第三十話:背尾つかさはドワーフの心と胃袋を掴む
燻製の匂いが流れたせいか、それとも乾杯の声が聞こえたのか。
あちこちからドワーフ達が集まってきた。
「なんだこの酒は」
「おい、その良い匂いの肉を少しこっちに」
「オレガノが酒樽まだ持ってるだろう、あれ持ってこい、足りないぞ!」
次々現れるドワーフ達は、おつまみの燻製バラ肉を一口齧ると一様に「酒が足りない!」と叫んで取りに戻っていく。
わたしは燻製器などの調理器具数点の簡単な図面と、チップを変えた場合の食べ比べ用の試作品を出した後は厨房に引きこもっている。
このドワーフの集落……岩館というらしい……は、パレットの街と違って火事の心配が無い。岩をくりぬいて作った洞窟都市だからだ。その為、あちこちに厨房部屋がある。
アリの巣のように枝分かれした構造になっているらしく、奥に行くほど鉱山に近くて便利なので人気があるのだとか。
もともと、表に近い場所の倉庫の一つを交易品置き場に使っていたが、つかさの意見を取り入れて『誰宛の交易品か』ごとに場所をわけて、その上で作り手の名前を書いた札を付けておいてくれることになった。
この置き場所の整理をしているうちに、ついつい厨房を片付けてしまい、その場で鍋と蒸篭を使って簡単な燻製玉子などを作り始めてしまったため、ドワーフは際限なく集まりつづけ、大宴会になってしまった。
ほんのりほろ酔いになる程度に飲んだ後は、空いたお皿を片付けて洗い、お弁当の実でサンドイッチを覆っていた薄膜をラップ替わりにして茹でて作る簡単ローストビーフなどを作る。
「俺はマーシュってんだ、あの圧力鍋ってのは面白いな、ちょっと作ってみるから次に来た時に寄ってくれよ! このフライパンは俺の作品なんだ、持ってってくれ!」
「おいマーシュどかんか、ワシはオレガノじゃ。ガラスを扱っとる。指輪と髪留めを持ってってくれ。その肉は貰ってくぞ」
せっせと料理を作るたびに、新しいドワーフがあらわれては自己紹介し、自分の作品の自慢をして贈り物を置いていくのだ。なかなか宴会を切り上げるタイミングがつかめない。
『皿を割れ!ビールをこぼせ!せおつかさが困っているぞ♪』
「ホントにやったらファスナーの現物持ってきませんからね!」
『わはははは!』
ドワーフは酒も好きだが目新しいものが大好きなようだ。
あまりみない料理だけでなく、作ってもらえたらいいなと簡単な図を書いて来ていた調理器具や便利グッズをすっかり気に入ってしまったらしい。
自分たちの作品をじっくり見て口を出し、料理をつくれる事でわたし自身も気に入って貰えたようだ。
とはいえ、あの歌は酷いが。ドワーフは悪ふざけも大好きなようだ。
好きな事に夢中になるのは誰でも同じだけど、ドワーフはその傾向が強く、散らかしやで、テンションが上がると大声になって、胃袋が簡単につかめる。お爺さんみたいな外見をしているのに、男の子のような生き物。それがドワーフ達の性質のようだった。
料理を作る傍から食べられてしまうので、かなり働かされておりオロスガノスさんが気にしてくれている気もするけれど、この岩館は赤系のクマちゃんを時折見かける。
火力の強い厨房のコンロにも、鍛冶部屋の炉にも、陶器部屋の登り窯にも、可愛いクマちゃんが居る。その子たちがドワーフの大騒ぎにつられて宴会に混ざり、踊っているのだ。なのでわたしは充分楽しんでいるのでした。
その後も、仕事用の鞄についているファスナーの構造について少し話してみたらぜひ現物を持ってこいと約束させられてしまった。
街で何着も買った服は貫頭衣やトーガの様な物が多く、ひもで結ぶものやボタンで留めるものはあったが、ファスナーは見当たらなかったのだ。
こうして、たくさんのドワーフの気に入るおもちゃを持ち込んだわたしは、山ほどのの贈り物と、上質な鉱石や金属粉のサンプルを持って山を下りることになった。
……クッキー君がいなかったら荷物持てないところだったよ。
つかさの新しいタスク
・ドワーフ達との「おつまみ・鉱石系絵の具材料」貿易
・面白いものドンドンもってこい、作ってやるから!




