第五十八話 白き竜の墜落、鉄の鬼の嘲笑
「ジェリルを殺したのはお前か?!」
金砕棒を弾き飛ばし、距離を取ったブライは長槍を大きく構えながら怒りに満ちた声で言った。
「ジェリル?なんだ、そりゃ?」
耕助は、聞き覚えのない名前に首を傾げる。
「サトラムス渓谷でお前たちが殺した四竜騎士の一人だ!!」
相手の気のない答え方に、ブライは怒気を孕んだ声で答えた。
「四竜騎士?俺が殺したのはゼフィルスとかいう奴と、なんかデカい奴だけだぜ?」
その言葉に、ブライは嘲笑うように言葉を返した。
「なるほど、するとお前は四人のうち弱い二人を相手にして調子に乗っていたわけか?」
その言葉を聞いて耕助は、ゆっくりと目を据わらせる。
「そうなるよな。…まったく仁のヤロウが美味しいところばかり持っていった結果がこれだ。…あんたの言い方だと、まるで俺の方が弱いと言ってるみたいだな?」
「フッ。違うのか?お前の相手がジェリルだったなら、ここにお前は立っていられなかったはずだ。」
その挑発するような言葉に、耕助は再びブライに躍りかかった。
「上等だぁ!!それじゃ、お前がどれほど強いのか確かめてやるぜッ!!」
耕助は、距離を一気に詰めながら金砕棒を横薙ぎに振ろうとした。
しかし、その背後からニ刃の風の刃が迫ってくる。
「?!」
一瞬、ヒヤリとしながらも素早く反応してそれらを躱すと放たれた方へ視線を向けた。
そこには、不敵な笑みを浮かべるルーシェが操る魔装騎士がショートソードを両手に構えている。
だが、ブライ以外からの攻撃は、それだけに留まらない。
ブライの近侍に当たる六名の団員達が、一斉に四方から長槍を突きだしてくる。
「クッ!…タイマンじゃねえのか?!」
耕助は、突き出された長槍をすべてしゃがみ込んで掻い潜ると、金砕棒を野球のバットのように握り力任せにフルスイングした。
それにより、右側の三体の魔装騎士が横一文字に両断される。
「貴様っ!!」
その惨劇に、ルーシェは笑顔から一転してギリッと歯を鳴らすと再び風の刃を放ちながら突進した。
そこに重ねるように、ブライは火球を撃ち込む。
すかさず、耕助は三体が両断された事によって生じた隙間に向かってリニアブーストで後方に飛んだ。
「寄ってたかって遠慮なしにっ!」
言葉とはウラハラに、耕助は口角を上げながら相手の攻撃から逃れると金砕棒を構え直した。
それに呼応した残った三体の魔装騎士が追撃する。
「来やがれっ!」
迎え撃つように、後ろ向きのまま走り意識を三体に向けながら距離を取ろうとした。
「逃がすかっ!」
追いかける三体の後方に回り、耕助の意識を嗅ぎ分けたルーシェは、属性変換器のセレクターを土魔法に切り替えると魔法を発動した。
すると、後ろに下がり続ける耕助の背後に大きな土の壁が迫り上がって来る。
だが、耕助はそれにも反応する。
「へッ!またこのパターンかっ!」
オーベル=グラナイトとの戦いで受けた攻撃を思い出して耕助は鼻で笑うと、その土壁の下に向かってブンッと金砕棒を投げつけ斜めに突き立てた。
そして、後退から一転して迫る三体の内の一体に飛び掛かると、長槍を握っている左腕を捕まえる。
「逝って来い!」
耕助は、そう叫ぶと全力でその一体を振り回して突き立てた金砕棒に向かって叩きつけた。
「うわあああ!」
叩きつけられた魔装騎士は、勢いを殺せぬまま突っ込み、コクピットを壁の麓に突き立てられた金砕棒に串刺しにされる。
更に耕助は、明らかにその攻撃に動揺して動きの鈍った残りの二体の内一体を背後に回って背中を蹴飛ばし同じ様に叩きつけた。
蹴り飛ばされたもう一体は、先に串刺しにされた魔装騎士同様にコクピットを貫かれて動きを止める。
「ざまぁみろ!!」
耕助は、歓喜の絶叫を上げてヘビーナイフを腰から引き抜くと怯えたように動きを止めた残りの一体に襲い掛かり袈裟斬りにして倒した。
そして、その後方で対峙するブライとルーシェの魔装騎士を睨みつける。
「まったく…これじゃ四竜騎士の時の方がまだ楽しめたぜ!」
動きを止めて串刺しになった魔装騎士の前に来ると、悠然と金砕棒を引き抜いた。
二体は、グシャっと音を立ててその場に崩れる。
「噂以上に非道な奴だな…。」
「笑わせるな。戦場なんてこんなもんだろが。」
ブライのこめかみの辺りに汗が流れた。
耕助は、二人と向かい合うとその場に金砕棒を突き立てて右手でクイッと手招きして挑発する。
「調子に…乗るなぁ!!」
その姿に、ルーシェは風魔法に乗せて即座に距離を詰めてショートソードを振り下ろした。
耕助は、それを意図も容易く左に回り込んで避けると、ヘビーナイフを上段に振り上げる。
「その程度か?!異世界人!!」
口角を上げ、その目に狂気を宿したルーシェは、左足を軸に回転すると、開いたラグナロクの胴体に向かって自らの愛機で右後ろ回し蹴りを放つ。
しかし、耕助は瞬時に空手の交差法の要領で振り下ろされた左肘と突き上げられた左膝が、魔装騎士の右膝を上下から挟み込み、金属の悲鳴と共に粉砕した。
「てやんでえ!!その程度でいい気になるんじゃねえ!!」
そして、更にリニアブーストを右足だけ発動させると右回りに腰を捻って右廻し蹴りを魔装騎士のコクピット辺りに叩き込んだ。
「グハッ!!」
堪らず、コクピット内でルーシェは喀血して魔装騎士ごと吹き飛ばされる。
「100年早いぜっ!クソがっ!」
動きの止まった魔装騎士に向かって悪態をつくと中指を立てて舌を出した。
だが、その刹那、すぐ背後にブライの魔装騎士が右手のショートソードを突きかけてくる。
耕助が、それをヘビーナイフで反射的に弾いて受け流すと、更に左手のショートソードが襲いかかった。
「チッ!」
堪らず耕助は舌打ちすると、バックステップして、その連撃を躱して突き立てていた金砕棒を掴み、上段に振り上げた。
その瞬間。
さっきまで微動だにしていなかったルーシェの魔装騎士が背後から飛び掛かり羽交い締めにしてラグナロクの動きを封じる。
「なんだと?!」
予想だにしなかったルーシェの行動に、耕助は驚嘆の声を上げた。
「団長!!今です!!」
額から血を流しながら叫ぶルーシェに、ブライは両手のショートソードを大きく上段に振り上げる。
「おもしれぇ!!」
耕助は、咆哮を上げると警告音が鳴り響く中、咄嗟にキャノピーを跳ね上げてシート脇に備えられた愛刀を抜き放った。
「剛剣神影流、『岩斬』!!」
元はウルバス五鎚にも数えられた剣匠の手によって鍛えられたその刀は、振り下ろしてくる魔装騎士の両肘から先を見事に斬り飛ばした。
「なに?!」
人が振るう剣が、魔装騎士の腕を斬り飛ばす。
その常軌を逸した現象にブライは驚愕し動きを止めた。それは、ラグナロクを背後から押さえているルーシェも同様だった。
耕助は、その隙を見逃さず再びラグナロクの体に飛び込むとキャノピーを開け放ったまま、金砕棒を放り投げて纏わりついている魔装騎士の左腕を掴んだ。
そして、大外刈りの要領でブライの魔装騎士に向かって投げ飛ばす。
二体の魔装騎士は、ガシャアアン!!と派手な音を立てて重なって倒れ込んだ。
そのあまりの衝撃にルーシェのコクピットのキャノピーは弾みで、バクン!と開け放たれてしまう。
ルーシェは、その整った口元を血で汚し額から血を流しながらも、目の前に立つ異世界から来た凶暴な鉄の塊に向かって叫んだ。
「まだだ!!まだ、私たちは負けていない!!」
しかし、次の瞬間、その眉間に二発の弾丸が撃ち込まれると後頭部から破裂したように脳漿を撒き散らしながら絶命する。
「ルーシェ!!!」
ブライは、目の前で起こった事が信じられず狂わんばかりに絶叫した。
その姿を、手にしたグロックから紫煙を揺らしながら眺めている耕助は冷やかに言った。
「バカが。負けたに決まってんだろ。…戦場で口を開いていいのは勝ったヤツだけなんだよ。」
そして、落ちていた金砕棒を拾い上げると倒れたままのブライに近づく。
ブライは、自らの死を覚悟しながら、怒りに満ちた表情を見せると呪いの言葉を発するように呻いた。
「…貴様…貴様は一体、何者なのだ?」
耕助は、この世界に来て何度も耳にした言葉を聞きながら、満足げに笑顔を浮かべると金砕棒を振り上げた。
「最初に自己紹介したはずなんだがな。…今、帝国軍で話題沸騰中の…異世界人だ。」
そして、ブライの魔装騎士のコクピットを金砕棒で無慈悲に貫いた。
言葉を継ぐ間もなく、ブライは狭いコクピットの中で金砕棒の威力に圧壊し、その無念と共に戦場から消え去るのだった。




