第三十七話:背尾つかさはノックアウトされる
新しいクマのアポロ君の歓迎を兼ねて、シロップをたっぷり掛けたホットケーキを振る舞う。
小さく切ったホットケーキをシロップに付けて食べれば良かったのだけれど、見た目のホットケーキ感を優先させて『二枚重ね溶けバター乗せシロップたっぷり』の形で作ってしまった為、三人ともベタベタになった。
フォーク、練習しようね。
湯沸かし器の付いてないバスタブに、かまどで沸かしたお湯を何度も往復してぬるま湯を作る。ベタベタのままでは添い寝し難い。
わたしは腕まくりをして三人を次々にお風呂に沈めると、泡だらけになって三人を洗い、ブラッシングする羽目になった。
今度からハチミツフォンデュにしよう。上から掛けるとこの子達はこぼす。
ギューッとひいろ様を絞る。三人とも面白がってくしゃくしゃになったり捻れたりしているけれど。
「関節じゃないところで二段折りとかになってるけど、痛くない?」
あまりの姿勢に思わず聞いてしまう。
しばらく口元に手を当てて考えるとひいろ様は、自分の爪先を持って片足立ちになると、そのままくにゃりと膝を手前に曲げておでこにくっつけた。
『中身、綿なので』といいたいのだろうか。体の柔らかさを見せて自慢しているようにも見える。痛くないならそれでいいかな。
水を切ってもビショビショの三人には、乾いたTシャツを着せて、シャツごとハンガーに掛ける。アポロ君は小さいのでハンカチで。そのまま陰干しの刑に処する。
お皿を洗いにいくちょっとのあいだだけ目を離したら、もうすっかり乾いていた。
魔法の力なんだろうな。よく考えたらベタベタ落としも魔法で出来た気がするけど、お水遊びをとても気に入ってくれたようなので良しとしよう。
くったりと疲れつつも、三人のクマに埋もれるようにして安眠すると、窓から入る眩しい太陽の光で……
……この太陽もなかなかの不思議太陽で、位置が変わらない。朝から夕方に掛けて光量が変わっていき、夜になるとスーッと何処かに行く。
そんな謎の太陽の爽やかな朝日で目を覚ます。腕の中にはモフモフ。背中にはふわふわ。そして大きく息を吸うとパンの焼ける香ばしい匂い。
「アポロ君?」
ベッドの中に居ない小クマを探して厨房に行くと、わたしのハンカチを折ってエプロンにしたアポロ君の姿があった。
箱と蒸し器とボールと鍋を積み重ねた、不安定な踏み台の上に乗って朝ご飯を作っていた。キラリンとした笑顔。
ステキ☆
じゃないや。嬉しいけど危ないから椅子を使おうねと説得する。それでも届かないらしいので専用の踏み台を作ることを約束する。
作ってくれていたのはスクランブルなエッグと、焼いたベーコン。
どうも身振り手振りで説明する限りでは卵焼きを作ってくれようとしたらしい。形が整わずにぐしゃぐしゃになった模様。お砂糖も入ってないし、火が強かったのでベーコンも焦げていた。
『ぼくがつくってあげたかったの』と言う気持ちを強く感じる。もう、それだけで嬉しい。
むぎゅーっと抱きしめて、一緒に作ることにするする。
スープはコンソメの木の実があるので、中身を小鍋に移して温める。具が寂しいので煮込んだ葉物野菜とトマトを足す。
買い置きしておいたパンを、竈の上の鉄板に置く。パンも木になっているのだけど、小麦粉捏ねて発酵させて焼いた方が美味しい。木になるパンやお弁当は缶詰っぽいのだ。だからそのうち品種改良が進めば美味しい木の実もでてくるのかも知れない。
そんなこんなでわたしの好みで選んだパン屋さんのパン屋さんのに、アポロ君がペッタンと肉球スタンプすると、赤い肉球型が残る。
かまどの側で温めると、苺ジャムの甘い匂いが香る。
反対の手でペッタンペッタンすると、今度は少し酸味のあるラズベリージャム。
「アポロ君凄い! よっ、ジャム要らず!」
『えっへん』と胸を張るアポロ君のおててを少し見せて貰う。ぷにぷにしてて良い触り心地。そして、わたしの手にジャムは付かない。よかった、|常時発動«パッシブ»じゃないならソファやベッドはジャムだらけにはならないよね?
色から判断して、赤い物なら作れるのだろうか。
ご飯を食べたら三人を連れて、昨日作った絵の具の残りを精霊像に奉納してこようかな。ついでに食材をどっさり買い込もう。漬物にチャレンジして、揚げ物の量産体制を整えよう。
緑色の子だとウグイスパンになる。




