殺さないの?
城の中にある円卓が設置されたこの部屋は、元老院が国の政について話し合う場所である。
カイナが生まれるよりも前から国を動かしてきた翁8名と、現国王であるフートラが円卓に座り、墓参りから帰った兄弟も部屋の隅に着席している。カイナは背筋を伸ばして礼儀正しく座り、チェルは退屈そうに足を揺らしていた。
「国を閉ざすべきだ!」
白いあごひげを蓄えた一人が円卓を叩きながら叫んだ。
大砲まで持ち出した盛大な襲撃は既に国中の知る所であり、現在この部屋では対策を議論中であり、そして話し合いは難航していた。
「国を閉ざしてどうする。鎖国したところでジリ貧なだけだろう。それより連盟に報告し、首謀国を罰してもらうべきだ」
禿げ上がった一人が頭をかきながら言った。それを受け、再びあごひげの老人が興奮した様子で机を叩いた。
「そんな悠長なことを言ってられるか! 第一、連盟にうちの味方などいないではないか! まともに取り合われるわけがない!」
「そのように信用しないから、信用もされぬのだ。このような蛮行、いくらイクスガルドが相手とは言え許されるわけがない。首謀国に罰は下され、被害者である我が国の印象も多少は和らぐだろう」
「そもそも、首謀国はわかっているのか? 尋問の様子はどうなんだ? 何かわかったか?」
眼鏡をかけた一人が二人の議論に割って入り、カイナへと話を振った。
「重要な情報がわかり次第、使いを送るように兵には伝えてあります」
円卓中の視線を浴びながら、カイナは静かに事実だけを報告した。
使いが来ていないということは、尋問が上手くいっていないということを示している。あごひげはまたも机を叩いた。
「拷問しろ! 何が何でも情報を吐かせるんだ!!」
「馬鹿なことを言うんじゃない。既に何人殺したと思ってるんだ。この上捕虜まで痛みつけては、イクスガルドはそれこそ孤立するぞ」
「正当防衛だろう! 王子が素直に殺されていればよかったとでも言うつもりか!」
「そんなことは言っていないだろう!!」
議論がヒートアップするほどに、結論は遠ざかっていく。国交について、捕虜について、連盟との関わり方について。議題は積まれるばかりで、部屋の空気はどんどんと重くなっていく。
元老院も半分以上が頭を悩ませるばかりであり、フートラも頭痛に耐えるようにこめかみに手を当てている。
そんな中、お気楽に足を揺らしていたチェルが、細い腕を見せつけるように手を上げた。
「チェル……どうした?」
フートラがチェルに発言を許すと、チェルはいつもと変わらない調子で淡々と質問した。
「裏切り者はどうするの?」
部屋の中が静まり返った。それは最も重要でありながら、最も避けたい議題でもあった。
「……間違いないのか?」
フートラから視線を向けられ、カイナははっきりと肯定を示した。
「墓地付近に基地の存在を確認済みです。数十人の間者が潜伏するための用意があり、襲撃に使用された大砲はイクスガルド国の物です。国内に協力者が居るのは間違いありません」
「……そうか」
フートラはそれきり黙ってしまった。元老院たちも、重い溜息を吐きながら顔を伏せている。
チェルはそんな大人たちの様子を不思議そうに眺めていた。自国の人間が自身の殺害に協力していたというのに、悲しんだり落ち込む様子もない。どうして裏切り者を探して殺そうとしないのか、と言わんばかりの顔だった。
そんな時、重苦しい部屋に軽いノックの音が響いた。全員が扉に視線を向ける中、カイナは椅子から立ち上がると扉を開けた。
「ラノイです。報告があり、参上いたしました」
「わかった、中で聞かせてくれ」
カイナに促され部屋の中に入ったラノイは、重鎮たちからの視線を受けて緊張した様子で口を開いた。
「イクスガルドを裏切り、敵国に協力していた兵を発見いたしました!」
それは確実な前進ではあるものの、喜ばしい情報では無かった。
よりにもよって国を守護する立場にある者の中に裏切り者が混ざっていた。その事実に部屋の誰もが肩を落とす中で、チェルだけが軽やかに椅子から立ち上がって歩き出していた。
「待て、チェル。何をするつもりだ」
チェルの腕をしっかりと捕まえて問い質すカイナに対し、チェルは首を傾げて逆にカイナに問うた。
「殺さないの?」




