第二十四話:背尾つかさは山に登る
カルダ君は数日置きにシオニ石を仕入れに行っているらしい。
場所については、もちろん商売上のヒミツだと教えてくれなかったけど、シーナさんのお店に行くとよく会うのでその度に少し話をする内に、彼はポロポロと情報をこぼしていった。
「片道で半日掛かるから泊まりがけになるんだよ」
「シオニ石は重たそうだけど、行きの片道は荷物が軽いんじゃないの?」
「いやいや、仕入れは帰りより行きの方が荷物が重いんだよ。酒を樽で運ぶから」
「お酒? なんで?」
「なんでって、ドワーフ達は酒が好きだから持っていかないと」
「ドワーフさんって頑固なんでしょ? 大変ね」
「大したことないさ! ただ、南の山の中腹くらいにドワーフばかり集まって暮らしている集落があるんだけど、ドワーフは小柄だから天井が低くてよく天井に頭をぶつけるのが……」
聞いた話をフムフムとメモしていたらどこで仕入れているのかはほぼ確定した。横で聞いていたクッキー君とひいろ様も『あちゃー』と肉球のおててで目を覆う程の残念っぷりだった。
少し南に半日歩くと岩だらけの斜面になってくる。この世界には山という物は二つしかないらしく、「北の山」と「南の山」とだけ呼ばれているらしいのけど、そのうちの「南の山」がパレットの街のすぐ側にあるのだ。
カルダ君の脚で半日なのでわたしはもっと時間がかかるだろうとも思ったが、クッキー君に目を向けると『はいはーい』と手を挙げてアピールしてくれた。もちろん乗せてもらうつもりだ。
もちろんずっと乗りっぱなしのつもりはないが、たまに頼らせてもらおう。
そもそもわたしは結構健脚なのです。小さい頃にお父さんが単身赴任していた事があって、その間は母さんと一緒に一日にバスが数本しかない田舎で暮らしていた事がある。
年の近い子供もほとんどいなかったので、婆ちゃんの隠し畑についていっては野苺や枇杷をとって食べていた。
庭に咲いていたツツジの花を、みんなもいで蜜を吸ってしまって怒られたこともある。
そのせいで、小学生の時に都市部に引っ越してからも、つい学校の花壇のサルビアを吸いつくしてしまったりもした。朝礼で校長先生が『今日は悲しいことがありました』と花壇が荒らされた話をしていたが、こっそり花の蜜が目当てだったと謝りに行ったら給食のジャムの残りをくれたりした。
甘いものが欲しいんじゃなくて蜜の甘い花は食べ物としてみてしまうだけなのだけれど。
そんなわけで、山でおやつを調達していた関係上、足は鍛えられているのです。三時には家に帰っておやつを食べなければならないので、かなり速足で歩きまわった覚えがある。
……甘いものには人を動かす力がある。
私の場合は甘いものと可愛いものが原動力なのだけれど。
わたしがドワーフの集落に行こうとしているのも、実は可愛いものが関わっている。可愛いと言えばクマだ。
わたしはシオニ石の他にも鉱石を掘っているというドワーフから直接鉱石を買って、自力で絵の具を作ろうと考えているのです。中央広場で見かけた絵の具の値段は金貨が必要なお値段だったので。
絵の具があればおそらく赤いクマちゃんも呼んだ後にそのまま居残ってくれると思うんだよね。
そんなわけで、探検家風のポケットの多い厚手のベストにゲートルを巻き、頑丈なブーツを履いたわたしは荷物を背負って出発の準備完了。最初に買ったズダ袋も、リュックサック風に改造してある。
中身は水袋にお弁当、光石、山登り用の杖と念のための薬。そしておやつとドワーフ相手の取引用品。
買い付けというよりピクニックのような装備だがしかたない。タバサさんに心配されながら、クマ二人を連れて森を抜け、山に登っていく。
細いくねくねとした山道をドンドン登っていき、周囲の植物の植生が変わってきたあたりで休憩を取る事にする。
ふもとの方では木々の背も高くあまり視界が通らなかったが、数時間も登ると木々の背は低くなり、岩肌が目立ってくる。
山の頂を仰ぎ見て、今度は今まで登ってきた道を振り返り、パレットの街を一望する。
あれ。なんか変だぞ。
山に登って高い所から街を見下ろしているのに、なんだか、街が谷底にある様にみえる。今私が居るのが二つしかない山の一つのはず。パレットの街は谷間にある街とは聞いていないのに、景色がおかしい。
ようやく気が付きました。
夜中に外を見れば星も月も無い事がわかるのですが、夜更かしさせる理由がおもいつかず。




