わかった……じゃあ、全員殺すね
間抜けな寝起きの声を漏らすチェルではあったが、その身に帯びる聖剣は十全に機能していた。カイナも気づくことのできなかった突然の投擲物に対し、聖剣は盾となりチェルの身を護っていた。
聖剣によって弾かれ地面を転がる金属の球体。それから白い煙が漏れ出ているのを認めた途端に、カイナは声を張り上げた。
「チェル、聖剣を上に飛ばせ!!」
「え? 何々? 何なの?」
「いいから! 早くするんだ!!」
クレイモアを咄嗟に捨て、背負っていたチェルを胸の前で抱え直したカイナ。その右手が周囲に浮いていた聖剣を掴むと同時に、聖剣に引っ張られてカイナとチェルは空中へと飛び上がった。
軽い爆発音と同時に、カイナが立っていた場所に煙が立ち込めた。投擲物は煙玉であり、おそらくは毒煙が封じ込められていたのだろう。今この瞬間、カイナとチェルが暗殺を受けていることは間違いなかった。
「チェル、気分はどうだ? 煙は吸っていないか?」
「うん、大丈夫……これ、襲われてるの? ここ、イクスガルドだよね?」
宙を飛ぶ聖剣を掴むことで上空に浮いたカイナの視点には、二人を取り囲む間者たちの姿が映っていた。その数はざっと数えて50人はおり、全員が漏れなく武装をしている。
「なんか、堂々としすぎて暗殺って雰囲気じゃないね。カイナ兄、僕のこと謀った?」
「冗談でも止めろと言っているだろう。殺す気なら、とっくに殺してる」
「その言い方もどうかと思う――わぁっ?」
空中に浮かぶ二人を打ち落とさんと放たれる遠距離攻撃。その中には弓矢と銃だけではなく、大砲や魔法による火球までもが含まれていた。
「魔導士まで動員しているとは……そこまで危険視されているのか」
魔導士はどの国においても貴重であり、イクスガルドには1人もおらず、大国であっても人口の1パーセントにも満たないらしい。そんな貴重な存在を潜り込ませるほどに、敵国はチェルを重要視しているようだ。
「ねえ、カイナ兄……大砲はおかしくない? いくらイクスガルドの関所がゆるゆるでもさ、あんなの持ち込めないよね?」
大砲を見つめるチェルの瞳。それは私刑によって民を殺す時と同じ目だった。
「……今はここを切り抜けることだけを考えろ。俺もチェルを抱えたままずっと聖剣を掴んではいられない」
いくらチェルが軽いとはいえ、右腕一本で2人分の体重を支え続けることはカイナにはできない。空中に居れば毒煙にやられることもないが、このままではいい的でしかない。7本の聖剣によって大砲も魔法も防げてはいるが、ただ守っているだけではカイナが先に力尽きて地に落ちる。
このまま聖剣を飛ばして逃げるか。もしくは聖剣で応戦するか。判断を誤れば兄弟揃って屍を晒すことになるだろう。
「わかった……じゃあ、全員殺すね」




