第三十二話:背尾つかさは絵の具の材料に警戒する
ドワーフ達から頂いた試作品は、なるべく多くの人の目に触れさせて、気に入った人に買ってもらいたい。その為、値段は下げても構わない。
そういうつもりで、わたしは安めで値段を付けようとするのだが、タバサさんに止められた。
「そうは言ってもね、これ安物じゃないよ? かなりの腕利き職人が自信をもって作った逸品ばかりだ。職人に失礼だし、そもそもドワーフは気難しいから気に入られないと仕入れさせて貰えなかったりするから、品薄なんだよ」
「え、気難しい?」
「気難しいだろ? それにドワーフ製って言えば、超一流の代名詞だからね? そんなもの安値で流したら街の職人が悲鳴上げるよ」
価格破壊はまずい。タバサさんに値段付けを手伝ってもらってよかった。
しかし、これが釣り合っていると判断されたって事は、わたしのおつまみはどれほどのボッタクリ値になってしまったのだろう。
大衆食堂の小鉢を作っていたつもりが、銀座のBARのオードブルの値段になっている。怖い。
小さく切った値札カードに、タバサさんと相談して付けた金額を書き込み、穴をあけて糸を通して品物に結び付けていく。こうしておかないとわたしが値段を把握できなくなる。
わたしの隣に並んでせっせと手伝ってくれるひいろ様は、よくわかっていないのか、ミスリル製万年筆に銅貨2枚とか付けている。どうしよう、このクマ、話を聞いてない。
そんなこんなで自分が使うもの以外の、全てのドワーフ製品に金額を付けて露天売りの準備をおわりにする。貨幣の種類が少ないからお釣りの準備が楽でいいな。
明日は露天でいろいろ見せて売りつつ、絵の具の材料に使う『染め油』なる物を買ってこないと。
料理や手芸はそこそこ子供の頃からやっていたが、さすがに絵の具を作ったことは無い。服や布を染めるのは顔料とか染料と呼ばれる物を使うという事は知っているけれど、それはハ〇ズやユザ〇ヤで買うもので、顔料から手作りと言うのは経験が無い。
草木染めという物があるのは知っているが、それは絵の具とは違うと思うし。
それでも知識として知っていたのが『赤い色の原料』だ。カイガラムシという虫を使うという恐ろしい話を聞いてから、しばらく赤い色の服などを身に付けなかった位にはショックな知識だった。
その後、古くからある色の作りかたとしては鉱石の方がメジャーと聞いて安心したのだけれど。
この世界にやってきてからも、中央広場の精霊像の近くで絵の具を売っている人に聞いてみたが、やはり虫から作る絵の具ではないようだった。
様々な色の石を粉にして『染め油』と混ぜて作るのだとか。
たぶん膠液とか乾性油とかの事だと思うんだけど、この世界の事だからミルク草やお弁当の実のように、そのまま木になっている可能性もある。
もちろん完成品としての綺麗な絵の具があったらそのまま買いたい。
そんな事を考えながらも手を動かしていたら、すっかり準備は終わった。気分はフリーマーケット。露天でお店をするというのだからあまり変わらないだろう。
タバサさんに聞いた通り、お店を出す申請だけ出しておけば、自分の店舗以外の場所でも出店は自由。
税金も一応あるらしいが、普通の人は人頭税だけで、商店をやっている人は広さに応じた間口税があるだけ。
税の種類を複雑にしても、徴収する側の手間が増えてそれだけ役人が必要になってしまうので、極力シンプルにするのが街の方針らしい。
素晴らしい!
その代わり、街の拡張工事や街道の整備に費用が掛かる場合は寄付を求められるらしい。そこで人手かお金を出せばそれで良いし、そもそも生活必需品が安いのだから、貯め込んでも使い道がない。
逆に言えば行政が医療も年金も保証してくれては居ないのだけど、迷い人としてはとても助かる制度だった。高額な税金が掛かって払えないと奴隷になるとかいう世界じゃなくて本当に良かった。人生はイージーモードであるべき。
そういえばこの世界って奴隷とかいないけど、産業革命以前の文明で労働力が足りてるって凄いな、と世界史に思いを馳せながらベッドにもぐりこんだ。
もちろんクッキー君のひざ枕。ひいろ様を抱え込んでフワッフワのもふもふ状態。クマたちは少し寝相が悪いのでたまにパンチされたり、ベッドから落ちていたりするけれど、この満足感には代えられないのです。
ウトウトと心地よいまどろみの中で、『好きこそ物の上手なり』というこの世界の法則についてのタバサさんの言葉をふと思い出した。
そうか、わたしの好きな物ってクマちゃんで。わたしにだけクマちゃんな精霊たちが見えているのって。そんな事を考えているうちに、眠りに落ちた。
つかさのタスク
・ガラス瓶の購入 :シーナさんの店で購入可能
・ガラス工房体験講習 :シオニ石持って再訪予定
・そのうち蜻蛉玉を買う :ドワーフ品が売れて余裕があったら…
・ホットケーキに掛ける物の購入 :ドワーフ品が売れて余裕があったら
・クマ残留条件検証 :たぶん絵の具の有無だと思う
・美容薬……上級回復薬のレシピ :なんでできたんだろうね?
・ドワーフ達との交易 :ドワーフ品が売れてたら、かな
・面白いものもってこい、作ってやるから! :生活雑貨欲しい
・税金 :タバサさんによると、「これ一個売れたら払えるよ」との事。




