まだ危ないかもしれないから、このまま抱っこさせといてあげるね?
力無きカイナが悩む一方で、力を持つチェルの判断は迅速だった。
カイナが手に持つ1本。投擲物から身を守るのに6本。残った1本の聖剣が、風を切って地上へと降り立った。
矢をつがえていた弓兵の首が落ちて、仲間が死んだことに気づいた銃兵の首もすぐに後を追った。
盾を構えても意味が無い。聖剣は鉄盾の上から敵を弾き飛ばし、体勢を崩したところで首を撥ねる。
魔法など障害にもならない。物理的に干渉できない火球では聖剣は止められず、切り落とされた首から貴重な魔導の知識が零れ落ちていく。
今更武器を放棄して逃げ出したところで、聖剣からは逃れられない。宙に浮くチェルが四方八方から狙われるのと同様に、チェルの視界には全ての敵が映っている。ただチェルが首を動かして視界に捉え続けるだけで、聖剣は敵を追尾し続けて殺す。
大砲から放たれた弾が聖剣に着弾し、空中で爆発が起こった。爆風に煽られるカイナが必死に聖剣を握りしめる一方で、チェルには少しも慌てた様子は無い。
「…………」
爆風に金髪をなびかせ、目を細めながらも、真剣な面持ちで次々と地上の敵たちをその眼に映し続けるチェル。落ちかけて焦るカイナとは対照的に、冷静に淡々と地上の敵を聖剣で切り刻んでいる。
敵が減るごとに防御に割く聖剣の数も減り、殲滅の速度が増していく。2本、3本と地上を疾走する聖剣の数が増えていき、やがてチェルへと放たれる攻撃は完全に止んでしまった。わずかに残った兵はみな武器を捨て、散り散りに敗走を始めている。
「チェル、一人は残せ。尋問して情報を吐かせたい」
「……それなら、仕方ないね」
残った最後の一人の後頭部を聖剣の柄が殴り、それで終わった。空中に逃げたおかげで墓地が無事だったのは不幸中の幸いだろう。矢や大砲の弾の破片が散らばり汚れてはしまったが、墓石が壊されるようなことにはならなかった。
不意を突かれた突然の襲撃にも関わらず、チェルは掠り傷一つ負うこともなかった。改めて聖剣の凄まじさを実感したカイナが息を呑む一方で、チェルはだらしなく欠伸を漏らしている。命を狙われた直後だというのに、カイナに抱かれたまま寝に入る準備を始めてしまった。
「まだ危ないかもしれないから、このまま抱っこさせといてあげるね?」
チェルは日差しから逃れるようにカイナの胸に額を擦りつけながら、穏やかな寝息を立て始めた。どうやら降りて自分の足で立つ気は毛頭ないようだ。
「危ないなんて、どの口が言うんだ。その聖剣があれば敵無しなんだろ?」
「危ないのは僕じゃなくて、カイナ兄の方だよ? ついでに守ってあげるってこと……ふわぁ」
「……ありがたい限りだな」
そもそも狙われているのはチェルであり、カイナは近くに居たからついでに狙われたに過ぎない。それでも、命を救われたことは事実ではあるため、カイナはチェルの言葉に感謝を返した。
「ありがとう、チェル。助かった」
「んー? ……うん、良かったね」
兄からの感謝にも興味が無さそうなチェルの声は、眠りに落ちる寸前のふにゃふにゃとした声であった。




