第四十三話:背尾つかさはキノコの森に向かう
街なか向けの魔道具や調理器具を売っている店を何件か覗いてみたが、発酵石は品切れのようだった。
発酵石は漬物石の様な使い方をする道具で、生ごみを短時間で肥料に変える効果として使われているものなので、頻繁に買い替える物でもないし、なくて困る物でもない。なにより、この街では火の扱いが厳しいので個人の家には厨房が無いのが普通なのだ。みんな家の外に七輪を置いて魚を焼くくらいはするけども、家庭で火を扱う調理をする習慣はあまりない。生ごみが出ないのだから、需要のとても低い道具なのでした。
「困った。納豆に使う豆も、チーズに使うミルク草も買っちゃったのに、発酵石だけ無い。失敗した!」
クマ達、前足を額に当てる『あちゃー』のポーズ。
そんなかわいい子達の姿にニコニコしていると、バージルさんに声を掛けられた。
「どうしたんだい」
「あ、こんにちは。いえ、どうもしていませんよ」
「なんか……道の真ん中でニマニマしてて怪しいから詰め所で話聞いた方がいいか迷ったんだが」
「すいません」
クマを見ていたり話しかけたりしていると、クマが見えない人たちからは不審者みたいに見えちゃうんですよね。気をつけないと。
「そうだ、発酵石買おうと思ったら品切れだったんですけど、そういう時ってどうしたらいいんでしょう。どこかから入荷されるんですか?」
「発酵石だけじゃないけど、商人が他の街から運んでくるか、探索者が見つけて持ち込むかしたものを買い取るしかないな。発酵石なんかは北のキノコの森で見つかる物だから、絵の具の材料探しに行く探索者がついでに拾ってくる事があるよ」
不審者として職務質問されたついでに発酵石の入荷経路を聞いてみると、思わぬ発見。絵の具の材料でキノコの森ですって?
どういうことなのか聞いてみると、キノコの森というのは、毎日毎晩巨大なキノコが生え変わり地形が変わってしまうので地図が作れない場所なのだとか。
「迷ったりしませんか?」
「迷うよ。地図も作れないんだから。でも、双眼鏡で天井を見ながら進めば方角はわかるだろ?」
そういえば、この世界は筒状になっているのでした。地平線は無く、遠くの地面はどんどん空に向かっていき、ぐるっと一周します。
「キノコの胞子で曇る事も多いけど、水を出す魔道具さえ持っていれば、キノコは食べられるから何日かキャンプする覚悟があればなんとかなるんだよ」
「危険は無いって事ですか?」
「大型の獣がいるけど、キノコ食の動物だしね。怒らせなければ大丈夫」
その大型キノコを食べにくる巨大生物の皮や骨は、カラフルなキノコの色に染まっていて絵の具や魔法具の材料になるのだとか。もちろん、普通の皮として服や道具の素材としても使われているし、多くの使い道がある。
餌になるキノコ自身もカラフルなものが多くて、上手く持ち帰れれば高く取引されるらしい。ただし、キノコの森のキノコは半日で枯れて液状化してしまうものが多く、なかなか持ち帰れないとか。
なんだその不思議キノコ。
そんな所に落ちているの? 発酵石。
「あ、とはいえ一人で行ったりはしないようにね。高い所から落ちたり穴に落ちたりとかすれば怪我もするし、最悪死ぬよ」
「わかりました。一人ではいきません」
クマ達と行ってみたいと思います。




