第五話:背尾つかさは少し呆れられる
タバサさんに連れられてやってきたのは、ついさっき通った門番さんの所だった。
「クローブさん。薬持ってきましたよ!」
「バージルの脚を治してやってくれ」
門番さんはクローブさんと言うらしい。橋の上に寝かされているのがバージルさんかな。
まだ若い……というかまだ未成年じゃ無いのかな。鮮やかな緑色の髪の毛が血で汚れており、かなり苦しそうな顔をしている。きっと傷が深いのだろう。痛そうなのは苦手だから、そっちを視界に入れないようにする。
すると、奇妙な物が目に入る。街の周りを囲む川は同じ幅だったはずなのに、橋のすぐ脇で川幅が半分になっている。
「橋を消されるととんでもなく不便だからな、その前に倒せて良かった」
「いや、一匹みたら30匹はいると思った方がいい。巡回班を北側にまわせ。非番の連中集めて南側を捜索する」
「費用はまとめて払っておくから全員薬を受け取って行けよ。でも使うのは古い方から使ってくれ!」
クローブさんがテキパキと周りに指示を出して大勢の人が動いていく。
その間にバージルさんの脚にはタバサさんが薬を塗り込んでいる。
「脚のトゲで引っかかれただけだね。頭の怪我も羽根で叩かれたんだろう。齧られたんじゃ無くて良かったよ」
「川を喰ってたからな。食事中じゃ無ければ危なかった」
虫。一匹みたら30匹。脚のトゲ。齧る。
嫌な予感がする。気持ち悪い虫だろうか。そっちもみないぞ!
「少し前に備蓄していた薬を大量に使ってしまってな。タバサさんとこに在庫があって助かったよ」
「材料もうほとんど無いから、これで品切れだよ。あるだけのナオリ草を薬にしておくから、なんとか材料の手配を頼むよ」
クローブさんとそんな会話をしていたタバサさんは、クルリとこちらを振り向くと、妙なことを言い出した。
「ねぇ、つかさ。あんた料理は出来る?」
「まぁ、凝ったもので無ければ」
一人暮らしなのであまり凝ったものを作る機会が無いのだ。同僚の女子社員達と食べる為のブラウニーやクッキーを焼くことはあるけれど、あれはレシピの通りに測って混ぜてあとはオーブンに任せるだけだし。
「じゃあ、焚き火とかバーベキューとかしたことはある? コンロ無しで火が扱えるかって事なんだけど」
「炭が消えないようにとかは出来ますけど、ライター無しで火をおこしたことは小学生以来無いです」
「そんなのは求めてないよ。ガスがないから強火とか弱火の調節出来ないんだ。カマドで沸騰させずに火加減見てられたら充分よ」
タバサさんはわたしの肩をポンと叩くとニンマリと笑った。
「じゃあ、薬作るの手伝って貰おうかね。それでお給料出すから、服と靴買いな。歩きにくいだろう?」
「タバサさーん!」
思わずむぎゅっと抱き着いてしまう。街の中も舗装されていないので歩きにくかったのだ。
「しかし、小学生の時に火おこししたのかい?」
「授業で虫眼鏡で火を付けるのがあって、火にハマりまして」
「ああ、あったね、そんなの」
「棒をクルクルしたり、自作の火おこし弓使ったりして火を付けて火事になりかけました。部屋の中でやってたので」
ちなみに石をカチカチやるのは、何度やっても火花が出ませんでした。ただの石じゃダメだなんて知らなかったから。
「あんた何やってるんだい」
「お父さんにこっぴどく叱られました」
タバサさんは眉毛の間を揉みほぐしている。呆れているようだ。
「ま、まぁ。それなら火おこしにも祝福があるかもしれないね。上手く火加減の大事な薬作りなんかにも祝福があれば、そのまま薬屋か料理屋で仕事にしていけるよ」
「しゅくふく?」
「あぁ、まだ説明してなかったね。この世界には『好きこそ物の上手なり』って言葉があってね。好きな事には精霊様の祝福があるんだよ。だから料理が好きなら必ず上手くなるし気持ちの分だけ強い祝福が得られるんだ」
精霊! 祝福! 異世界と聞いてもしかしたらとは思っていたけど。
「魔法とかもあったりしますか!」
「普通にみんな使ってるよ。得意不得意はあるけどね」
上がったテンションのままに万歳を叫ぼうとしたその時に。
「一匹抜けたぞー!」
わかりにくい所とか、変な言い回しがあったら遠慮なく指摘してくださいね。




