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第五十七話 魔女の鉄槌、荒野の激突

 一方、帝国軍の本陣の天幕には前線のみならず、後詰めのために押し上げた中衛に位置し全軍の基幹となる主力部隊からの報告が上がっていた。


「報告します!只今、進軍中の主力部隊が、各所に潜伏していた敵部隊により左右からの挟撃を受けているとのことです!」


 伝令の兵士の言葉に、天幕の奥に用意された椅子に座るオズワルドは片眉を上げて聞き返した。


「数は分かっているのか?」


「おそらくは、少数と思われます。しかし、攻撃位置や出現位置が特定出来ず、各部隊共に混乱している模様です!」


 ウルバス軍は、防衛線の一つとして遊撃部隊が行動するための坑道を至る所に掘り進めており、遊撃部隊は、そこから抜け出しては攻撃をかけるというゲリラ戦を展開して主力部隊を翻弄していた。


 すると、オズワルドの横にいた副官を拝命している副将軍がオズワルドに顔を寄せる。


「…これは、ウルバス軍自慢の遊撃部隊では?」


「なるほど。ここは、奴ら根城とする山岳地帯。こちらを揺さぶるために、策が用意されているのも道理であろう。」


 オズワルドは、そう言って椅子からゆっくりと立ち上がり正面の大テーブルに広げられた地図を睨んだ。

 現在、先行している前衛部隊には白竜騎士団を合わせて三千、中衛を成す主力部隊には五千を投入し、後衛に当たる本陣の周辺には二千ほどの戦力を待機させている。

 現状を確認したオズワルドは、伝令の兵士に向かって言葉を発した。


「主力部隊には、押し上げる速度を維持せよとだけ伝えよ。両側面には魔装騎士マジックメイルの部隊を配し、各個にて対処するようにともな。」


 最前線の惨状を知る由もないその声には、未だ勝者の余裕が色濃く滲んでいた


「かしこまりました!」


 伝令を携えてきた兵士は、敬礼と共に天幕を飛び出して行った。

 だが、その出口のすぐ前で立ち止まってしまう。

 それは、先程まで澄み渡る青空だった本陣の上空だけが、まるでこの世の終わりを告げるような、不気味に渦巻く漆黒の雷雲が垂れ込めていたからである。


 周囲を取り囲んでいた騎士や兵士達は、その異様な光景に息を飲んでその雲を見つめていた。

 伝令に出た兵士は、慌てて天幕に戻ると中に入るなり居並ぶ諸将に声を上げる。


「将軍閣下!外の上空に異変が生じています!すぐにご確認ください!!」


 その慌てように、オズワルドは訝しげな表情を見せると小さく舌打ちをしながら目を向けた。


「なにが起きた?」


「申し訳ありません!この天幕上空に怪しげな雲が発生しております!」


「雲…だと?」


「ハッ!誠に遺憾ですが、閣下の目でご覧頂けますでしょうか?!自分には、正確に状況をお伝えすることが出来ません!」


 兵士は、額に汗を浮かべて処分される事を覚悟しながら上申すると、オズワルドを始め睨みつける諸将の事を見渡した。

 その場にいた面々は、オズワルドと同様に怪訝な顔つきを見せると不満げに天幕の外に出る。

 そして、黒い雲に覆われた上空を見上げると、その異様な光景に目を見張った。


「なんだ…これは…。」


 オズワルドは、明らかに異常な事態に顔を歪めた。


「…閣下、これは…。」


 そう呟きながら、副将軍がオズワルドに近づいた時、一人の兵士が上空に指を差して叫んだ。


「なんだあれは?!」


 その差した方向に、一人の人間らしき者が浮かんでいるのが見える。

 その者は、全身を覆う紫の外套に身を包み静かに立ち込める雲に向かって右手を上げていた。


「?!魔法使い?!」


 諸将の一人が、その出で立ちを見て叫んだ。

 しかし、オズワルドも含めそこにいた誰もがなす術なくその姿を見上げる事しか出来ない。

 上空の魔法使いは、外套のフードを取って美しい女性の顔を見せるとそこに凶悪な笑みを浮かべた。


 オズワルドは、天候すらも己の意のままに操る規格外の魔法。その力を持つただ一人の存在を思い出し震える唇でその名を口にした


「まさか…セレスティアの魔女か?!」


 オズワルドは、その姿を見据えると瞬時にこれから起こるであろう惨状に体を震わせたが、この軍の最高司令官としての責務に命令を飛ばした。


「なにをしている!!あの者を早く撃ち落とせ!!」


 天幕周辺にいた魔装騎士マジックメイル達は、浮かんでいる魔女に向かって長槍を構えると次々に魔法を撃ち放つ。

 しかし、それらが上空に浮かぶ魔女を捉えることは出来なかった。

 魔女は、防御魔法に包まれる中、その形の良い口元から呟きを漏らす。


「貴様ら如きが、私のミルンを脅かそうなど……身の程を知れ…。」


 その言葉と共にゆっくりと掲げた右腕を振り下ろすと、その動きに合わせるように黒い雲が中央から割れ、その間から直径五百メートルはある真っ赤に焼けた隕石が姿を現した。

 

「メテオフォール。」


 魔女が、その魔法の名を口にすると巨大な隕石は、地上の本陣に向かってゴゴゴゴ…と空気をも震わせるような轟音を立ててゆっくりと落ちていく。


「な、なんだあれは…。こっちに落ちてくるのか?!」


「それよりも、なぜあの魔女がこの場所にいるのだ?!」


 球体の姿に、瞠目していた諸将達は余りに理不尽な暴力の顕現に恐怖とも怒りとも区別のつかない思いでその顔を歪ませた。


「て、撤退だ!!全軍、この場から離れろ!!」


 すでに、回避できないほどに隕石が近づいた所で、ようやくオズワルドは息を吹き返し、周りの者たちに命令を飛ばした。

 その場にいた者達は、絶望の表情をそれぞれに浮かべながら必死に逃げ始める。


「逃げろ!逃げるんだ!!」


「うあああ…!!」


「な、なんでこんなことに!!」


 ある者は馬で、ある者は走り出していたが、すでに多くの者は諦め神を崇めるように両膝を着いて隕石に向かって手を合わせていた。


「…フフフ…今更遅いわ。」

 

 魔女は、満足気な笑みを見せて天幕に落下する、暴虐が形をなしたような球体を眺めていた。

 隕石は、地上に到達するとドゴォォォォン!!!とまさしく大地を揺るがす音を立てて巨大な爆発を起こし周辺の一切の生命を奪って行く。


 爆発は、オズワルドを始め諸将も、騎士も、兵士も魔装騎士マジックメイルも、逃げる者も祈る者も、平等にその中に飲み込んで瞬時に蒸発させて天に召し上げた。


 魔女は、その様子を笑みを称えたまま見つめていたがゆっくりと前線の方向に振り向くと静かに呟いた。


「…私の方は片付いたぞ。さっさと終わりにしろよ。…耕助。」


 ウルバスに遠征していた、帝国軍の本陣を含んだ後衛部隊二千はセレスティアの魔女の手によってわずかな時間で消え去ることとなった。


■△■△■△■


「な、なんだ?!あの爆発は?!」


「本陣のある方角だぞ?!」


「一体、何が起きたんだ?!」


 巨大な爆発音と衝撃による全身が立つことが困難になるほどの揺れを感じた、帝国軍の主力部隊の者達は、立ち上ったキノコ雲を目にして狼狽した。


 それは、散発的にゲリラ戦を仕掛けていたウルバス軍の遊撃部隊も同様で突然発生した事態に瞠目する。

 

「あれは、我軍の攻撃によるものなのか?!」


「そんな話は聞いてないぞ?!」


 岩陰や、土がかけられ偽装した坑道の出口から覗き込んでいた遊撃部隊の兵士達はその様子に驚嘆の声を上げていた。


 それは、遠くの最前線も同様で無数の炎の槍(ファイヤージャベリン)に取り囲まれている耕助の目にも映っていた。


「…エレノア…やりやがったな…。」


 耕助は、そう呟くと金砕棒からレールマシンガンに武装を変えると、襲いかからんとしている取り囲む炎の槍(ファイヤージャベリン)に向かって構える。


「無駄だ!!」


 一瞬、他の者達と同じ様に後方で生じた異様な光景に意識を向けたブライだったが、耕助の行動に炎の槍(ファイヤージャベリン)を一斉に放った。


 それと同時にレールマシンガンの銃口が火を吹く。

 そして、群がるように向かってくる炎の槍を次々と霧散させた。


「なんだと?!」


 ブライは、自分が放った魔法がまったく無意味に消えて行くのを見て驚嘆の声を上げた。

 しかし、すぐにその口元には笑みが溢れる。


「…やはりな。そうでなくてはな!異世界人!」


 その声は、風魔法の効果で耕助の耳にも届いた。

 その声色に、驚きとは別に歓喜の色を感じると耕助にも満面な笑顔が浮かぶ。


「どうやら、あんたが一番強そうだな?!」


「フッ!俺は白竜騎士団第二部隊隊長、ブライ=ロックウェルだ!…会いたかったぜ!異世界人…いや、神代 耕助!」


「そりゃ、光栄だ!!存分にやらかそうぜっ!!」


 そう叫ぶと共に、耕助は再び武器を金砕棒に替えた。そして、一気にブライの白い魔装騎士(マジックメイル)に挑みかかる。

 ブライは、上段から振り下ろしてくる金砕棒を長槍で弾き返すと、復讐に燃える感情を瞳に宿らせるのだった。




 

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