデリスランドの要人が主賓しゅひんとして招かれると、キースに聞かされたあのときから。それが、デリスランドの顔──外務大臣たる彼女だっただけのことだ。


 つまり、これで終わった。

 魔女の劇団が、あの壮絶な戦いを制したのだ。

 ドリスコルは手強いが、完全武装したダークメアに任せておけば大丈夫だろう。


「これはこれは、デスレタ様。ご無事でなにより。お目通めどおりが叶い光栄でーす」

「ふぁ!?」


 アカネ大臣はスレタを見つけるや、おもねるような猫なで声を発する。ナワテを相手にするときとは天地の差だ。しかし、そのあとはうやうやしく腰を落とした。


「おぉい。アカネぇ〜」


 地下室内に、弱々しい男の声が響き渡った。

 それを聞いた彼女は、やれやれといった様子で長い息を吐くと、壁際のほうに足を運んでいった。


「あらら〜、大丈夫ですかぁ?」

「大丈夫に見えるのか? 急所が外れたのが不幸中の幸いだよ」


 なんだか……初対面とは思えない気さくな言葉が二人のあいだを往復した。

 未だキースが何者なのかは窺い知れない。アカネ大臣と顔見知りなのだろうか。


「すぐに手当します。……至急医療班をよこして」

「待て、俺よりナワテを優先しろ」

「彼はあなたより軽症です。見るに、体力を消耗しただけでしょう」

「そうか……。それは良かった。ありがとう」

「え」


 少しのあいだ、大臣の表情が固まったように見えた。礼を言われたことに困惑したらしい。確かに、キースの口から感謝の言葉など、美女と野獣くらい釣り合わない。

 しかし、大臣はナワテの顔を見ると、なにやら腑に落ちたような微笑を浮かべた。


「それより、どうやってこの場所を突き止めた? こう言っちゃなんだが、上手くだしぬいたつもりだったんだけどな」

「闘技場であなたとの合流を待ってたんです。そしたら、あなたが突然予定を変更して最下層に向かったと、ブルーバーグ殿下がお教えになられたので」

「あの爺さん。やっぱり気付いてたんだな。俺の考えを」

「おそらく。殿下から、あなたたちを止めないでやってくれと懇願こんがんされる始末でしたよ」

「え!? …………くそっ」


 どうやらブルーバーグ殿下は、トルマリエの勾玉を破壊するというキースの野望を見破っていたらしい。

 ……なのに、あえて止めなかった。

 疑念を浮かべるべき話だが、ナワテたちにはなんとなく、殿下の考えが分かる気がした。


「まったく……勾玉まがだまが無事だったから良かったものの、あなたのやったことは、単なる内政干渉じゃありません。国家反逆罪に問われる事案ですよ」

「わーってるよ。覚悟はできてる」


 やり取りを聞くに、地上で繰り広げられているクーデターは、デリスランド政府も認知していたことらしい。それ自体はなんら不思議じゃない。上王ではなく、ブルーバーグ殿下にこの国の実権を握ってもらったほうが、デリスランド側にとって都合が良いわけだから。

 しかし、勾玉の破壊はキースの単独行動だった。

 そして、どうやらキースはデリスランド側の人間のようだ。そう思わせなかった栗色の髪は毛染めをしているのだろう。

 つまり、彼もナワテと同じ、デリスランドから送られた潜入スパイだったのだ。

 かえりみれば、キースはアダルアの裏事情まで知り尽くす情報通で、王都内でも反体制側のリーダー的存在だった。敵の政権内部に潜入し、この国の調査及び、衛兵たちを反体制側に誘導する工作を図っていたと考えれば合点がいく。


「パパとママは無事なの?」

「ええ、お二方ともご無事で御座います。お話しなさいますか?」


 スレタからの質問に、大臣の口ぶりがあからさまに鷹揚おうようになった。鼻をうごめかしながら指をさすのは、黒服の男の胸付近に装着されたトランシーバーだ。


「するする。お話しする!」


 大臣の粋な提案に、スレタは尻を振って大喜び。どちらかというと、初めて見るトランシーバーに興味津々の様子だ。戦闘中の猛々(たけだけ)しい姿が嘘のように、今は子どもの顔に戻っている。


 黒服の男の一人がトランシーバーの使用方法をスレタにレクチャーし始める。

 その間に、神妙な面持ちをしたルルが大臣に詰め寄った。


「地上はどうなってるの? ブルーバーグ軍は、ママたちは王を討ったの」

「討ったというか……ねぇ?」

「は……?」


 ルルの憂慮ゆうりょの表情とは裏腹に、大臣は鼻で笑いながら黒服の男たちを見た。彼らも同じような顔をして肩をすくめている。


 そもそも結成されたブルーバーグ軍の作戦は、王都各地で同時多発的に火災を発生させ、そのドサクサに紛れてデスラー闘技場に潜入し、そして王を討つというものだった。

 実際、リリ・マッケナー率いるブルーバーグ軍B班五名は、順調に行軍こうぐんを進め、ナワテらと別れてから15分ほどで式典前のデスラー闘技場内に潜入したのだという。

 闘技場を守る兵数は50名弱。王の周りにも十数名の兵士がいた。人数的には圧倒的に不利で、誰が見ても多勢たぜい無勢ぶぜいだった。

 そんな中、ブルーバーグ軍B班は、デスラー闘技場の控室にいた王に宣戦布告を告げた。

 すると、王はなにを血迷ったのか、別室で待機するアカネ大臣を人質に取るよう自らの兵に命じたのだという。

 他国での武力行使はアカネ大臣も避けたいところだ。だが、この場合は流石に正当防衛が適用される。

 その結果、今回の来国にお供していたダークメアが王を拘束してしまったのだとか。


「……あの王様は国際法も知らないのかしら。本来、内政干渉になるからこちらからは手出しできないのに……きっと自分の命を奪いに来たブルーバーグ軍を前にして焦ったんでしょうね」

「……なに、そのマヌケな話は」


 大臣からこと顛末てんまつを聞いたルルは、唖然とした表情で立っている。


「ドリスコルが傍にいればこんなことにはならなかったと思うんだけどね。わたしたちも、ドリスコルは地上に来ると予想してたから、まさかだったわ」


 大臣の言う通り。地上の鎮圧を優先させなかった上王とドリスコルの選択はミスといえる。

 だがそれは結果論だ。上王にしてみれば、この国の核を守ることが国家の最優先事項と見たのだろう。ついでに禁断の魔法を使いしナワテを消す口実になるのだから一石二鳥だ。

 仮に現王が討たれたとて、多大な影響力を持つ上王と、圧倒的な力を持つドリスコルが倒れさえしなければ、そう易々とブルーバーグに実権を握られることはない。再び地上に戻ったのち、ブルーバーグを力でねじ伏せ、新しい替え玉を即位そくいさせれば万事元通りとなる。

 結果、その二人ともが倒れてしまう結末となったが……。


 いずれにせよ、次代に即位するのは、自ら軍をひきいて王を討ったブルーバーグ殿下だ。


「パパ、ママ。聞こえますかー。こちら美人で優しくて、スタイル抜群のスレタちゃんでーす。どうぞ!」


 トランシーバーから聞こえてくるその第一声を、スレタは心待ちにしていた。

 ……しかし、話はそう単純なものではなかった。


『突入中のダークメア1班、聞こえるか! 聞こえ次第応答せよ!』

「ふぁ! パパじゃない!」


 トランシーバーのマイク部分から聞こえてきたのは、殿下の声ではない。スレタの耳に馴染まない、たくましい男の声だ。


 …… なにをそんなにまくし立てることがあるというのか。それは分からない。


 分かったことは一つだけ。

 男の声がただならぬ気配を感じるに余りある、切羽詰まった語気ごきだということだ。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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