第二十七話:背尾つかさはお弁当の実を割る
クッキー君の手を借りて勾配のきつい山道を登っていくと、徐々に岩だらけの斜面に変わってきた。
だんだん大きな木が少なくなってきたけど、これは標高で植生が変わったという事ではない。 そんなことを断言できるのは、目の前に岩を切り出した階段が現れたから。
山道に手すり付きの階段というと、よほどの難所なのかと思うかもしれないけれど、特に崖とかクレバスとがあるわけでは無い。階段は綺麗に磨き上げられ、手すりには彫刻などが入った手の込んだ物なのだ。つまり、『ドワーフの縄張りに入った』という事。だから、山が整備されてる。
木は適度に伐採されて、適度な間隔にヤシの木の様な木が植えられている。
この木は『お弁当の木』と言って、通行人は一人一個までなら好きに採って良い事になっている。一本の木には三つほどの小さめのバスケットサイズの実がなっており、階段の踊り場や整備された街道の脇に生えている。
パレットの街の南門から延びる街道でも、このお弁当の木は植えられているが、あまり利用者は居ない。普通にお店に入って食べた方が温かいものが食べられるから。
ちょうど小腹が空いてきたこともあるので、クッキー君に抱えて貰ってヘタが黄色くなっている実を一つもいでみる。
軽くたたいて真っ二つに割ると、中はお子様ランチのプレートのように三つに仕切られており、一つは薄膜に包まれたサンドイッチが入っている。玉子サンド(関東風)と、チキンサンドだ。たぶん、他の色の物なら他の味のサンドイッチのはず。
二つ目は薄膜で覆われた黒い液体。中空になっている枝がストローになるので中に刺して飲んでみると、シュワシュワした感触が心地よい。ちょっと独特の薬臭い感じのするコーラだ。これもサンドイッチと同じで他の色なら飲み物も変わるはず。
三つ目の場所にはフライドポテト。
簡単なランチならこれで充分。とはいえ、人気が無いのはポテトが冷めているから。こればっかりは仕方がない。火が使えない街なかの家庭でわざわざポテトを温めるくらいなら揚げたてのを買う方がいい。
どんな品種改良をすればこんな植物になるのかと途方に暮れてしまうが、ここは魔法ありありの不思議な世界。お弁当くらいは木になるさ。
そういえばさっき街を見下ろした時、畑はあったけど牧場の様な物は見えなかった。もしかして、ミルクと同じようにお肉も木になるのだろうか。
チキンサンドが気になるんだから、鳥のもも肉や胸肉がなってても全然おかしくはない。合い挽き肉の状態でなっててもおかしくない。
この、微妙に人気のないお弁当の木がドワーフの集落の近くにたくさん生えているという事は、ドワーフ達はこれをよく食べているという事なのだろう。
味より手軽さ。手をあまり汚さずに片手で食べられる食事。何かをしながら食べるのに最適なメニュー。
ドワーフの知り合いはいないのだけど、友人や会社の同僚には物事に熱中すると寝食を忘れる人というのが居た。時間がもったいない、と言う理由で食事を際限なく後回しにする。そんな友人の定番の昼食はラ〇チパックだったなぁ。
そして物語に出てくるドワーフと言えば、小さくてお酒が好きで、そしてなにより頑固で職人気質。
『好きこそ物の上手なり』というこの世界のことわざの通り、この世界では好きな物には祝福があるとか。趣味に熱中する人にとって楽しい法則がある。
おそらく、そんな人達であるドワーフの集落にお弁当の木がたくさん植えられている事に身震いする。
絶対に「混ぜるな危険」の組み合わせだと思う。
山道の階段に猫脚装飾とか付けてしまう人達の熱意がちょっと怖いけれど、きっと気に入ってもらえると信じていろいろ持ち込む準備をしてきた。
取引、上手くいきますように!
お弁当の木、家に何本か欲しいという気持ちが溢れます。




