第二十九話:背尾つかさはドワーフに気にいられる
勝手に持っていくのは気が引けるわたしと、交渉している時間が勿体ないオロスガノスさんとで取引の方法についての話し合いがドンドン白熱していく。
「俺も皆も、別に損とか得とかどうでもいいんだがな」
髭を毟りながらつまらなそうに言うオロスガノスさん。
「でも、作った物がどんな人の手に渡ったか気にならないんですか?」
「ならんねぇ」
「どんな評価を受けたかとか」
「俺たちゃ自信作だけを完成させてる。作り手が満足したら、その後はオマケだ」
手強い! 両手をグッと絞り込み『がんばって』のポーズで応援してくれるクマたちに親指を立てて継戦の意思を伝える。
「それなら、利用者から『もっとこうして欲しい!』とか『こうだったらもっと良かった』とか、そんな声は聞きたくないですか?」
自分で使うつもりの品物の取引だったはずだが、お互いに納得したい余りに取引規模を拡大させてしまう。こういうのを本末転倒っていうんだよね、知ってる。
でも、わたしの自爆はそれだけじゃなくて、オロスガノスさんの職人のプライドにドロを塗ってしまう物だったらしい。
「俺が満足して仕上げた物に文句をつけたいって言うのか」
すうっと周囲の気温が下がっていく。でも怖くはない。オロスガノスさんが言っていることは真っ当なことだからだ。理不尽な事しか言わないクライアントと交渉するのに比べたらなんてことは無い。話し合いの通じる相手の何と素晴らしい事か!
ドワーフ達がそれでいいと言っているんだから、それ以上は余計なお世話なのだ。だから間違っているのはわたし。
でもわたしは、素敵なハンドクラフト品には感想を言いたいし、自分にも感想や指摘が欲しい!
だからこれは迷惑なわたしのわがまま。
「つけさせて下さい!」
もっさもさの眉毛の中から目を見開いて驚くオロスガノスさん。
「そして、できれば私が持ち込んだこれにも、もっとどうして欲しいか聞かせて下さい」
そう言って取り出したのは自家製の燻製ベーコン。
とりはむも美味しいけれど、豚肉などの脂っこいバラ肉を燻製にしてたっぷりの胡椒を振ると、非常に、非常に、背徳的な味なのです。
匂いを嗅いだらそのまま息を吐くタイミングを失う脂の焦げるいい匂い。水分を飛ばした圧縮されたこってり。どんなグロスよりもくちびるをテラテラにする濃厚な脂身。口の内側がキュッとなる旨味の爆弾。
そこに、蒸留酒。ワインなら赤。ビールなら黒。
「赤よ赤、竈の赤。このお皿の上だけを、20秒だけ熱して」
私の呟きに呼ばれて小さな赤いクマちゃんが現れ、お皿の上で踊り始める。20秒のターンテーブルの間に背負っていたリュックを降ろして次々にお酒を出す。
ドワーフは強いお酒が好きと効きます。それなら良いおつまみを合わせないと勿体ない。お父さんから度々お小遣いをせしめてきたわたしのおつまみ術を、是非味わって貰いたい。
「おい、これはどういう事だ」
「飲みませんか?」
「飲むけどな」
「乾杯~」
「乾杯!」
ドワーフと言えばお酒。もしもこの世界に蒸留酒が無いようなら、蒸留の知識と一緒に度数の高い試作品を作ってくる事も考えた。
しかし、あまり出回ってはいないけれど、ウォッカの様な強いお酒が街にもあった。少し残念ではあるけれど、料理にも使えるし飲めるし、問題は無い。
そしてその強いお酒がドワーフ向けの交易品として使われている事を知ったわたしは、他の交易品をイロイロ調べたのだ。
そして、豪快なメニューを好み、あまり料理に手間を掛けないという事を知り、対策を練っていたのだ!
「わたしは量は余り飲めないんですが、このお酒が合うと思います。でも、ビールで脂を流してもう一度食べると、また一段と美味しいんですよ」
「これは……うん、悪くないな」
頭を振ると、オロスガノスさんはズボンの後ろポケットからスキットルを、取り出して飲む。匂いからすると芋系のお酒かな?
「こいつを食べた後はあんたの薦める酒のがいいな」
「そうでしょう」
もぐもくと燻製ベーコンとお酒を往復するオロスガノスさんにとどめを刺す。
「他にもイロイロあるんですよ」
ピタリと手が止まる。
「勝手に持ってくる方が良いですか? 『これをもっと』とか『これはもう少し濃い味に』とか言いたくないですか? 聞きますよ」
「…………わかった。少し待たせるかもしれんが、呼んでくれ」
「ゆっくり飲みながら待つのでごゆっくりで良いですよ」
「馬鹿なこと言うな。俺の分が減るだろうが」
実はお酒弱いです。
燻製はおつまみにするよりご飯のおかずにすると、おかわりが進みますね!




