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第五十五話 白竜の閃光、起動する終末(ラグナロク)

 正午。


 約束の時刻と共に、マーデニア連峰の麓近い荒野に巨大な爆音が轟いた。

 

 それは単なる爆発ではない。

 帝国軍一万の前衛に立つ魔装騎士マジックメイル達が放った、開戦を告げる炎の槍(ファイヤージャベリン)の一斉射撃である。


 無数の槍の形をした炎が、防壁を立てて待ち構えるウルバス軍に振り注ぐ。

 それに対し、魔装獣機マジックブルワークの砲門からも、帝国軍が放ったものを遥かに凌ぐ、巨大な炎の槍が撃ち返された。

 数では、帝国軍が上だが明らかに威力ではウルバス軍の方に軍配が上がる。


「あの威力はなんだ?!」


「あれがウルバスの新兵器の力なのか?!」


 前衛の兵士達は口々に驚きの声を上げて着弾したことによって生じた煤けた地面の穴に目を見張る。

 しかし、それで臆する帝国軍ではなかった。


「散開しろ!魔装騎士マジックメイルは、あのデカいのを中心に攻撃!各隊はその間隙を縫って鉄鋼門に向かえ!」


 馬上で指揮する騎士が、瓦解しかけた前衛の陣形を保ちつつ屈強な獣人の部隊や騎士たちに指示を飛ばした。

 それにより、平原を埋め尽くした兵士や騎士達が一斉にオオオ!!と雄叫びを上げて突撃を始める。


 一方、ウルバス軍はジリジリと魔装獣機マジックブルワークの速度に合わせて前線を押し上げにかかる。

 数では上回る帝国軍の攻撃も、魔装獣機マジックブルワークの火力はその進軍する速度を鈍らせるに十分だった。


「帝国の臆病者達に目にモノ見せてやれ!!」


 指揮官のドワーフが、高らかに声を上げる。

 それに応えるように、兵士達は間隙を縫って進もうとする、明らかに自分達よりも背丈の大きい獣人達を魔機関弩マジッククロスで果敢に撃ち抜いて行った。


「なんだ?!あの魔道具は?!」


「ドワーフどもめ、こんなものまで作っていたのか?!」


 帝国の兵士や騎士達は、遮蔽物にした岩陰からその攻撃を目にして忌々しく叫ぶ。

 その間も、ドワーフの兵士達の手元からは次々と魔法の矢(マジックアロー)が放たれて突撃を続けていた前衛部隊の足が止めた。


「後方の魔装騎士マジックメイルの部隊を前線に送るように伝達しろ!このままでは包囲されるぞ!」


 夥しい数の矢が、背中越しの岩に着弾している事を感じながら、馬から降りた指揮官の騎士は後ろに控える兵士に怒鳴る。

 兵士は、その言葉を聞いて頷くと後方へと走り始めた。

 その間も、ウルバス軍は散開した相手の更に外側を包囲するように行動を続けて行く。


 これまで、圧倒的な戦力差で勝利してきた帝国軍の騎士に瞠目させるほどにドワーフ達の連携は見事だった。

 魔装獣機マジックブルワークが高火力の魔法で津波のように押し寄せる帝国軍を薙ぎ払い、網の目をすり抜けた者たちを、魔機関弩マジッククロスを携えた軽騎兵が容赦なく仕留めていく。 


 ウルバス軍は、接近戦に持ち込まんとする帝国軍に対し距離を維持したまま、容赦なく魔法による攻撃を続けながらゆっくりと前進して行った。

 

 だが、その戦況も白い魔装騎士マジックメイルの部隊の登場で一変する。


「ルーシェ!手近な連中を片付けたら、一気に門に向かって突き進むぞ!」


 前線に到着した白竜騎士団のブライはそう叫んで、無数に放たれる魔法のマジックアローを弾き返しながらドワーフ達を斬り裂いていく。


 他の団員達もブライに負けじと、同様に魔装獣機マジックブルワークの攻撃を躱しながら進軍を阻んでいる兵士達を倒していった。


 魔機関弩マジッククロスは、対人としては無双に近い武器であったが魔装騎士マジックメイルの装甲を貫くほどの威力はなかった。

 魔装獣機マジックブルワークは、車体上部に据えられた回転式の砲身を激しく振りながら、炎の槍(ファイヤージャベリン)を撃って陣形を整えようとする。


 しかし、それらは白竜騎士団の白い魔装騎士(マジックメイル)を捉えることは出来ない。


「遅い遅い!」


 ルーシェは風魔法の推進力で、魔装獣機マジックブルワークの重い一撃を軽々と躱す。そのまま空中で属性変換器のセレクターを炎に切り替えると、眼下のドワーフ兵たちへ向けて炎の槍(ファイヤージャベリン)を放った。

 ルーシェの放った炎の剣はドワーフの軽騎兵ニ、三人をまとめて焼き払った。


「白い魔装騎士マジックメイルだと?!あれが、白竜騎士団か?!」


 軽騎兵を指揮していた、フルプレートの鎧に身を包んだドワーフの別部隊の指揮官は、通常の魔装騎士マジックメイルよりも一・五倍ほど大きな白い姿に驚嘆の声を上げる。

 すでに、ウルバスの諜報部からは白竜騎士団が参戦する情報は、下士官までに通達されていた。

 

 指揮官の目には、魔装獣機マジックブルワークを翻弄し並み居る味方の歩兵部隊を次々に葬る白い魔装騎士マジックメイルの姿が映る。


 その状況から、後方に下がりつつあった帝国軍が息を吹き返した様に怒涛のごとく進軍を再開した。

 帝国の前衛部隊は、瓦解した箇所に次々と炎や氷の魔法を放ち、それに乗じるように騎士や兵士達が突撃を始めた。


「遊撃部隊に、攻撃を開始するように伝えろ!」


 指揮官は、側に控えていた兵士に命令すると自分は再び前線に立って、白竜騎士団に抵抗を続ける軽騎兵達に叫んだ。


「後退しながら時間を稼げ!今、遊撃部隊が敵に攻撃を仕掛ける!」


 だが、その叫びを最後にルーシェの長槍が指揮官の体を鎧ごと貫いた。


「ガハッ!!…帝国め…」


 指揮官は、喀血しながらも自分の血に染まる長槍に手を伸ばした。

 しかし、長槍は無情に引き抜かれて騎士はうつ伏せに崩れ落ちる。


「…勇ましいなぁ。でも、それだけだね。」


 ペロッと唇を一舐めして、ルーシェは相手の陣形を切り開くように自分の魔装騎士マジックメイルを更に奥へと走らせる。

 しかし、その先には更に先行するブライの背中が見えていた。


「隊長!早すぎます!待ってください!!」


「お前が遅いんだ!…ついて来い!」


「はい!!」


 ブライが発した言葉に、ルーシェは場違いにも別な想いで胸を高鳴らせて満面な笑みで返事をする。

 そして、手当たり次第にドワーフの兵士達を死に追いやって行った。


■△■△■△■


 白竜騎士団、参陣。

 その情報は、いち早く後方の最終防衛拠点ともなるルブラン城内にまで届けられた。

 それは、当然と城内にある魔装獣機マジックブルワークの格納庫で出撃の準備をしている耕助の耳にも入る。


「なんだって?!白竜騎士団がここに来ているのか?!」


 キャノピーを空けたまま、エレノアの指示で調整しながらその名を聞いた耕助はワナワナと体を震わせると叫んだ。

 帝国の元将軍ローディックから聞かされた四竜騎士よりも強いと言われた騎士団。

 耕助は、その顔いっぱいに歓喜の表情を浮かべながらエレノアに言った。


「おい!そいつらが来てるんだったら、話が変わってくるぞっ?!」


「なにを言っているのだ?!」


 ドルムが、慌てて口を開いた。


「なにをだぁ?!白竜騎士団が来てるなら、こんなとこに閉じ籠もってる場合じゃねえってんだよ!…こっちから撃って出るぜっ!」


 そう喚きながら耕助は、せわしくコンソールの上で動かしていた手指の速度を上げる。


「ラグ!微調整はいい!さっさと出せる様にしろ!」


「Yes、マスター。武装のチャージがあと数分で完了します。それで完了です。」


「急げよ!」


「Yes。」


 すると、その横に立っていたエレノアが呆れた口調で苛立っている耕助に声をかけた。


「耕助。…わかっているのか?お前の仕事は城と街の防衛だぞ?」


「知るか!それどころじゃねえ。前の戦いじゃ、仁に美味しい所を持ってかれてんだぞ?!…それに、おちおちと連中が他の部隊とここら辺に集まってきたらいくら俺でも守りきれないぞ?」


 耕助の言葉に、エレノアは意外そうな顔を向ける。


「…冷静じゃないか。お前のことだから、自分が暴れられればそれでいいぐらいに思ってたぞ?」


「お前なぁ、この冷静沈着な俺様がそんなに呑気なわけないだろ?っていうか、あんたこそ、そんなに呑気にしてていいのか?」


 耕助は、そう言って含みのある笑みを見せる。

 逆に、エレノアは怪訝な表情を浮かべた。


「…?どういう意味だ?」


「賢者様よぉ。あんた、この世界でも有名な大賢者なんだろ?そんなお方が、俺一人に戦わせておいて高みの見物でもするつもりか?」


「なんだと?なんで、私が戦うのだ?」


「わかってないなぁ。…俺一人じゃ手に余るかもしれなかったとするだろ?…そんで、連中がノコノコこの城を攻めたとする。そうしたら、ミルンは怖がったりしないのか?」


「?!」


 エレノアは、一度目を見開いた後に耕助に向かって据わった視線を向けた。


「…私のミルンを怖がらせる者がこの世にいるというのか?!」


「お前のじゃねえ!…とはいえ、そういう事になる前にあんたも動いた方がいいんじゃねえのか?」


「当たり前だ!今からでも、帝国の奴らを粉砕してやる!」


 拳を胸の前で握りしめて、エレノアは叫ぶ。


「ちょいちょい!それじゃ、俺の分がなくなるだろうが!…俺は、あの白竜騎士団と戦えればそれでいいんだよ。だから、あんたはその後ろにいる本陣を丸ごと潰してこいよ。…出来るだろ?」


「当たり前だ!…貴様、よくもミルンを出汁にしてくれたな?」


「ケッ!お互い様だろうが。…とにかく、俺達はここに来た帝国軍を全滅させればいいんだろ?だから、鬱陶しいコトになる前に俺は出るって言ってるんだ。」


 珍しく思案のある言葉を並べる耕助に、エレノアは怒り心頭だった気持ちを落ち着かせる。


「わかった。それでは、後方の本陣は受けてやろう。それでお前は白竜騎士団を始末する。」


「そうだ。」


 耕助は、そういうと二人のやり取りを見ていることしか出来ないドルムに視線を向ける。


「そういう事だから、後はあんたと賢者様とで上手くやってくれ。俺は、やらなくちゃなんねえことが出来たからよ。…だが、依頼は必ず果たすから安心してくれ。」


「フン。私は貴殿に託した。この都市を守れるのであれば過程は問わん。…頼む。」


 鼻息を吐きながらも意を決したドルムに、耕助は笑みを浮かべながら親指を立てるてキャノピーを閉める。

 そして、白竜騎士団の登場で激戦と化している城外へ通じる通路へと歩き始めるのだった。

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