第四話:背尾つかさは落ち着いている
「私は背尾つかさと申します。すみませんが、こちらで迷い人として話を伺えないかと」
「私はタバサって呼んで頂戴。まずはお茶でも飲んでおちついて話しましょうか」
恰幅の良い店主のおば……お姉さんは、タバサさんと言うらしい。
雑貨屋の仕入れのついでに、駆け出しの商人などに街のルールを教えていたら、家出人の対応なども似たような物だろうと任せられるようになり、数年に一度現れる異世界からの迷い人も合わせてタバサさんに押しつけられているそうだ。
押しつけられていると言いつつも、楽しそうに愚痴っているので、きっと頼られているだけなのだろう。
「数年に一度って、異世界からの迷い人って、そんなに良く居るんですか?」
「大人しく話が出来るのは少ないけどね」
「言葉が通じない、という事ですか?」
「いいや、日本語出来るのは少ないけど、ここじゃ何故か英語でもヒンタボ語でも普通に通じるんだよ」
不思議空間だ! 異世界転移モノの小説や漫画をいくつか読んだことはあるけれど、最初の難関が言葉だと思う。魔法とかで会話できるならともかく、言葉を覚えなきゃいけないタイプもある。そうじゃ無くて良かった!
「あとね、イロイロ教えてあげるけど、最初のレッスンだよ。もっと注意深くなりなさい。あたしは今大事なヒントをだしたよ」
「ヒントを?」
「なんであたしが日本語とか知ってると思う?」
あー!日本語で話してるから気が付かなかった!
ここ、異世界で他の言葉でも通じるなら会話に『日本語』って出てくるのおかしい!
「気が付いたみたいだね。あたしの昔の名前は田畑さちこ」
「えっと、同じ迷い人なんですね!」
「そうだよ。話ができるタイプのね」
小さくため息をつく田畑さん……タバサさんと呼んだほうがいいのかな?
「あの、その『話ができるタイプ』っていうのはどういう事でしょうか」
「『できないタイプ』がいるのよ。見知らぬ場所来た事でパニックになって暴れちゃったり、この世界のルールに馴染めなかったり、異世界に舞い上がっちゃって自分が勇者だと思い込むのもいたね。そういう地に足のついてない人は大抵無謀な冒険をしたがって、そのまま帰ってこなくなるわね」
順応できない人がいるって事か。私は何で冷静なんだろう。
「あんたは、妙に冷静ね?」
「ほんとですよね?」
少し考えこんで、その原因に思い至った。
「たぶんですけど、可愛いクマちゃんに付いてきたから、かな?」
「クマちゃん?」
「はい。森の中からこの街までもクマちゃんの後をついてきたんです。あのクマちゃんは何者なんですか?」
タバサさんは不思議そうに首をかしげた。
「そういえば熊はみかけないねぇ。日本に居た時に動物園で見たっきりだよ。この世界には熊いないんじゃないかな」
「イントネーションが違います。漢字の熊じゃなくて、カタカナとかひらがなのクマです。可愛いぬいぐるみみたいな子でした」
「どっちにしろ、見かけないね」
タバサさんは若い頃に山ガールとして北岳に登山している最中に遭難して、気が付いたらパレットの街についたらしい。
「なんにしろ、落ち着いているのは良い事よ。まずあなたの住むところと、その目立つ服の買い換え。それと生活費を稼げるようにしないとね」
「は、はい」
日本では私、失踪した事になっちゃうのかな。生活費稼ぐっていうけど銀行に結構預金してたの何とか下せないかな。ATM無いよね? 買ったばかりでまだ袖通してない服、着ておけばよかった! 化粧品もほとんど持ってない! 冷蔵庫の中の物腐っちゃう?
生活費というリアリティ溢れる単語を聞いた事で、急にいろいろ麻痺していた頭がグルグルし始めた。わー、どうしよう。
そんな風にわたしが目を回していたら、スイングドアがバンッと大きな音を立てて叩き開けられた。
「タバサさん、悪い! 回復薬あるだけ売ってくれ、色喰蟲が出たんだ、バージルが怪我をした!」
「つかさ、ちょっと悪いけどこの荷物持って着いてきてくれる? 色喰蟲は最優先なのよ」
そう言ってタバサさんは、色とりどりのガラス瓶をわたしに持たせると、お店を飛び出していった。まって?!
色喰蟲。描写したくない……




