第五十六話 顕現せし『恐怖』
後方から進軍してきたにもかかわらず、白竜騎士団の団員達はすでに鉄鋼門まで二キロもない地点まで到達していた。
ウルバス軍の奮戦を嘲笑うように、魔装獣機を翻弄し魔機関弩を携えた兵士達を尽く踏み越えながら堅牢名高い門に迫る。
新兵器を導入したウルバス軍とはいえ、軍事大国として君臨し洗練された戦闘力を持つ帝国軍には劣勢を強いられた。
押し上げつつあった前線をジリジリと下げながら、ウルバス軍は必死の抵抗を続ける。
「遊撃部隊が敵を分断する!その間に、前線の敵を囲い込め!」
ウルバス軍の指揮官は、すでに白竜騎士団によって乱戦となった中に飛び込むために長剣を引き抜いた。
そして、側にいた兵士共々走り出す。
だが、その眼前にルーシェの魔装騎士が立ち塞がってその突撃を堰き止めた。
「誰が誰を囲い込むって?!」
ルーシェは、満面の笑みを浮かべながら長槍を横薙ぎに払うと、その場にいた指揮官を混じえた数人の兵士を真っ二つに斬り裂いた。
兵士達は、その場に夥しい血と臓物を撒き散らしながら朽ち果てる。
「ルーシェ!遊んでいるなら、先に行くぞ!」
その様子を前方から見ていたブライは、乱戦となっている戦況を眺めながら声をかけると戦場の向こうに聳える巨大な門に視線を移した。
すると、その後ろから笑顔のままのルーシェが追いついてブライの右後ろに到着する。
「隊長!お待たせしました!」
「よし!一気に突っ込むぞ!」
二人は、突撃態勢を整えると再び門に向かって走り出した。
だが、その微動だにしていなかった門がギギギギ…と如何にも重厚な音を立てて開き始めるのが見える。
「なんだ?!突破した部隊でもいたのか?!」
「いえ!そんな報告は来ていません!」
ブライの問にルーシェが隙なく答える。
その返事にブライは、目を細めて動き出した門に意識を集中した。
前線にいる白竜騎士団だけではなく、帝国兵達もその動きに門へと我先と突撃を始めるのが見える。
取分け、足の速い騎馬兵達が一斉に馬の首を門に向けて走り出していた。
門が開き始めたことで、動揺したのは帝国軍だけではなかった。
ウルバス軍もまた、門の挙動に敵の寡兵に突破されたのではないかと焦りを見せる。
「全部隊、門の防衛に向かえ!敵を一人も通すな!」
門の側で指揮をしていた中隊規模の指揮官が、纏っていたフルプレートの兜の面を上げて周囲で戦う部下たちに叫ぶ。
しかし、その瞬間。
一筋の光が、門の間近にまで迫り、先頭を駆けていた帝国の騎馬兵たちを蒸発させた。
そして、僅かに開かれたその隙間から見たことのない魔装騎士が片膝をついた状態で姿を見せる。
その場にいた乱戦を繰り広げていた帝国軍もウルバス軍も突然に降って湧いた惨状に見入ってしまった。
魔装騎士は、左肩に据えられた砲身から紫煙を燻らせ嘲笑うかのようにその場に佇んでいる。
そして、ゆっくりと立ち上がり凶悪な様相を見せる槍のような金棒を地面に突き立てると、傲慢な態度で両腕を組んだ。
「ようこそ、帝国軍の皆さん!俺の名前は神代耕助!今、帝国軍で話題沸騰中の異世界人だ!あんたらに恨みはねえが、ここで皆殺しにさせてもらうぜっ!」
耕助は、マイクを使って戦場全体に響き渡るような声を上げた。
すると、それに呼応するように帝国軍が門に向かって津波のように押し寄せ始める。
「なにが皆殺しにするだ!たった一騎でなにが出来る!!」
「たかが一騎だ!恐れるな!!」
「やれるものならやってみろ!!」
口々に怒りの言葉を発しながら、帝国軍の兵士達は対峙していたウルバス軍を無視して門に向かって殺到する。
耕助は、その姿に臆するどころかニヤリと笑って見せてラグに指示を飛ばした。
「ラグ!帝国の奴らだけをマーキングしろ!」
『Yes』
その回答の後に、前面のモニターには『Enemy』という文字と共に勢いを増して挑みかかってくる帝国兵達の頭上に矢印が浮かんだ。
耕助は、レールマシンガンのセレクターをバーストに合わせてから点射して確実に頭だけを吹き飛ばして行く。
「「「?!」」」
それまで一気呵成に走り続けていた帝国兵達は、側で走っていた仲間の頭部が次々と弾け飛ぶ姿に、ここまで戦況を有利に進めていた興奮で麻痺していた感覚と、逆上のあまり煮え繰り返っていた感情が一気に冷え込んでいった。
「??!!」
「ッ!!」
言葉を発するよりも先に、レールマシンガンの高電圧に撃ち出された弾丸は更に兵士達の頭部だけを的確に爆散させた。
「どうしたどうした?!死ぬのが怖くないんじゃねえのか?!帝国のために命がけでかかってこいよ!」
耕助は、そう嘲笑しながらウルバス軍が左右に散開して帝国軍だけになったのを認めると、セレクターをフルオートに切り替えた。
「一網打尽にしてやるぜっ!!!」
歓喜の声と共に、耕助は門を飛び出し四方に散ろうとしている帝国兵達を追いかけ始めた。
兵士達は、余りに凄惨な状況に我を取り戻し必死の形相で逃げ始める。
「こ、後退しろ!!逃げるんだ!」
「た、助けてくれえ!!」
「なんで、こんな所で…」
あらん限りの呪詛を叫びながら、騎士も獣人も人族も平等に肉片や臓物を撒き散らしながらラグナロクの餌食になっていく。
「へへへ!逃げるな逃げるな!!もっと楽しもうぜっ!」
耕助は、その顔に上機嫌な表情を浮かべながら唇を一舐めすると逃げ惑う兵士達の後を追った。
それに合わせて、門はまたゆっくりと閉じ始め堅牢な姿を取り戻す。
「よおし、一人残らずあの世に送ってやるぜっ!」
門が元の姿に戻ったのを視認すると、耕助は周囲にブウオオオン!!という炸裂音を撒き散らしながら、ラグナロクのレールマシンガンは更に帝国兵を肉塊に変えながら蹂躙して行く。
その顔にはまるで鬼ごっこの鬼のような表情が浮かび、逃げ惑う者達の命を平らげていった。
帝国軍は、囲い込む事もできるほどの人数が周辺にいるにもかかわらず、その場に顕現したナニかに恐れ近づくこともままならなかった。
顕現したそのモノの正体は『恐怖』。
その『恐怖』を目の当たりにした兵士達はそれぞれに恐れおののき顔を歪め散り散りになって逃げ回る。
そこには、帝国に対する忠誠心も軍人や騎士としての矜持も掻き消え『生』への執着だけが残っていた。
だが。
その目の前に、まるで救世主のように白い魔装騎士が現れる。
そこに現れた数体の魔装騎士は、兵士達と入れ替わるように、ラグナロクの前に立ち塞がった。
その瞬間、耕助は喜びの絶叫を上げる。
「やあっと現れやがったな!!白竜騎士団!!!」
それぞれが、長槍や剣を構えて相対する白い魔装騎士達に耕助は躍りかかった。
それに対し、一番前にいた団員が構えた長槍を突きかけてくる。
他の団員達も合わせるように散開すると、ラグナロクを囲い込もうとした。
しかし、いち早く耕助は反応すると正面から繰り出された長槍を躱し、金砕棒でズン!とコクピットを貫いた。
金砕棒は、ベッタリと血と肉をこびり付かせて魔装騎士の背中から先端を突き出す。
すかさず、動きを止めた魔装騎士を蹴飛ばして金砕棒を引き抜くと、背後から迫る三体の魔装騎士に向かって、ブウウウン!!と唸らせながら振り回す。
その勢いに、三体は同時に距離を取った。
耕助は、それを見逃さず片手でレールマシンガンを構えると再び弾丸を撒き散らす。
三体は、のた打ち回りながら穴だらけにされると、コクピットの辺りからドロドロと赤黒い液体を流してその場に崩れた。
その様子を見た、味方であるはずのウルバス軍の兵士達ですら畏怖の視線を向けてしまう。
「…これが…異世界人…。」
「まるで、悪魔の所業ではないか…。」
耕助の戦う姿は、狂気の熱気に包まれていた戦場を十分に冷まさせる程の雰囲気を漂わせていく。
しかし、そのような事態に意を解することなく耕助は咆哮を上げる。
「なんだなんだ!その程度なのか?!白竜騎士団!!」
耕助は、思わず嘲笑いながら葬られた味方の姿を見て明らかに臆して動きが鈍っている残りの一体に振り向いた。
そして、金砕棒を横薙ぎに払って横一線に真っ二つにする。
その様子に、他の団員達は怒りの表情を見せて一斉にラグナロクに向かって走り出した。
「よくもやってくれたな!!」
「異世界人ごときが、調子に乗りやがって!!」
「帝国に仇なしたことを後悔させてやる!!」
団員達は口々に、耕助を呪うような言葉を浴びせながら風魔法に乗せて翻弄するような動きを見せて襲いかかった。
戦場に立つ九十体にも及ぶ、白竜騎士団の魔装騎士がウルバス軍には目もくれず次々とラグナロクへと殺到して囲み始める。
遠巻きに距離を取っている者達からは、無数の炎の槍が放たれて、ラグナロクの周囲に着弾した。
「ククク!ゾロゾロ来やがって!コイツはご褒美かぁ?!…目にモノ見せてやるぜ!」
それらの攻撃により、衝撃に包まれながらもその全てを躱し、満面な笑みを見せて荷電粒子砲のトリガーに指をかける。
ラグナロクは、片膝を着いて射撃態勢を取ると目の前にまで迫った魔装騎士に向かって撃ち放った。
そして、同時に無理矢理体を右回りに捻って横薙ぎに振ると、射線状にいた白い魔装騎士達が何も出来ないまま爆発して行く。
耕助は、そこに開いた部分に向かって、リニアブーストを発動させ突き進むとその包囲網を突破した。
すると今度は、その威力に動きを止めた魔装騎士達に向かって、レールマシンガンを叩き込んでいく。
「雁首揃えてその程度かぁ?!…本気出せやっ!」
一頻り放っていたレールマシンガンの攻撃に飽きると、今度はマシンガンをバックパックに装着して代わりに金砕棒を両手で握った。
一瞬、ギン!!と正面に魔装騎士の集団を睨みつけて、今度は自分から相手が集まっている中に飛び込んでいく。
飛び込んだ集団の中で、耕助は金砕棒をブンブンと振り回し、対峙した魔装騎士達の頭部や四肢を手当たり次第に打ち砕いていった。
団員達はそれでも必死の抵抗を見せ、近い者は剣で斬りかかり、距離のある者はそれぞれが得意な魔法で発動した風の刃や炎の槍を撃ち込んでいく。
しかし、耕助はそれらの攻撃に見事な回避運動で避けて、逆に近くの者達は金砕棒でコクピットを突き刺して葬ると、動きを止めた相手の体を遮蔽物にして魔法攻撃を仕掛ける者達にレールマシンガンをばら撒き続ける。
「ど、どうしたら止められるのだ?!」
「化物め…!!」
それまで、意気盛んに挑みかかっていた団員達も手に負えないラグナロクの姿に消沈するように戦意を失いかけた。
すると、その一団の後方に辿り着いたブライの声が響き渡る。
「全員、そこから離脱しろ!!!」
「「「!!!」」」
声を聞いた団員達は、ラグナロクをその場に残し一気に四方へと駆け出した。
その様子に、耕助は後方から感じる強烈な殺意に敢えて応えるように留まるとその方向に振り向いた。
…そこには、夥しい数の炎の槍が発現し耕助を狙っていた。




