第四十話:背尾つかさとお店の看板
サラリ君に椅子を勧めて、厨房からおやつを運ぶ。
「ここにいるクマ達って、どこかから連れてきたの?」
「違うよ。絵の具を用意して魔法使ったらそのまま居ついてくれたんだ」
「それだけ?」
「あとは……名前も付けたけど」
「たぶん、それかな。色の精霊たち、三人以外は名前無いから、付けて貰って嬉しくて懐いちゃったんだね。名付いただけに」
そうなんだ。これからもドンドン名前を付けよう。ギャグらしいものはスルーして。
話ながらもおやつの準備は進める。今日のおやつは保存用に堅めに焼いておいたビスケットを、アポロ君の管理するオーブンで焼いたもの。
そこに、ミルク草から作った生クリームをどっさり。本当はアイスがいいのだけど冷蔵庫が無いので代理だ。飲み物はロイヤルミルクティ。口の中が甘くなりすぎるのでクランベリーのような果実を干したものも並べる。これはアポロ君がどこからともなく用意してくれた。
「ここはカフェなんだっけ?」
「違うよ」
「それともお菓子屋さんなのかな?」
「……薬屋なんですよ」
サラリ君はゆっくりと店の中を見回した。
「薬屋」
「というか、工房と言うか。たしかに薬以外の物も作ってるけど」
「クッキーとか?」
「そう。あとブラウニーとかホットケーキとかタルトとか。あと燻製や揚げ物とかのおつまみになりそうなものを」
「薬屋なの?」
正直に答えてしまうわたしが悪いのだろうけど、サラリ君は追及の手を休める気はない様だ。
「薬『も』作って売っているお店、みたいだね」
「そうです」
クリームが沁み沁みになったビスケットをフォークで切り分けながら、珍しそうに棚を見回している。椅子に座れず浮いているので確かにお行儀が悪い。
「『クマが好きだからクマが見える』なのかなぁ。そんなんで祝福になるのかな。ねぇ、つかさは神さまと会った事ない?」
「かみさま? クマの?」
「神様はクマじゃないよ。僕と同じくらいの背丈の女の子なんだけど」
「神様にあったことは無いかな。女の子も、こっち来てからはあまり見かけてないかな。日本にいた時も小さな頃は田舎の村にいて友達いなかったし、都心に引っ越した頃にはクラスの子ももう少し背が高かったから。大家さんの所の娘がそれくらいだった気も……」
「うん、それならいいんだ。無理に少ない交友関係を拾い上げなくても」
サラリ君が厳しい。友達が居ないわけじゃないんだよ?
「サラリ君もクマが見えているんだよね。クマ好きだからってわけじゃないの?」
「ぼくは絵描き妖精なんだよ。だから絵の具が見えないと困るでしょ。神様がいろんなものを描くようにって色の精霊を作ってくれたから見えるのは当然だよ」
「クマが絵の具扱い?」
「色の精霊だから、この子達は」
ちょっとショックを受けるけど、クッキー君とアポロ君が『はいはーい』と手を挙げて色の精霊アピールをしているので、まぁ本人たちがいいならいいかと落ち着いてみる。
お茶を飲みながらクマ達のお皿におかわりを盛り付けていると、ふと、ひいろ様の事が気になった。
「この子は色の精霊じゃないの?」
ひいろ様のお耳をもふもふと揉みながら尋ねてみる。『きゃっ』と両手でお目目を押さえて恥ずかしがるひいろ様。自分の話題になったのが嬉しいみたい。
「この子も色の精霊だけど、あんまり出番のある色じゃなかったから、別の仕事を頼んでたんだけど。なんでこんなところで油売ってるの?」
ひいろ様は『ぶんぶんぶん』と勢い良く首を振ってサボりを否定、徹底抗戦の構え。
「わたし、この子に着いてきてこの世界に入り込んじゃったんだ。日本への戻り方知ってたら教えて欲しい。あとこの子はわたしがお菓子で餌付けしちゃったから、仕事の邪魔してたならごめんなさい。かわりにわたしが手伝ってもいい?」
どうやらひいろ様には仕事があったらしいので、叱られないようにサポート。クマは悪くない。クマは正義。
「いや、頼んでたのは色んな物探す事だから、精霊の見えるつかさを連れてきてくれたなら、それはそれでOKだよ」
「何を探してたの?」
「はしご」
「はしご?」
聞き返すと、サラリ君はこの世界の創生神話を教えてくれた。神様がサラリ君を作って、色の精霊を作って、高い所に絵を描くためにサラリ君がハシゴを描いたら、神様がハシゴを持って何処かに行ってしまったのだそうな。
なんか無責任な神様だな。ギリシャ神話でもそんなほったらかしは……いるかな。少なくとも日本神話や北欧神話、ギリシャ神話ではそんな話は聞いた事は無い。
「だからね、ハシゴか、神さまを探しているんだ。あと色を食べられると困るから色喰蟲。アレをやっつけるようにいろんな種族も協力することになってるから」
「虫関係はお断りします」
虫はちょっとなぁ。普通のサイズのも嫌いだけど、大きいのは勘弁してほしい。
「いいよ。いたら他の人に教えてくれれば。あと食べられた痕跡とかあったら誰かに報告してくれればいい。というか、探索者っていう人たちが色喰蟲を探しては退治してくれてるはずだよ?」
おお! タバサさんのお店でいろいろ買っていってくれる人たちか! あの人たちが探索しているものって虫に食べられたところだったのね。何探しているのか知らなかった!
「だからまぁ、急いでいるわけじゃないから。クマ達はそのまま可愛がってあげてて? つかさももしハシゴとか神さま見つけたら教えて。あとボクの影とか」
「わかった、あったら拾っておく」
「じゃ、また遊びに来るよ。これはお菓子のお礼ね」
そういうと、サラリ君はクッキー様のお尻を大きな絵筆で少しなでると、木目調のクマ型の看板をサラサラッと描いて、慌ただしく出て行ってしまいました。
【くまはうす】
そりゃ、クマがいっぱいいる家だし、何を売っている店だかわからないけどさ。でもクマ型なのは可愛いのでこのまま掲げておきましょう。
……ところで。ハシゴはいいとして、神さまって見つけたらどうしたらいいんだろう?
なんか、落ち着きのないドタバタした子でした。




