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魔女の劇団  作者: 倉敷純次
ベルルックサリーシステム
35/72

祝勝会

 初戦が終わった、その日の夜。


 魔女の劇団メンバー四人はナワテの家に集合し、祝勝会を兼ねて食事をしていた。

 献立はパンとシーチキン。質素に見えるが、この町ではこれがご馳走なのだ。

 一安心するナワテの目にも、今宵(こよい)の卓上は豪勢に映った。


「ナワテ、今日のスレタの演技どうだった?」


 ツナサンドを両手持ちしながら、今日の出来を訊ねるスレタ。相当手応えがあったのだろう。見るからに褒めて欲しそうな顔でナワテを見つめている。


「まるでダメだったな。立ち方や発声がなっちゃいない。舞台俳優にとって基本中の基本だぞ。明日からまた特訓だ」

「そうだろそうだろぉ。やっとナワテもこのスレタの実りょ…………ふぁ?」


 しかし、返ってきた言葉はスレタの予想と背中合わせ。思考が追い付かない彼女は、目を点にしたまま石のように固まっている。

 そんな悲劇のお嬢様を見せられて、黙っていられるルルではない。


「ちょっと、あんた。スレタさまは昨日演技を始めたばかりなのよ。それにしては良くやったわよ」

「そ、それにしては……?」

「あっ! い、いえ。あの違うんです、スレタさま」


 余計な一言を滑らせてしまったルルは、顔の前で両手を振りあたふたしている。

 一方、褒めてもらうつもりが、逆に鼻を折られてしまったスレタ。落ち込んでしまった彼女は、しょんぼりした目でパンに挟まれたツナを見つめている。


「でも、嬉しかったぞ」

「え……!」


 ぼそっと囁いたナワテの言葉が、スレタの体温を一気に熱くした。


 実はこれ、マーガレットが幼少期のナワテに、よく掛けていた言葉だった。

 マーガレットは演技に対して厳しかった。演技でナワテが褒められたことは殆どない。母を思い出すときも、叱られた記憶が真っ先によみがえるくらいだ。

 でも、どんなにけちょんけちょんに言われても、最後に必ず掛けてくれる言葉があった。


 ―― 『でも、お母たん嬉しかったよ』 ――


 それだけで、明日も頑張ろうと思わせてくれる、ナワテにとって魔法のような言葉だった。


 赤く火照ほてったスレタを見ると、ナワテはあの頃の母の気持ちが分かった気がして、スレタ以上にハニカミそうになった。


「あっ、そういえばスッチ。風を起こす前の唱えなんだが、声が客席まで届いていたぞ。次からは無言で魔法を出してくれ」


 照れる自分を誤魔化すように言ったそれは、本番中ナワテが唯一気になっていた点だった。祝勝会中ですらダメ出しをする彼は、生粋きっすいの芝居バカなのだ。


「なに言うてんねん。断りもなく魔法を繰り出せ言うんか。そんなこと出来るかいな」

「断り……? 唱えがなきゃ魔法は出せないのか?」


 ナワテが訊ねると、全員が不思議そうな顔を浮かべながらナワテを見た。


 …… あ、マズい。


 うっかり魔法についての質問をしてしまった。この国の人間にあるまじき言動だ。

 案の定、いぶかしげなルルの視線がナワテに向かって突き立てられた。彼女と出会ったとき、幾度となく浴びせられたあの視線だ。

 焦るナワテは、この場を誤魔化せる最善の言葉を脳内で検索した。

 その時だった。


「お前も飯を食うとき神に祈るだろう。それと一緒さ」

「──⁉」


 詠唱えいしょうの理由が判明したと同時に、ナワテの肩がビクンと跳ねた。彼が驚いた理由は、その声がスッチでもルルでもなかったからだ。


 声を辿ると、……玄関の扉の縁にもたれる何者かのシルエットが見えた。

 ナワテとルルは立ち上がって、警戒しながら扉の方角に目を凝らした。


 その者は180センチはあるだろう高身長の男。洒落た茶色のロングコートを纏い、頭には同じ色のハットを目深くかぶっている。下半身も青いジーンズに革製のブーツと、どれもこの町の人間が身に着けないであろう高価そうな代物だ。

 都会人だとは思うが、ハットのツバ下から生える栗色の髪はボサボサで、口まわりに無精髭ぶしょうひげを蓄えているという、なんとも男臭いいでたちだ。ナワテの目には、その男が西部劇の登場人物のように映った。


「よう、魔女の諸君。今日はたいそうな躍進やくしんぶりだったな」


 男は小さくハットを持ち上げ、ねぎらいの言葉をナワテらに送った。

 ナワテは目くばせを送り、ルルにスレタをかくまわせた。

 皆が気になることは一つ。男が敵なのかどうか。その堂々たる振る舞いから見て、泥棒や強盗の(たぐい)ではないということは分かる……。


「おう、おやじ。いいもん呑んでるじゃねーか。一緒にやるか?」

「え? お、おう」


 陽気な男は内ポケットから手のひらサイズのウイスキーのびんを取り出し、誰の断りも得ることなく椅子に座った。


「どなたでしょう。あいにく貴殿(きでん)のような都会かぶれの方をご招待した覚えはないのですが」


 速やかに男の素性を暴きたいナワテは、なるべく丁寧な言葉を掛けようとした。しかし、その語気(ごき)には、並々ならぬ不信感が漂っていた。


 男は酒を一口含んだあと、問いかけてきたナワテの顔を見た。暖炉の光に灯された片側の顔には、あわい笑みが浮かんでいる。

 その余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)な態度は、ナワテをあからさまに嫌な予感にさせた。


 そして、次に男が口を開いた時、その予感が見事的中することになる。


「そうツンケンすんなよ。マリエ・ナワテくん」

「──ッ!」


 ナワテは生まれてはじめて、背中に冷たい汗が流れる感覚を覚えた。


ここまでお時間を頂いた方々、誠にありがとうございます! 感謝感激です!


もしよろしければ、評価【☆☆☆☆☆】を押してくださいませm(__)m


今後の励みに致します!(^^)!

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