第三十一話:背尾つかさは予想以上の価値に戦慄する
「あんた、これどうやって持って帰って来たんだい?」
「……よいしょって」
ドワーフの集落『岩館』から帰ったわたしは、自分の借りている家に帰ると荷物を置き、まずタバサさんに声を掛けた。
ドワーフたちから貰った物は贈り物ではあるけれど、俺はこういう物が作れるぜ! という名刺代わりでもあるのだとか。
名前を次つぎに言われてしまい目を回してしまいそうだったけど。
『大理石でできたのチェスの駒の人』とか
『帆布に可愛い羊毛フェルト細工つけたトートバックの人』とか
『先籠め式のドングリ弾を発射する空気銃の人』とか
『妖精の歩いた跡がついた銀製の花の人』とか。
作品の内容を言えば誰の事かわかる、むしろ名前や外見より作品を覚えられたい、と言う声が多かったので無理に覚えようとはしていない。
そしてこれらの品物は仕舞い込んではいけない物なのだ。多くの人の目に触れさせないと。
あと切実な問題として、現金がほとんど無い。明日から広場で露天を出すとして、タバサさんの雑貨屋に並べたい物や、タバサさん本人が欲しい物などを選んで貰おうと思うのだ。
そしてわたしの背中は一つで、自作のリュックサックは一つ。
部屋の小さな木製の机には、貰ったトートバックの他にも、金の装飾が施された革張りのトランクや、信じられないほど細かい刺繍の織物に包まれた山ほどの品物があった。
具体的に言うと、身長2メートルの力持ちなクマがいないと持ち運べない位の荷物が。
「まあ、いいけどね」
「いいんだ?!」
「どうせ熊がとか言うんだろ?」
「はい」
タバサさんのミラクル理解力が炸裂する。さすが世話好き。細かい所にこだわっては世話など焼いていられないのだ。
「これ、綺麗なフライパンだね……うわっ持ってみたら嘘みたいに軽いじゃないか!」
「ミスリル製だからですね。コルツフットさんという髭をみつあみにした方の作品です。銀食器とかを主に作られているそうです」
「こっちの飾りボタンは細かい彫刻がされてるね、コンチョっていうんだっけ? 一体いくらしたんだい?」
「バーネットさんという彫刻が趣味の方が作ったコンチョですね。普段はチェスの駒を作っているけど、頼まれれば石でも貝殻でも削って何でも作るそうです」
タバサさんが手に取るもの全ての、製作者の名前と得意分野をスラスラと答えていく。
「つかさ。あんた凄い特技持ってるんだね?」
「いえ、あの、なんていうか。ドワーフの人たちはキャラが濃いのでついつい忘れられないだけです」
無理に覚えようとはしていないとはいったが、覚えていないとは言っていない。
「こっちの武器は雑貨屋に並べてみたいね。このコンチョとトートバックは私が欲しいから買い取りたいよ。いくらだい?」
「……それを手伝って頂きたくて。それは差し上げます」
「値段付けに迷ったら、原価にいくらか乗せたらいいだろう?」
不思議そうにするタバサさんだが、その値段の付け方はドワーフには通じない。
「それだと、すごく安くなっちゃいます。お酒二本と1キロのトリ肉と豚バラ肉が原価なので」
「はぁっ?!」
そうなのだ。わたしが持ち込んだ物は図面の他にいろいろな燻製のサンプル。
あっという間に足りなくなったので、宴会の時の料理はほとんどドワーフの皆さんの持ち込み。わたしは渡される材料をドンドン燻製にして、その合間に茹でたり蒸したり焼いたりしていただけ。
もともと絵の具の材料になるもののサンプルを貰えたらいいな位の交易スタートを考えていたので、こんなに荷物が増える予定はなかった。ジョッキ位の小さな樽にシオニ石と、赤や緑の鉱石の粉を貰ってきているけれど、これが目的だったのだ。
だから、作品の質の良し悪しや好き嫌いはともかく、売れそうかどうかはわからない。なので値段が付けられない。
今度こそあきれ返ったタバサさんと一緒に夜中までかかって、大雑把に値札を付けていった。
質がいいのはわかるけれど、金貨という文字が見えたりしてちょっと怖くなってきた。精巧な品物は日本にもたくさんあったけど、ここにあるのは職人の作った一点物ばかりなのです。思っていた以上に高価な商品になってしまうかもしれません。
トートバックだけ実在します




