sep4:Y〜よろず〜ハウンド-3.
この話は前後編になります。
帝都日々山公園、定期的に不満がある奴らが集まってリアル炎上する場所。今回俺たち万'zハウンドはその実質キャンプファイヤー会場に赴いた。
「家族に生きている事だけでも伝えてくれ」
「少ないが仕送り」
「向こうは今どんな感じなんだ」
俺たちが明日にも元の世界に帰るので同じ世界の出身者がゾロゾロと日々山公園に集う。手紙やら見送りやら用事を頼むやらと腕がいっぱいになった。
「あーはいはい、手紙とかは全部向こう行ったら郵便局にぶん投げるからな」
まったく、ボソリと総一だけに聞こえるように呟く。
「手数料に1セント貰っていたら今頃は小金持ちだぜ」
「ねーよ。自販機1回でなくなる」
「ん?」
オナセカ(注釈:同じ世界の意)集団から1人10歳くらいの女の子が飛び出して公園の外へと走り去っていった。なんだアレ? ああ、強面だからな。その作業着にいっぱい字を書いたらほぼ暴走族だ。
「ウヲッ!」
そう呆ける間に持ちきれない程の届け物を持たされた結果。転びそうになり俺は彼女を見失う。
荷物の受け取りを終えて、俺ら万'zハウンドは公園近くの道を歩いていた。どうせ明日には帰るのだ。何かこっちでウマイもので食おうと飲食店を探していた。
ん? 行き倒れである。近づいてみると先ほど逃げ出した子供だ。
伴乃洋食店。以前に世話してやったサンドイッチ少年こと伴乃克彦君が料理を作り上げて持ってきてくれた。ペーストミートローフ、ジャガイモポタージュ、オレンジジュレ……。
「助かる。後俺らの分のアイスコ(アイスコーヒー)もくれ」
「はい、まいど。何かつまめる物でも付ける? それで、わざわざボクのうちまでその子を運んできたの?」
「知らない店に無理も言えないだろ? 総一、警察とかにも連絡頼む」
「おう、電話借りるぞ。ない? しゃあない歩くか」
気を失っている女の子の口元にスプーンを運んでやると無意識に口が開いて食べ飲み込む。それを繰り返し用意した。
流動食を食べ終わったころ彼女は目覚める。ゆっくりと何かを確認するように腹に手を当てて一呼吸。俺に殴りかかってきた。更に振りかぶりもう一方の拳で俺に殴りかかってきた。
「おわっ! 何しやがる」
両手首を掴んで抗議。
「何を勝手に食べさせているんですか!?」
「ペースト肉とジャガイモスープとオレンジジュレ……殴りかかる程キライだったのか?」
「うるさいよ……」
勢いを失い、席に座って黙り込んでしまう。
「俺、万里生類児。あっちで柱に隠れて眺めているのが伴乃克彦くん、今帰ってきたガラ悪いヤツは万丈寺総一」
「伊来……蓬継 伊来」
帰ってきた総一が耳打ちしてきた。
「外にお巡りさん連れて来たぜ。後、タマも拾った住所とか事情とかこの子の事知っているらしい」
「何でアイツああいうことに詳しいの?」
「青少年育成ロボットだからじゃない」
「怖っ!」
四方山話。閑話休題。場面転換。
お巡りさんに伊来を引き渡し世話になっている養護施設まで送ってもらう。一方で俺たちはタマを交えてテーブルを囲む。
「つまりあれか。あの子伊来ちゃんは俺らと同じ世界から来たマロウドで、帰れるか絶望的だと」
「黄泉竈食ひ(よもつへぐい)のようなものさ。こっちの世界で呼吸したり飲み食いしたりすると少しずつこっちに馴染んでくる。
段々とこっちの世界に適応して帰る難易度が上がる。本人の意思がどうであれ、装置を起動するための金銭的な課題。飲み食いや呼吸をしなければいけない生物的な課題は帰還希望者に立ちはだかる訳だ。
キミらは大丈夫?」
聞きながら俺は黙ってアイスコーヒーに口をつける。苦い。
「まだそれほど染まってないし、ちゃんとパトロンも見つけたさ」
総一がタマにそう返している時だ。先ほどの駐在さんが店に戻って来た。
「腕のいい万屋だと聞いた一つ頼まれて欲しい」
駐在さん、加狩乱弾氏からの依頼はこうだ。少しでも帰れる可能性を引き伸ばしたい伊来はこの世界への適応を拒んで最低限の食事しかとらないらしい。このままでは死んでしまう。だから何とかまともな食事をとらせて欲しいと。
正直迷った。帰りたいガキに「諦めろ」と言う仕事だ。それでも、依頼人の熱意に押される形で承諾した。
さて、問題は一つ。そもそもコッチにある美味い物に俺たちはあんまり詳しくない。伴乃洋食店のオヤジにも頼んだが「私の料理じゃ今のあの子は食べないだろうね」と断られたので克彦くんに友達を集めてもらい。彼らにご馳走を持ち寄ってもらう作戦だ。
翌日、伊来ちゃんを養護施設の近場にある自然と祠がある場所に連れて来る。多少静かで寂しいが、ピクニックなどにお誂え向きの穴場。こちらも料理の用意は任せたので昨日のうちに見つけて用意していた。
「タマえもんに言われたから来たけど……帰っていい……?」
「お願い。せめて見るだけ見てって」
客観的に状況を見る。何も食べる気がないのにほぼ知らない人間ばかりの場でピクニック……うん、割とパリピじゃないと苦痛かもしれん。
「これで全員揃ったか? 総一がいないなどうした?」
「ボクの方でも一人まだ来てない」
そろそろ始める段になって克彦くんとそんな会話をする。瞬間、キィイイーッという車が横滑りする音と共にデコトラが突入して来た。
「ありがとうございまーす。おまたせ、悪いけど俺に先陣切らせてくれ」
「おう、こっちの仕事だ。出来るだけの協力はするぜ」
総一のデコトラから闊達そうな少年が降りて来た。彼は笹田六門くん。克彦くんの友達グループでエンジンポジションだそうだ。
彼が出したのはまだ溶けてないアイスクリンと湯気立つワッフルにキャラメルソースが絡められたスイーツ。
「何がいいかわからなかったから学校の女子が喜びそうな物を持ってきた。まだアイスも溶けてないしワッフルも温かいから……」
伊来ちゃんは無言で首を振る。
「うむ。高砂ラーメンの方が良かったかな? 馴染みの屋台のやつ」
「はふっ。うん、熱い生地と冷たいアイスが合わさって美味い。用意した料理は俺ら含めスタッフ参加者がちゃんと美味しくいただくので安心してくれ」
俺はアイスが乗ったワッフルを詰め込みながら、六門くんを慰めた。次行ってみよう。何やら七輪の上に置かれた鍋からすき焼きの匂い。
次鋒は小太りの少年、荒児権伍郎くん。克彦くんの友達グループでハンドルとブレーキポジションだそうだ。
「伝のある業者から仕入れた熟成肉で牛鍋を作ったどうだ?」
伊来ちゃんは無言で首を振る。
「家のチビ共なら熱があっても食べるんだがな。特に上の妹なら布団から這い出して来る」
炭焼きの七輪でじっくりコトコト煮込んだ牛鍋を味わおうとしていると総一がこずいて来て次だ次と急かす。せめて一口くらいは食わせてくれ。酒、黒砂糖、濃口醤油、葱、肉……。
「さて、次行ってみましょう」
伊来ちゃんの目前、硝子のコップに注がれた黄緑色に光る液体。
「えーと、これは何かな?」
「作りたてスペシャル栄養フレッシュジュースです」
メガネの少年が答えた。波羅七文くん。克彦くんの友達グループではライトとラジオと付属しているよく分からない工具ポジションだ。何だよ付属しているよく分からない工具って……。
「これ光ってるけど大丈夫?」
「素材は合法です。ビタミンって光るんですよ」
「明らかビタミンとかの光り方じゃ無いよね。暗いところで光る恐竜骨格とか星型のオモチャみたいな色で光っているもん。先に俺が毒味するから……」
恐る恐る飲んでみると意外と美味い。喉越し、ちょうど良い冷たさ、柑橘系の甘酸っぱさ。
「ライムみたいな味と香りだな。これは?」
「スダチ」
「スダチかぁ……」
一応毒じゃなさそうだし、簡易な形で栄養を摂らせようという意図は伝わった。
「で、どうする」
「無理! 食べたい食べたく無い以前に怖いそれ」
うん、そうだよな。その後も克彦くんが用意した33種の一口アソート、俺と総一が出前でとった特上寿司も伊来ちゃんは首を振って拒否。全滅だ。




