……殺さないの?
「……ラノイ、間違いないのか?」
チェルの視線から露骨に顔を背けながら、カイナはラノイに確認した。
「襲撃に使用された大砲について調査したところ、第2小隊のダズの協力が明らかとなりました。本人も認めております」
「そうか……」
「……殺さないの?」
依然として腕を離さないカイナの顔をチェルは覗き込む。
カイナは観念したように息を吐くと、チェルの気だるげな瞳をまっすぐに見ながら口を開いた。
「殺すも殺さないも俺が決めることじゃない。当然、チェルが決めることでもない」
「じゃあ、誰が決めるの?」
「民主的に話し合っている最中だろう。お前も聞いていたはずだ」
「……」
チェルの視線が円卓へと向かう。しかし、円卓に座る誰もが先ほどのカイナと同じようにチェルから視線を外した。
「……僕に任せるってことかな?」
「誰もそんなことは言っていない。これはシビアな問題だ。すぐに答えは出せない」
「あ、あのっ……よろしいでしょうかっ?」
カイナとチェルのやり取りを至近距離で聞いていたラノイが、おずおずと声を上げた。
「ああ、放っておいて悪かった。もう下がってもいいぞ。報告は確かに受け取ったと伝えておいてくれ」
「い、いえっ、そのっ……提案があるのですが!」
声を上擦らせながらラノイは言った。この重苦しい会議に一石を投じたいと、その若さ溢れる瞳が語っていた。
「……わかった、俺が聞こう。一旦外に出てくれ」
ラノイはまだ若い一兵卒である。報告はまだしも、国の重要な議論において自由に発言ができる立場にはない。何より、ラノイの思想は少々過激である。
カイナはラノイの意図を確認しようと外へ連れ出そうとしたのだが、今度は逆にチェルに袖を掴まれてしまった。
「ここでいいよ。聞かせて?」
「……珍しく興味津々じゃないか」
「そう? ……そうなのかな?」
普段は無関心と無感情が人の形をしているようなチェルではあるが、今ばかりは心を揺さぶられているのかもしれない。自国の中で盛大に命を狙われた上に、自国の人間が手引きをしていたのだ。裏切り者の処遇については気になるところではあるのだろう。チェルを慕っているラノイの発言というのも手伝っているのかもしれない。
フートラもラノイの発言を許可したことによって、ラノイは国の重役たちを前に直立しながら、はっきりと提案した。
「裏切り者のダズを使い、見せしめを行うのはいかがでしょうか!」
同じ国を護る仲間であったダズを公衆の前で痛めつけようとラノイは言った。それは、カイナが想像していたよりも過激な内容だった。ただ淡々と処刑するだけのチェルよりも、ずっと凄惨だった。




